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フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.4「税に苦しむ街の民」

はじめに

 ヘッダーに出てくる最後の一人の登場です。
 (本格的に絡むのは次回)

 では、どうぞ。

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第1章 第4話
第4節「税に苦しむ街の民」

 ようやく落ち着いたアルフ達は店の亭主に頭を下げていた。

「本当、申し訳ありません」

「今はお客さんがいないから良かったけど、気をつけてくださいよ」

「すまない」

「それで、話を聞かせていただけますか?」

「ああ、そうだったね。で、何を聞きたいんだい?」

「はい、やはり、この町は何でこんなに高いんですか?」

「やっぱその話か……」

「ええ、商売をやっていくには必要な事ですので」

「とりあえず、この街で商売をやる人間は領主に税金と上納金を払わなきゃならないんだ」

「上納金?」

「ああ、うちらみたいな商売やってる人間は定期的に一定額領主に金を納めにゃならんのだ」

「税金の他に?」

「ああ」

「そんな話聞いた事無いんですけど、そんな横暴な事あるんですか?」

「普通ないよねぇ。だから私達も反対したんだが、その反対した何人かは領主様が雇った護衛に連れ去られてしまって……」

 宿の亭主はゴクリとつばを飲み込む。

「その翌日、川で無残な死体となって発見されたそうだよ」

「うぇ、酷ぇ話だ」

「で、結局。俺達は領主に逆らえないまま、今に至るのさ」

「でも、そんなに酷いなら帝都に陳情すれば……」

「しようとした人も何人かいたが、皆同じ目にあったさ」

「そんな……」

 ショックを受けたフリ・・をするイルムガルト。
 いや、多少なりとも驚きはあるのだろうが、すでに情報を把握しているであろうイルムガルトはその演技の内側で、どういう理由をでっち上げて、この街の領主を失脚させようか頭を働かせている。
 絶大な権力を持つ教会でも、国に介入するにはそれなりの理由が必要で、主に教会が有無言わさず介入できるのは、それに『魔』が関わる場合である。

「……そういうワケでうちもこの街じゃ安い方さ。むしろ真っ当な・・・・宿じゃ一番安いんじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「悪いことは言わない。商売するんなら他の街でやった方がいいぞ」

「そうですか。貴重な話、ありがとうございます」

「いやいや、いいんだよ」


「じゃあ、行きましょう」

「あ、ああ」


 亭主の話を聞き終え宿を出たアルフは、すっかりキャラの変わったイルムガルトに疲れ果て、道端でしゃがみこんでしまった。
 緊張の糸が切れたようだ。

「あれはイルじゃない。イルじゃない。イルじゃない……同姓同名の似た姿の別人。同姓同名の似た姿の別人……」

 ブツブツと自己暗示を繰り返している。

「『イルじゃない』か……」

「あ、いや……」

「うん。そうね。じゃあ『イーナ』とでも名乗りましょうか」

「へ?」

「それじゃ、イーナって事で、よろしくねお兄ちゃん」

「おい、ちょっとまて。頭が追いつかない!」

「いーの。それじゃ、情報収集。しましょ?」

「てか、お前キャラぶれてねーか!?」

「ほーら、いーの、い・く・のー」

 ずりずりとアルフを引きずるイルムガルトことイーナ。

 表情や声色は別人にみえても、人をぞんざいに扱うそのやり方はやっぱりイルムガルトだった。
 現実逃避も許さないと言わんばかりに別方向から本人性を主張してくる。

 アルフはやがて考えるのをやめた。

「おお、アルフ君じゃないか?」

 街中を引き摺られている最中、聞いた事のある声に呼び止められた。
 アルフは振り返る。
 そこには、また懐かしい顔がある。

「ハーヴ?」

「いや~、会えてよかった」

「村を出られたのか!?」

「ああ、あの後タルモさんの娘さんが来てね。助けてもらったのさ」

「そうか、タルモさんの……」

 そういえばと、娘さんが近々帰省すると話していたのを思い出す。

「ああ、そうなんだよ。で、彼女はイル君かい?」

「おっひさ~」

 満面の笑みでそう返すイルムガルト。

「!? ど、ど、どうしたんだい!?」

 流石のハーヴも動揺を隠せないようだ。

「実は、俺も何がなんだか……」

 アルフはとりあえず状況を説明した。

「うん、さっぱり分からないけど、分かったよ」

「そうか、助かる。これ以上説明の仕様が無い」

「も~、しっかり説明してよね」

「お前がしろよ!元凶!!」

「い・や」

「くそっ!」

「ところで、ナナ君は?」

「ああ、今知り合いに連れられて街を巡ってる」

「そうなのか。挨拶したかったんだけど」

「一緒に来るか?」

「いや、これからタイナ君と帝都に行くんだ。急いで話をしなければいけないしね」

「タイナ?」

「ああ、タルモ君の娘さんだよ」

「ああ」

「これから彼女と合流する予定さ」

「そっか」

「なら、なおさらナナを連れて行けばいいんじゃない?私達と来るより安全だし」

「ん~、ナナ君がいればそうしようと思ったんだけど、もう馬車が出る時間だからね。これ以上待たすわけにはいかないし」

「そっか、残念だ」

「じゃあ、そういうワケで、ナナ君を引き続きよろしくお願いするよ」

「ああ、またな」

 そう言ってハーヴは去っていった。

「そういえば、ユミリアはナナと何処に言ったんだ?」

「そ・れ・も。聞いてみましょ♪」

 軽くウィンクするイルムガルト。

「お前、ユミリア達の前でもそのキャラでいくのか?」

「も~、何度も言わせないで。この街ではこのキャラな・の♪」

「あっそ……」

 アルフ達は何件かの店に話を聞きながら街を歩いている。
 華やかな町並みではあるが、路地裏の辺りには浮浪者のような人間がちらほら見える。

 いかにもな無精ひげを生やした老人が眠りこけ、ボロ布をかぶった子供が物乞いの目で通路を眺める。娼婦然とした女性が男を物色し、ローブを目深にかぶった小柄の少年が路地裏でうなだれて座っている。

 やはり、華やかな表通りほどで伺えるような見た目ほど治安は良くないだろう。

 露天の串焼き屋で何件目かになる話を聞く。

「ん~、やっぱ厳しいな。安かったら税を払えないし、値を上げても人が離れていくからね。この値段でもギリギリで、うちも何時いつつぶれてもおかしくは無いんだよ」

 どうにかならんもんかね。とため息をつく店主。

 やはり、どこも税の上がり方が異常であり、上納金と呼ばれる金を収めなければならないとしぶしぶ領主に金を支払っているので、提供している値段は高くともギリギリの価格設定で仕方ないという話だ。

「そうなんですかぁ。ありがとうございます」

 イルムガルトは軽々と礼をする。

「あ、それと、もう一つ」

「ん、なんだい?」

「ここで女の子を見ませんでしたか?見るからにボロボロの服を纏った。これまたボッサボサで白い髪をした女の子なんですけどぉ?」

「あ~、その子なら小さな女の子とウチで串焼きを買って言ったよ」

「ビンゴ!」

「その子ですー。何処行きましたか?」

「ああ、その子なら、向こうの路地裏に入っていったよ」

「路地裏!?」

「あのバカ、悪い癖がでたわね」

 振り向いてボソっと呟くイルムガルト。
 表情がそのまま笑顔なのがまた怖い。

「イ……イーナさん、素がでてる。素がでてる」

「聞かれちゃいないわ。でも、そうね少し気をつけましょう」

 ユミリアが路地裏に入った理由。
 大方喧嘩を売りに言ったのだろう。
 あの戦闘狂(バトルジャンキー)なら十分ありえる。
 情報収集もそこそこに、路地裏に向かう事にした。

「わかりました。ありがとうございます。では、これで串焼き4本お願いですか?」

「おお、四本も買ってくれるのかい?ありがとうよ」

 そう言って露天の店主は串焼きを四本渡す。
 締めて8エレである。

「いやぁ、これで今日も食いつなげるよ」

 そう言って笑顔で手を振る店主。

「これは相当ヤバイな……」

「そうね」

「で、ユミリアを探すのか?」

「そうね……ところで後ろを付いてきてるアナタ。私達に何の用?」


 アルフ達の後ろには路地裏でうなだれていた少年が立っていた。

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