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フヴェルゲルミル伝承記 -1.3.5「岩の巨人」

はじめに

 前々回あたり前書きでこんな事を言ったのですが、むしろこのまま書き続けて、投稿サイトの方は再度推敲してから投稿した方が時間が空いて冷静に見れて良いのではないかと思いました。

 では、どうぞ。

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第1章 第3話
第5節「岩の巨人」

 広場から先に進んだ一行は再び暗い道を進んでいた。
 洞窟は彼らが思っていた以上に長く単調だった。

「ったく、いつになったら出られんだよ」

 アルフがうんざりした調子でぼやく。

「確かに、雑魚しかいないとつまんないなぁ」

 岩の蜘蛛を踏みつけながらユミリアが同意する。

「お姉ちゃん、いつもそれだね」

「まぁな。ってか、ユミリアでいいって。どっちもお姉ちゃんじゃわからないだろ?」

「うん、ユミリアさん」


「イル、どうしたんだ? さっきから黙り込んで」

「妙だと思わない?この洞窟」

「いや、妙な事しかなくて、何が何だかんだ」

「天井が高すぎるし、道が直線的過ぎる」

「そっか? 確かに天井は高いが、道はデコボコしてるし、人工的なモノには見えないが」

「そう。道を見ればそうね。じゃあ、私達が通って来た道は? 何処か曲がりら角とかあった?目の前の道は?カーブしてる?」

「そういう事か……」

「ええ、意図的にそうしてるのか、それとも天井程の高さの何かがここを通ったのか」

「お、おいおい、いくらなんでもそりゃ無理がないか?大体、この高さのヤツが、通ればこんな洞窟崩れるんじゃ……」


 その時、嫌な考えが頭を過ぎった。
 むしろ予感と言い換えても良いだろう。

 頭上からパラパラと砂や小石が落ち、左右には数本の光の柱が弱々しく降りている。

「ナナ!」

 上を向こうとし、ほぼ直感的にユミリアがナナの襟首を掴んて飛び退いた。
 直後、岩の塊がナナのいた場所を通り過ぎた。否、それは手だ。岩石で組み上げられた巨大な右手だ。

「ゲホッ、ゲホッ」


「ナナ!ユミリア!」

「アルフ!」

「チッ!」

 アルフは槍を構え、イルムガルトの前に立つ。前方より巨大な左手が殴りかかってきた。アルフの槍は岩肌に突き刺さる。しかし、巨腕にとってそれは虫の一刺しに等しい。止まらない。止まるはずがない。
 その力にアルフの足は地を離れ、宙に浮き、岩ごと後方に押し出される。
 マズいと思うが足が中に浮いた状態では力が入らない。このままだとアルフは壁に衝突し、岩石の手に押し潰されてしまうだろう。

 アルフが壁に叩き付けられようとするまさにその時、岩の手は動きを止めた。見れば、イルムガルトが鎖で動きを止めていた。

「イル!」

「あら、生きてたのね」

「おかげさまでな」

 ふと、見れば、イルムガルトから岩に鎖が伸びている。
 腕の付け根に光る赤い光は魔石だろうか。
 その石からは植物の蔦のようなコードが伸び、光が走っている。
 まるで魔石から魔力が流れているようだ。
 イルムガルトの鎖はその石に絡みついている。
 おそらく、腕は石から離れる事ができないのだろう。
 そこからアルフは、石が弱点だろうとふんで、魔石を破壊する。すると、岩の手も崩壊した。

「なるほど、これが弱点って事か」

「アルフ!イル!」

「ユミリアか」

 ユミリアナナを抱えてがアルフ達のもとにやってくる。
 どうやらユミリアも魔石を破壊したようだ。

「まー、弱点見え見え出し、たいした事ないな」

「油断しないで、『本体』が来るわ」

「本体?」

 イルムガルトは黙って上を指した。

「マジかよ……」

 見上げれば巨大な顔がアルフ達を見下ろしていた。
 髑髏《どくろ》にも見えるその顔の双眸に同じような輝きを放つ魔石がはめられていた。
 岩の巨人がその巨体を震わせると、瞳の光が一層輝いた。
 天井が崩れる。岩の塊が土の雨を纏って襲ってくる。

「皆、俺の所に!!」

 イルムガルトとナナを抱えたユミリアがアルフの所に跳躍する。
 三人が近くに来た事を確認するとアルフは槍に魔力を込めると、天に向け魔力を放出する。

 雷光の柱が天を貫く。

 暗い洞窟に光が差し込む。
 青い輝きが目に痛い。
 どうやら岩の塊は跡形もなく蒸発したようだ。

 巨人は未だにそこにいる。彼らを見下ろしている。
 しかし、今の衝撃で体は頭の重量に耐えられなくなったようだ。
 すぐに首が折れ、頭が落下する。

 アルフ達の目の前に顔が落ちる。
 顔は正面を向き、アルフ達を覗き込むように見据えている。
 すると、その目から、どろりと魔石が落ちた。
 魔石に絡みつく蔓は魔石を支えるように巻きつき、胴体を形作る。
 赤い魔石は蜀台のように輝き、細い蔦の体に鎮座している。
 まるでそれはできの悪い針金人形だった。
 それが、二体。
 彼らはやはり操り人形のような滑稽な動きでアルフ達から距離を取る。
 同時、巨岩の魔物が突撃を開始した。

「遠隔操作!?」

 イルムガルトは驚きながらも、魔力切れを起こしたアルフを鎖で引き寄せ、射線から逃がす。
 通り過ぎた顔面は折り返し、再び襲ってくる。
 ただ、体当たりするだけでは無い。巨顔はその口から岩石の砲弾を連続で打ち出す。

「はっ、いいねぇ、そういうの!!」

 ユミリアは自分の手首に真一文字に付けられた傷跡から血を引き抜いた。
 血は空中で剣を形作る。
 色は赤色から紺碧へと。
 一瞬でアルフと戦った時と同じ紺碧に透き通る刀に似た形をした剣が出来上がる。
 迫り来る岩の塊をこれまた縦に真っ直ぐ斬りつけた。
 その程度で岩を切断できるはずもない。
 ユミリア以外のこの場にいる誰もがそう思った。

 しかし、予想外の事が起きた。
 飛んできた岩はそこでピタリと動きを止めたのだ。


「ルーンの秘術、その第十一番『イーサ』」


 ユミリアが告げる。
 動きを止めた岩は後続の岩と衝突、後続の岩を次々と砕いた。
 巨顔は進路を変え、ユミリアを狙う。
 ユミリアは刀で再び岩を斬ると、岩が再び猛烈な勢いで通り過ぎた。
 まるで止まった時間が再び動き出したかのようだった。
 ユミリアは別方向から来る岩も同じ手順で岩を防いだ。
 だが、このままではジリ貧だろう。

 イルムガルトにおぶられたアルフは思案する。
 おそらく本体はあの魔石だ。
 だが、ユミリアが気を引いている間、イルムガルトは何度も魔石の破壊を試みている。
 しかし、巨顔の攻撃や、魔石がすばやい事もあり、ことごとく逃げられてしまっていた。
 アルフを降ろせば捕捉も可能だろうが、今は無理だろう。
 何せ、先程アルフがそれを提案したら。

「アナタも『お仕置き』されたい?」

 そう言われてしまったのだから。

「イル……」

「黙ってて。まだ動けないでしょう?」

「指示は、出来る」

 アルフはイルムガルトに耳打ちする。

「俺の指示通りに……そしたら……」

「分かったわ」


 ユミリアは岩を止め、砕き、回避し、何とか立ち回っていた。

「いやぁ、キリが無……っ!」

 ユミリアは咄嗟に抱えたナナを上空に放り投げた。


「ええぇぇえぇぇぇ!!?!?!!!」


 直後、ユミリアの脇を岩の塊が通り抜けた。
 岩の位置を微妙にずらし、死角から攻撃してきたのだ。

 落ちてくるナナをキャッチ。

「ふぅ、危ねぇ……」

 汗を拭う仕草をするユミリア。
 ナナは放心しているようだ。

「ん、おーい、生きてるぞー大丈夫だぞー」

 岩の砲弾をよけながら頬をぺちぺちと叩くユミリア。


「ユミリア!」


 振り向いた先に、イルムガルト。
 立ち位置はユミリアの止めた砲弾の射線上。

 それだけでユミリアは理解する。
 ユミリアは即座に岩石の静止を解除する。
 イルムガルトは射線から飛び退く様に避けるとそこには魔石の針金人形。

 岩の速度に魔石は回避叶わず、衝突。魔石が砕け散った。

 巨顔の動きが明らかに鈍る。
 ユミリアが巨顔を縦に斬りつける。
 巨顔の動きが止まる。
 もう一体の魔石は逃げようと走り出す。

 その背後から、槍が貫く。
 アルフが投げた槍だ。
 砕けた魔石を食べ、無理やり魔力を回復して撃った一撃だった。

「アナタ、無茶するわね」

「はっ、傭兵時代の知恵ってヤツだ」

 こうして岩の巨人は沈黙したのだった。

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