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フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.5「無機質な少年」

はじめに

 今日から再会です。
 よろしくおねがいします。

 では、どうぞ。

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第1章 第4話
第5節「無機質な少年」

 アルフ達はユミリアの入っていったという路地裏に来ていた。
 そこで、少年に話を聞いているが

「……」

 少年はずっと黙り続けていた。
 アルフ達は埒が明かないと、歩き出すと、少年もまたあるきだす。
 ローブを目深にかぶり、その表情はよくわからない。
 彼は路地裏にしゃがみこんでいたと思えない程、身なりがしっかりしていた。
 漆黒のローブには装飾が施され、まるでローブが誕生日プレゼントの包装紙のように彼を包んでいた。

「ねぇ、アナタ何で私達に付いて来てるの?」

「……」

 少年は相変わらず黙り続けている。

「なあ、キャラ戻ってないか?」

「今それ聞く?」

「いや、この街じゃキャラ作ってるんだろ?」

「今は他に人もいないし、問題ないわ」

「あっそ……」

「それにしても、微動だにしないわね……」

「まあ、いいじゃねーか。とりあえずそいつは後回しにしてユミリアを探さないか?」

 アルフはイルムガルトに提案すると、ようやく少年は反応を示した。

「ユミリア……」

「お、お前ユミリアを知っているのか?」

「主」

「あるじ?」

 少年は頷いて顔を上げる。
 アルフ達は少年の顔を見た。

 病的に白い。というより死人のそれに近い血の気の無い青白い肌。
 その目に生気はなく真っ直ぐにこちらを見ているのに何処を見ているのか分からない不気味さがある。
 その瞳は赤と青のオッドアイ。

 『青と赤で違うオッドアイを持つ、黒いローブを羽織った黒髪の男の子』

 これがユミリアの連れというルネだろうか。

 いろいろな意味でユミリアと彼は真逆だった。

 女性と男性。
 白と黒。
 ボロボロの身なりと丁寧に纏うローブ姿。
 すぐに暴走する戦闘狂と何かあるまで全く動く気配の無い人形。

 どう見ても合わない組み合わせにも見えるし、真逆故にこれ以上ない位しっくりくるようにも見える。

「お前、ユミリアが言ってたルネか?」

「そう、呼ばれてる」

「そうか。だから俺達に連いてきたのか?」

「……」

「いや、黙ってちゃ分からねーよ」

「……」

「……私達、ユミリアと合流するつもりなんだけど、一緒に来る?」

 ルネは頷いた。
 どうやら、ユミリアに関する事柄以外、一切反応しないようだ。

「にしても、どうやってユミリアを見つけようか……」

「路地裏を片っ端からっていうのも現実的じゃないわね」

「乱闘」

「は?」

「乱闘を起こせば出てくる可能性が高い」

「いや、あの戦闘狂ならそうだろうけどさ」

「家を二、三軒壊す」

「やめなさいよ?」

「?」

 ルネは首を横に傾ける。
 手っ取り早くユミリアをおびき出す手段があるのに何故止めるのかと言いたげな仕草だった。

「とにかく、こんな街中で……」

 その時、遠くで爆発音が轟いた。
 その音に振り向くと、遠くで、土煙が舞っているのが見える。
 本当に家が一軒壊れたようだ。

「ちょっと、何があったのよ!?」

「俺達の泊まってる宿の近くだ! 行くぞ!!」

 アルフ達は駆け出し、ルネもそれに続いた。
 ただ、彼らが走っているのに対し、ルネは歩いている。
 構っている暇はない。足を緩めず現場へと向かう。
 大通りを出た時にはすでに、ルネの姿は見えなくなった。

 現場に辿り着いたアルフ達が見たのは巨大な猪の魔物だった。
 見上げる程の巨体。
 それが宿の前の家に突き刺さっていた。
 二階建ての家と同じぐらいの巨体が、瓦礫の下敷きになって伸びていた。
 おそらく、その巨体で家に衝突した衝撃で伸びたのだろう。

「でけぇ!?」

「マズいわ。あんなのが起き上がったら回りの家もタダじゃすまない……」

「イル、お前の毒で止められないか?」

「毛が硬い。針を刺すには皮膚部分に刺す必要があるけど……」

「猪みたいだし、皮膚が出てそうな場所は鼻か……」

「瓦礫に埋まってるわね」


 猪の筋肉の僅かな動きに反応し、瓦礫から小石がコロコロと転がる。

「いけない、目覚めるわ」

「チッ……!」

 その時、突如魔方陣がまるで首輪のように猪の首に纏わり付いた。
 魔方陣は見る見る縮小し、それはまるで首を締め付けるような動きだった。
 猪はピクリとも動かない。
 魔方陣の首輪はそのまま猪の首に吸い込まれると、猪の首は吹き飛んだ。
 周囲に赤い液体を撒き散らし、暴れる事なく事切れた。

 アルフ達は後ろを振り向いた。
 そこにはルネがいた。

 ルネの手から魔力の残滓が立ち込めていた。
 おそらく猪の首を飛ばしたのは彼だろう。
 ルネの刻んだ魔方陣の形は複雑で、アルフはもとより、イルムガルトにも判読できなかった。
 だが、彼らはその魔方陣に近いものをどこかで見たような気がしていた。

「猪肉……」

「食う気か?」

「ユミリア、来る?」

どうやらこの猪肉を料理したらユミリアが釣られて来るのではないかという事を言いたいらしい。

「知らん」

「……」

 黙り込むルネ。
 心なし残念だと落ち込んでいるように見える。

「とりあえず、この場を片付けましょう……これじゃ『ユミリアを探すどころじゃないわ』」

 その言葉に反応したのか、ルネが再び魔方陣を発動した。
 魔方陣が猪を取り囲むと、猪は瓦礫毎その姿を消した。
 街の人達は何が起こったのかわからない。
 軽くパニックを起こしているように見える。

 ルネの魔方陣。
 それを何処で見たのか、アルフは思い出した。
 城塞都市で死に掛けた時、飛ばされたあの魔方陣だ。
 『転移の魔方陣』
 ルネは猪の首から先だけを転移魔法で吹き飛ばしたのだ。
 なかなかに恐ろしい事をするものだとアルフは思った。

「あの子、相当高度な魔術師ね」

 魔法を使うにはいくつかのパターンが存在するが、その中でも大規模で複雑なのが魔方陣を描く方法だった。
 魔方陣は地面や紙に魔法式と呼ばれる魔法を使う為の呪文を描き、そこに魔力を流す事で発動させる事ができる。魔方陣に注ぐ魔力は蓄積していく為、正しい魔法式を刻み、と正しい種類の魔力を正しい比率で注ぐ事が出来れば、素人でも強大な魔法を発動できるという特徴がある。
 それを自身の魔力だけで空中に魔方陣を描き、あまつさえ、アルフが城塞都市で見るまで眉唾と思っていた幻の転移魔方陣を発動して見せたのである。

 アルフからしてみれば『相当高度』なんてものじゃない『異常』な力としか形容できない力だった。


 黒いローブを纏った少年は相変わらず無表情で突っ立っていた。

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