フヴェルゲルミル伝承記 -1.5.3「ルネの力」
はじめに
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第1章 第5話
第3節「ルネの力」
アルフ達が砦に入る。
暗い砦の中を、蜀台の光が弱々しく照らしている。
堅牢な壁に囲まれた内部は重々しい圧迫感で満たされていた。
そんな砦の中はまさに死屍累々といった有様で、悪臭とうめき声がそこら中に漂っていた。
「うっ……」
余りの臭いにナナが口を覆う。
「だ、誰だ!?」
兵士の一人が、声を上げる。
「私は教会のイルムガルト。砦の状況を聞き馳せ参じました」
「あ、申し訳ありません!イルムガルト様」
「状況は?」
「ご覧の有様です。まだ、戦えるものはこの先で時間を稼いでおります」
「そう」
「トルデリーゼ様の命でここはバリケードで守られておりますが、ここもいつまで持つか……」
「やっぱりあの子も来てるのね……」
「この砦もいつまでもつのか……イルムガルト様、折角来ていただいたのですが、撤退して下さい。アナタまで失われたら、我々人類は……」
「撤退はありえません。ここから砦を奪還します」
「そんな!いくら貴女でも!!」
「大丈夫です。アナタもゆっくり休んで下さい。同胞がこの場の治療に当たらせてもらいますので……」
「はっ……」
そう言って兵士は下がっていった。
「お姉ちゃん、すごい」
「はぇ~、アンタ、偉いんだな……」
「やっぱ、その口調違和感あるんだよなぁ……」
「はい、アナタ達。無駄口はそこまで。ナナはここで負傷者の治療、ヴィズルはナナの護衛を任せるわ」
「う、うん」
「任せとけ」
「俺は敵の掃討でいいか?」
「ええ。私は司令室に向かいながら、残された人達の救助と再編を行う」
「あとは、コイツをどうするかだが」
「転移の能力は使えるわ。私達の伝言役となってもらえれば助かるのだけど」
「……」
ルネは無言で答えようとしない。
「ダメかしらね」
「ルネ。伝言役、頼めるか?」
「了解。代理の意図を解釈。個人間の共有が最重要と判断。接続コード《共有レベル》1100000を推奨。共有を行えば、伝達速度の著しい向上が見込めます。行いますか?」
「? よく分からないが、やってくれ」
「ちょっと、そんな簡単に!」
「承認。サンゲタル権限取得。ヴァラスキャールヴ解除。『鴉』の使用を申請……承認。フギン接続開始……同期、同期、切断、切断、切断、切断、切断……全行程完了。ムニン接続設定……全行程切断。完了。効果範囲指定……完了。フリズスキャールヴの接続設定を完了。生体接続による特殊セイズ干渉を開始します」
ルネから魔法陣が展開され、四人を包み込んた。
魔方陣が彼らに吸い込まれるように消えた直後、強烈な目眩と、脳をかき回される感覚が襲い来て、猛烈な吐き気が込み上げる。
「うっ、おえぇ……」
耐えきれず、ナナが嘔吐する。
他の三人も立っているのがやっとの状況だ。
「はぁ、はぁ、何だ、コレ」
アルフが声を発すると、四方から自分の声が聞こえ、目に映るものから逃れようとヴィズルが頭を振ると、アルフの視界も揺れる。そして、視界の端に自分が映る。自分の目で自分を見る不気味さは何とも堪え難いモノがあった。
「気持ち悪ぃ」
ヴィズルも壁に手を付き、口に手を当てている。
「な、るほど……視覚と、聴覚を共有、させたのね」
イルムガルトがよろめきながらも状況を分析する。
「だが、こんなんじゃ、歩くのもままならないぞ……」
「まぁ、確かに……今、やる事じゃないわね……」
「て、ワケだから、ルネ。これを止めてくれ」
「承認。全同期終了。権限返上。セイズを解除します」
「はぁ、はぁ……」
「う~……」
「ったくよぁ、勘弁してくれ……」
「なかなか、興味ある力だったけど、それは後にしましょう」
「ああ、折角やってもらったのに悪いな」
「謝罪は不要。解析終了。これの使用を推奨」
ルネは拳大の水晶を三つ取り出し、アルフ達に渡す。
「これは?」
「解説を希望と判断。水晶を持ちながら同期したい相手を想像します。すると、相手の視覚および聴覚と共有が可能です。解除方法は意識を対象者から切り離すか、水晶を手放す、もしくは破壊する事で解除されます」
「お、おう……」
「なるほど……」
イルムガルトがじっと水晶を見つめる。
突如、アルフは視点が二重に重なったような感覚を覚えた。
「うおっ!?」
「確かに、これなら連絡しやすいわね」
イルムガルトが
「急にやるな」
「使う時は急なはずよ。少し慣らしておきなさい」
「そうかよ」
「じゃあ、イルがさっき言った通り、ナナとヴィズルはここで負傷者達の治療。俺達は中の人達の救助と魔物の駆逐。特に、イルは司令部をめざし、俺は魔物の掃討を中心に行う。ルネは俺に付いてきつつ、必要なら各所のサポート。それでいいか?」
「ええ」
「おう」
「う、うん」
「了解」
「ルネ、という事で応援が必要な時は無視せず、その人達の言う事を聞いて欲しい」
「ユミリアよりアルフを代理と命じられている。それが命令なら指示を受ける」
「そうかよ……」
ボリボリと頭を掻くアルフ。
どうにも、主体性のかけらもないルネにやり辛さを感じている。
「まあ、とにかくがんばってきてくれやお二人さん」
ヴィズルが適当に手を振ってそんな事を言う。
「アナタも油断しないようにね。敵が来ないとも限らないんだから」
「へいへい」
アルフとイルムガルトはしばらく進むと、棚や寝具でバリケードを作り、扉を封鎖している場所に辿り着いた。
砦の奥に進むのには、ここを通る必要がありそうだ。
「これをどかすのか……」
「壊すのはもっての他よ」
「わかってるよ。ここに穴を開けたら魔物が入ってくるかもしれないって言いたいんだろ」
「わかってるなら良いわ」
「でもどうやって進むんだ?」
「ルネに向こう側に渡してもらいましょう。アルフ」
「お前、本当にいいように使うな……」
「それが一番なら」
「はぁ、そうかよ。じゃあ頼むわ。ルネ」
「了解」
ルネが魔方陣を展開しアルフ達を包み込んだ。
魔方陣が消えた時、三人は始めからいなかったかのようにその場から姿を消した。
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