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フヴェルゲルミル伝承記 -1.3.2「滝の下にエルフの少女」(後編)

はじめに

 今更ながら、アルフやイルムガルトの容姿を登場時にもう少し事細かく描写すればよかったと思いました。

 では、どうぞ。

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第1章 第3節
第2節「滝の下にエルフの少女」(後編)

 イルムガルトはそのままエルフの少女を縛り、アルフと共にナナの場所まで戻って来た。

 全身が拘束具または拷問具で固められているイルムガルトにとって一人拘束するぐらいは容易い事だったらしい。

 見れば、痩身のエルフは病的に肌が白く、その肌よりもまだ白く長い髪。美しい色合いの髪はしかし、まとまり無くボサボサで、あちこち跳ね返っている。

 服装もズタボロのローブを羽織り、中に来ているであろうワイシャツと思われる衣類はボタンが全て取れている。胸にはサラシだか包帯だかの布が巻かれており、青いリボンはシャツの襟を通さず、首に直接巻いている。さらにスカートは完全に破れきれており、腰巻のように結んで何とかはいているといった姿だ。

 さらに今はイルムガルトに拘束されているせいで、アルフは何とも背徳感満載の気分にさせられているのだ。

「あ、あの、えっと……このお姉ちゃんは?」

 唐突に連れてこられた珍客にナナは戸惑っていた。
 戸惑うのも無理はないというものだろう。

「ユミリアだ。ボクの名はユミリア・ブラーナ。よろしくな坊」

 気さくに返事をする白いエルフの少女ことユミリア。

「あ、はい……よろしく、おねがいします?」

「はは、可愛いなぁ、君」

「え、ええ……!?」

「で、アナタは何で襲ってきたの」

「興がノって」

「は?」


「いやぁ、仕方ないだろ?あの魔物共、手応えが無くって物足りなかったんだよ。で、ふと見たら珍妙な魔物共がボケーっと突っ立ってるじゃないか。だから襲わざるを得なかった」

「誰が魔物だ!」

「いや、君ら、自分の姿見てみろよ。遠目からのシルエットだったら立派な魔物だぜ?」

 肩から奇妙なツノを生やし半分に破れたボロボロのコートを纏った男と、蛇が纏わり付いたようなデザインの奇妙な鎧を着た女。

「否定できないわね」

「しろよ! ってか奇抜さならアンタも負けてないだろうが!」

「ボクも否定はしない。お互い襲う要素はあったって事だ。こりゃ仕方ないね」

「仕方なくねーよ!ってか、俺達は襲わなかっただろうが!」

「そっか? まあ、細かいことは気にしても仕方ないだろ?」

 やれやれと言わんばかり言うユミリアに若干の苛立ちを覚えるアルフだった。


「にしても、まさか、あの初撃が防がれるとは思わなかった。ついつい楽しくなったんだ」

「お前な、そんなんで殺されたらたまったもんじゃないぞ」

 その突拍子の無い言い分に頭が痛く鳴るアルフ。
 イルムガルトもため息を吐いている。

「ん、そうか?死んだら死んだで仕方ないし、運が悪かったって事で」

「んなんで納得出来るか!!」

 アルフはユミリアの頭をぶん殴った。

「ってぇ、ったくいきなり殴んなよ」

「いきなり襲いかかるヤツが言うな!」

「つっても、君もボクを殺る気だったろ?」

「そりゃ、殺らなきゃ殺られてただろうが」

 アルフはもう一発ぶん殴ろうと拳を握るが、イルムガルトがそれを押さえる。

「はい、そこまで。キリがないわ」

 そう言って、イルムガルトはユミリアの方を向く。

「とりあえずアナタは『お仕置き』するとして」

「え?」

「アナタもアナタで頭に血が上りすぎよ。少し落ち着きなさい」

「ま、まあ、そうだな……」


「じゃ、行って来るわ。ナナをよろしく」

「お、おう」

「え!? ちょっ、ま……!」

 ユミリアがイルムガルトに連れられ、森の茂みに消えていった。
 取り残されたアルフはナナと顔を見合わせる。
 アルフはそっとナナの耳に手を当てる。

「え、お兄ちゃんどうしたの?」

 アルフはナナをそのまま森の茂みと反対、滝の方を向かせた。

 しばらくするとユミリアの悲鳴があたり一面に響きわたった。

「終わったわ」

 そう言葉がした方向を向くとイルムガルトがユミリアを引きずって現れた。
 ゴミ屑のように放り投げられたユミリアを頭だけ動かし確認する。
 彼女は白目をむき泡を吹いて失神していた。時々痙攣して体が跳ねている。
 彼女の服装もあいまって完全によろしくない絵面が出来上がっていた。

 アルフは耳を塞いだ手をそのまま目にやった。
 視界は防がれているが、ナナも時折うなるユミリアの声を聞いて、なんとなく察する。
 二人はどんな拷問《おしおき》を受けたのだろうと戦々恐々とし、心の中で手を合わせていた。

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