フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.1「河川上に建つ都市」
はじめに
ここからは体験版後の話です。
同人ゲーム版の話はこちら
では、どうぞ。
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第1章 第4話
第1節「河川上に建つ都市」
「おお、これが水上都市か!」
帝都と砦を通る大きな街道を分断する巨大な河川の真ん中、その名の通り水上に浮かぶように都市が存在している。
アルフ達は小高い丘の上からその街を見下ろし感嘆の声を漏らす。
「でっかい川……ていうかもうコレ海だろ?」
都市を丸々飲み込むほどの巨大な河川だ。
そう思うのも無理は無い。
「帝国では一番大きなグラーズ大河よ」
「随分華やかそうで、スラムが広がっているようには見えないが……」
水上に浮かぶように建つ都市は青い屋根と白い壁で統一され、中央の大通りから道が均一的に伸び、格子状の町並みがうかがえる。遠目からではスラム街と呼べるような町並みは見えない。
「下を見なさい」
「下?」
「正確には上層の都市部と大河の境目……ここからだと橋の下辺りが分かりやすいかしら」
そこは、何本もの大きな柱が都市を持ち上げているように建っているのが見える。
都市自体が街道の橋としての機能も持っているのだろう。
「おお、あんな風に建ってるのか。随分攻め落とされやすい構造してんな」
そこで、すぐに攻略に思考を持っていくのは傭兵時代の性なのだろうか。
しかし、アルフの言う通り、町を支える数本の柱さえ落としてしまえば簡単にこの町は崩壊する。
橋は丈夫だろうが、橋を守る防壁は存在していないのだ。
「そうかしら?確かにこの都市を壊滅させるのは容易い事だけど。それだけのメリットがある?」
「だが、この辺りは他国との接点なんて無いし、攻め入るとしたら魔族ぐらいのモンじゃないか?奴らにはメリットなんぞ関係ないだろ?」
「いやーそうでもないなぁ」
「? どういう事だ?」
「こっちに来る魔物は川を渡れないだろ? なら、この橋は帝都を攻めるには重要な足がかりだ。どうにか橋としての機能だけは無事に確保したいと考えるんじゃないか?」
「その通り。彼ら魔族が帝国に攻め入るには魔界《ナーストレンド》との境目にあるニザフィヨル山脈を越えなければならないわ。 あの山脈は生半可な魔物じゃ越えられない。少なくとも、普段水中ですごすような水棲の魔物や水陸両用程度の魔物じゃ山の中腹辺りでお陀仏でしょうね」
逆にこのグラーズ大河はあまりにも巨大で、川の流れも速い為、水棲の魔族や長距離飛行可能な魔族しか渡れない。
先程の山脈で水棲の魔族がダメなら、残るは長距離飛行可能な魔族だけとなってしまう。
他に通れる魔物といえば、魔王やその側近《ブリーキンダ・ベル》クラスの魔族だが、当然彼らのような化物は数が非常に少ない――というよりまずいない。
そして、それだけ削れた戦力では人類の守護者《フォルナール》には到底太刀打ちできない。
魔族は人に比べ圧倒的な力を有するが、彼らもまた人を超越する程に怪物じみた『人間』の集まりである。そして、その為に人類は教会によって守られる事ができているし、魔の軍勢と戦力が拮抗できている。
話を戻すが、魔族にとってそんな戦力を相手にしなければならないという事である。川を渡り、軍勢の殆どが削られたら状態の魔族ではフォルナールが万全の防衛手段を持って守りを固めた帝都に勝てる通など無いのである。
だからこそ、河川を渡れるこの橋は魔族にとっても必要なものとして認識されているのだ。
「魔族にそんな知性があるのか?」
「アナタ、リンネルでの事忘れたの?」
「あ~、そういや、知性あったな。人語も話せたし……」
「向こう側《ナーストレンド》にはあんなのうじゃうじゃいるって話よ」
「げぇ……てかそこ、目を輝かすな!」
目を逸らすようなジェスチャーをしたアルフの先に、目を輝かせているユミリアの姿がある。
隣にいるナナは少し呆れ顔だ。
「仕方ない。 そんな危険な事が待ってるとなりゃ、そりゃ、今からワクワクするってもんじゃね?」
「すんなって。……にしても橋を使って襲ってくるのか。なら、この橋を撤去すれば魔族は帝都側に来れなくなるんじゃないか?」
「アナタ、随分恐ろしい事言うわね……この橋の先にも人が住んでいる所はあるのに。そこの人達を魔物のエサにするつもり?」
「いや、戦略上の話さ。実際やるかどうかは別として、この橋が無ければ少なくとも川からこちらは守られるわけだろ?」
「そうでもないわ。魔族がこちら側に来てしまえば、彼らが川に拠点を作ってしまうでしょうね。そうなれば不利になるのはこちらの方よ。川からこちら側の防衛拠点は帝都しかなくなるもの」
人間側が魔族の脅威から身を守る為の拠点は三箇所存在する。
一つはニザフィヨル山脈に面した鉄壁の三重防壁を持つ帝都第二の城砦『トロイアの砦』、もう一つはグラーズ大河に守られた自然の防壁を持つ『水上都市ゲムル』、最後に帝国の心臓部であり人類最高の戦力が揃っている『帝都ヴィーン』である。
河川を越えられるというのは人間側にとって非常に危険な状態なのである。
それゆえ、ゲムルを統治する領主は帝国内でも発言権が強く、また、それゆえに帝国が手を焼いている原因でもあった。
「そのギリギリピンチな防衛戦っての、すっごくやってみたい」
「おい、この戦闘狂」
「てへ」
アルフがユミリアをぶん殴り、イルムガルトがため息をつく。
「何か、容赦なくない?」
「はっはー、頭が砕けてないだけマシだって」
「……だいぶ話がそれたわね」
「ん、ああ、そうだな。 で、なんだったっけ?」
「スラムの話だよね?」
「あー、そうそう。それ。で、あの柱がどうした?」
「アレがスラム街よ」
橋の下は暗く、アルフ達のいる場所からでは良く見えない。
「何だって?」
「この街じゃスラムは地下に形成されるの。いや、正確に言うと税を払えなくなった市民は街から追放されて、あそこに住むしかなくなるのよ」
「あんな場所じゃ河川が氾濫したらアウトだろ」
「ええ、それで毎年犠牲者が出てるけど、その人数は不明。スラムだから数字が上がってこないのよね。帝国の調査団による予測だと、数百から数千と言われてるわ」
「酷い話だな。さすがの帝国でも動かなきゃマズいんじゃないか?」
「まだ、国民には伝わってないでしょうけど、今の帝国はガタガタよ。遠からず騒乱が勃発するぐらいに。だから動きたくても動けないでしょうね」
それは、アルフにも何となく分かっていた。
リンネルに帝国からの応援が来ていないことから予想ができたからだ。
「んな事言って良いのか?」
「隠し通せる限界はもう超えてるもの。なら、早めに心掛けてもらった方が動きやすいでしょ?」
「動きやすいって?」
「勿論、私と行動を共にするなら、面倒くさい処理《そういうの》も付いて回るって話。数日は眠れない日々が続くでしょうね」
「イヤだあああ!!!!」
「アナタは、逃げても死ぬだけよ?」
首根っこをつかまれ、そう囁かれたアルフは一瞬にして真っ白に燃え尽きた。
「じゃ、ボクは別行動って事で」
イルムガルトが逃げようとしたユミリアの肩を掴む。
「アナタから付いてくるって言ったんだから、付き合ってもらうわよ?勿論、逃す気もないしね」
「痛い痛い!爪、爪食い込んでるから!!な、ナナ、ヘルプ!ヘールプ!!」
ナナはとりあえずハンカチを振った。
「あ、こら、ナナー!!」
「別に今すぐってワケじゃないし、やるとしても魔王討伐の後よ安心して」
「むしろ魔王に勝てる気がしなくなったんだが!?」
「右に同じ!」
もちろんモチベーション的な意味で。
「ここで、駄々こねても仕方ないでしょ。ほら、さっさと歩く」
そして、二人はイルムガルトに連れられて行くのであった。
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