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フヴェルゲルミル伝承記 -1.3.3「付いてくる者」

はじめに

 最近どこかの小説投稿サイトに投稿しようかと思ってます。
 そうなったら足並みそろえる為にこちらの更新は少し止めて、何か別の記事でも書く予定です。

 では、どうぞ。

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第1章 第3話
第3節「付いてくる者」

「いやぁ、酷い目にあった」

 ユミリアはすぐに目を覚まして開口一番そう言った。

「アナタ、立ち直るの早いわね」

「ん、全然じゃないか?こんなに意識失ったの久しぶりだし……」

 手を首に当て、ゴキゴキと音を鳴らす。


「ま、とにかく、すまなかったな」

「お、おう……」

 あっけらかんと手を差し出すユミリアに対し若干戸惑いながらもアルフは手を握り返す。

「ちなみに、決闘でも暗殺でもいつでも受け付けるから、よろしくな」

 そう言ってウィンクするユミリア。

「しねーよ。この戦闘狂」

「ちぇ、仕方ないなぁ」

 心底残念そうだ。
 そんなに戦いたかったんだろうか。

 ふと、辺りをキョロキョロ見回す。

「そういや、君ら知らないか?」

「主語を言いなさい。意味が分からないわ」

「ボクの連れ。黒いローブを羽織った黒髪の男の子。目が青と赤で違うオッドアイだから見ればすぐに分かると思う。それと名はルネ」

「何で名前を最後に言うのよ」

「アレは無口だし、自分で名前名乗らないからなぁ。特徴の方が分かりやすいし」

「そ」


「でも、俺はそんな人間見たこと無いぞ」

「私も」

「わたしも」

「まあ、分かっちゃいたが、仕方ないか……」


 ガシガシと頭を掻いて一息ため息をつくとアルフ達に向き直る。

「で、君達はこんな所で何してるんだ?」

「アナタに言う必要が?」

「別に」

「じゃあ聞かないで」

「どっちにしても付いてくだけだし」

「「「はぁ!?」」」

「冗談言わないで」

「いやいや、本気本気」

「何で俺達について来たいんだよ」

「君らが強いから」

「別に守ってもらう必要ないだろ?」

「いんや、逆、逆。強い人間ってのは、それだけ強い敵を呼び込むモンだ。だから君達に付いていけば、それだけ強い敵が襲ってきたり、危険な……ん゛ぅん。面白そうな出来事がわんさか起こりそうだと思ったのさ」

「なんか言いかけたな?お前……」

「ナニモイッテナイヨ?」

「コイツ……」

「つまり、私達はアナタ好みの生餌ってワケね」

「その通り」

「その男の子は探さなくて良いの?」

「見つからないなら仕方ない。いつか会えるさ」

「なんて気楽な」

「普通、会えないと思うけど?」

「会えるさ。そういう風になってるから」

「どういう理屈だよ」

「ま、仕方ない。そういう風になってるんだからさ」

「無茶苦茶ね」

「それも仕方ないさ」

「それで、アナタが私達に付いてくる事を了承するとでも?」

「イヤだなあ、迫りくる危険が変わらないなら、ボクが一緒にいるのはメリットしかないと思うぜ?」

「どういう事だ?」


「まず、単純に戦いにおいてボクは戦力になる。それはさっき分かっただろ? で、君達はボクを守る必要がない。危険に身を晒すのはボクの本懐だ。むしろ、場合によってはボクを囮にしても良い。どうだい?」

「むしろ精神的なデメリットがでか過ぎるんだが」

「えー」

「逆にお前が危険につっこんで行ったりするんじゃねーか?」

 ユミリアをそっぽ向いて口笛を吹きだした。

「おい」

 口笛を吹き続けるユミリア。
 冷や汗をかいている。

「……まあ、いいわ。来たいなら来なさい」

「お、いいのかい?」

「イル。一応聞いておくが、理由は?」

「一つ、放っておいてまた突然襲われたり、勝手な事をされるぐらいなら手元に置いておいた方が対処しやすいだけまだマシよ。二つ、彼女の力は確かに戦力になる。なら魔王の討伐に期待できる」

 ナナはイルムガルトのその発言に驚き彼女の袖を掴む。

「え、お姉ちゃん達、そんな事するの!? 危ないよ!!」

「そっか、ナナは知らなかったな」

 イルムガルトはナナに視線を合わせ、彼女の手を握る。

「大丈夫よ。アナタは砦で私の妹に保護してもらう予定だから、巻き込まれる事はないわ」

「え、あ、え……?」

「お前の妹って、フォルナールの?」

「他に妹はいないわよ」

 イルムガルトが立ち上がり、答える。

「てか、ここで立ち話してないでとっとと行かないか?日が暮れちまうよ。ここで野宿するんなら話は別だけどさ」

「それもそうね」

「く、コイツに正論を言われるとは」

「どういう意味だい?」

「そのまんまの意味だ」


「まあ、気にしても仕方ない。で、ボクが付いていくのはOKって事で良いのかい?」

「ダメって言っても付いてくる人が何言ってるのかしら?」

「ごもっとも」


「……襲うなよ?」


「がんばる」

「おい」

「ははは」

「不安だなぁ……」

「で、君達は何処に行こうとしてるのかな?」

「知らずに付いてこようとしたのね」

「もち!」

 ユミリアが親指を立て答える。

「自信満々に言うな!」

「えっと、ここに隠し通路みたいな所があるみたいなんだけど……」

「ん、隠し通路?……あ~、あそこか」

「知ってるのか」

「もち」

 そう言って来い来いと手招きする。

「おい、騙してないだろうな?」

「んな事しないさ。むしろボクを騙してくれよ」

「大丈夫。騙しはしないけど、騙したらまた、『お仕置き』だから」

「うっ……!?」

「 気 を つ け な さ い 」

「は、はは、や、やらな、いって……」

 ユミリアは硬直し全身震えだして、滝のような汗を浮かべている。
 よっぽどトラウマだったらしい。

「い、行くぞ、こっちだ」

 アルフ達はユミリアの案内で先に進む。滝の裏に回りこんでいた。

 少し遠回りすると、落石が飛び石のように対岸まで続く場所があった。

「んじゃ、行くぞっと」

 ユミリアはナナを脇に抱え、ポンポンと飛び石を跳ね、アルフ達もそれに続く。

「わ、わっ……!?」

「ほいっと」

 対岸に着いたユミリアはナナを降ろす。
 思いの他、丁寧な扱いにナナは少し驚いていた。
 ユミリアの言動からもっと乱暴なものだと思っていたからだ。 

 そんなナナの思いもよそに、ユミリアは滝のほうを眺める。
 アルフ達も追い付き、同じ方向を向く。
 その視線の先に滝の裏側が見える。
 そこが、おそらく通路だろう。

 アルフ達は少し急な坂を上り、滝の裏側にやってくる。
 滝の裏側はポッカリと穴が開き、暗闇を覘かせている。

「へぇ、裏にこんな洞窟があるのか……」

「な?言った通りだろ?」

 ふぃ~と汗を拭うユミリア。

「でも、こんな分かりやすいんなら何で今まで誰も気付いてなかったんだ?」

「昔はそう分かりやすくもなかったんじゃないかしら……」

「どういう事だ?」

「入り口周辺の岩肌を見る限り、崩落して穴が露出したみたい。新しいからここ最近の地震によるものじゃないかしら」

「へぇ、よくわかるな」

「とにかく、入ってみましょう」

「う……」

 ナナが後ずさる。

「お、坊、怖いのか?」

「う、うん……」

「怖がっても仕方ない。どうしても心配ならボクが何とかしてやるからさ」

 そう言って、ユミリアはナナの頭をワシャワシャと撫でる。

「ああ、う~……」

「何とかできるのかよ?」

「まー、ボクが会った魔物は雑魚ばっかりだったし」

「会った?」

「あ、うん。ボクはこの洞窟を抜けてきた……というより洞窟内で戦闘になって気付いたらあの滝まで出てきてたって言った方が正しいかな」

「なら、中には詳しいの?」

「いや?」

「何でよ」

「仕方ないだろ?戦いに夢中になってたんだから。洞窟の何処を進んだかなんて覚えちゃいないさ」

「自慢げに言う事じゃないだろ」

「どっちにしても、洞窟は魔物だけじゃないし、崩落の危険もある。慎重に進んだ方がいいわね」

「崩落か。そりゃ楽しそうだ」

「お前はスリルがあれば何でも良いのか?」

「まあな」

 間髪入れないその返事にアルフとイルムガルトは二人してため息を吐いた。

「まーそれはともかく、坊はボクより先に死なせやしないさ。だから、安心しろ。な?」

 そう言ってユミリアはナナの頭を撫でるのをやめ、ポンポンと叩いた。

「あ、は、はいぃ……」

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