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私の中の柔らかい場所 6

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目指すはサハラ砂漠へ。

朝早くエッサウィラを出発した。

海が見える景色から段々と遠ざかって、ウトウトしていたらいつのまにか荒野の中の道路という景色に変わってきた。

カーブのキツい道路になってくると、センチメンタルな気持ちに浸ってウトウトしている場合では無くなった。

クルマの揺れと共に身体が揺さぶられて、胃がキュルキュルとしてきた。

以前行った人から聞いた話しだと、このサハラ砂漠までの道は酔い止めが必要と聞いていた。

しかしモハメドの運転が上手いのか、酔い止めが必要な程では無かった。

両脇に赤っぽい岩がそびえ立つクネクネとした道路を走っていると、まるで自分の人生の様に感じた。

この道の先に、何があるのだろうか。

自分の人生を思うと、普通とは違う。

それが誇らしくもあり、時に虚しくもなる。

普通のレールに沿って歩んでいたら、つまらなくもあり、それは安心でもあるのだ。


そんな事をボーッと考えているうちに
、峠のドライブインの様な所に着いた。


ここでランチをとるようだ。

山並みを見渡せる席に座ると、しばらくしてモロッカンサラダとハンバーグが挟まれたサンドイッチが出てきた。

サラダは辛くないスパイスとオリーブオイルで味付けられていて、ハンバーグもサッパリとした味付けでとても美味しかったのだが、クネクネとした道のドライブで揺られたせいかあまり食べれず残念な気持ちになった。


レストランの隣の店はアルガンオイルを売っていた。

モロッコの気候は髪も肌も乾燥する。
ネロリの香りのオイルを買った。

外の露店では、地球の歩き方にモロッコの象徴的なイメージモデルとして写真が載っていそうな風情のモロッコ男性が水晶を売っていた。


卵よりも一回り大きい石をパカっと開くと、内側がキラキラと光る水晶だった。

少し交渉して、2個買って値引きして貰った。

帰国してからも、インテリアとして可愛いモロッコのお土産だ。

少し離れた所から、モハメドが私を見ていた。


買い終わるとすぐに車に戻った。

先はまだまだ長いので、早く出発したいらしい。


ランチはどうだった?
モハメドに尋ねられた。


美味しかったよ、でもそんなに食べれなかった、と私は答えた。


Ok、気分はどう?モハメドがこちらを振り返り尋ねた。


気分は大丈夫。景色がとてもいいね。
私の返答に


もっともっと景色のいい所が沢山あるよ。


幾つか山並みを見渡せるとても景色のいい所に停まったのだが、まだ景色のいい所があるらしい。


普段の東京の暮らしからは考えられない程の雄大な、360度のパノラマビューだ。


自分が今までどれだけ狭い世界で生きていたか知った。


段々と過去の恋愛での悲しかったエピソードなんて何て事は無い、小さな出来事だなと思えてきた。


今回の旅は傷心旅行のつもりではあったが、もうこの雄大で無限を感じさせられる大地に降り立ってから、すっかり自分の今までの狭い価値観から解放されていた。傷心なんてすっかり何処かに行ってしまった。


私を馬鹿にしたり私を粗末に扱う人間達に怒りを感じたり、殺意さえも感じていた。

しかしもう自分がここまで来たら、そんな人間達とは違う次元に生きる人間なのだと思えてきた。


クネクネと赤土の大地のドライブに身を任せながら、まだ見ぬサハラ砂漠の無限に思いを馳せていた。


自分は有限だと思っていたのは、他でも無い自分だ。


年齢とか、人間関係とか、お金とか、環境とか
そんな理由で今まで自分の可能性を決めてきた。


私は自分の事をまだまだ知らなかった。
そう感じた。

揺れる車に乗りながら、必死に景色を目に焼き付けようとしていた。


車の窓からも容赦なく太陽が私の身体を焦がす様に照りつけた。

途中、カフェ休憩も取りながら長い長い道のりをひたすらのドライブ。

モハメドとも、交わす言葉も少なく、ただ砂漠に向かう事だけが今の2人の唯一の目的の様に、ひたすら車を走らせる。

時々道端に警官が立っていて、停められる。

書類や、身分証明書などをチェックされている様だ。

日が傾きかけた頃、段々砂漠に向かっているんだと感じさせる風景になってきた。


緑も少なく、ただ赤い乾いた土を感じさせる風景。


日も暮れて暗闇に包まれる頃、メルズーガの宿泊するリヤドに着いた。

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