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私の中の柔らかい場所 4


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次の日の朝、半分位しか開かない目を無理やり開けて目を覚ました。

急いで身支度を整えて、スーツケースに荷物を押し込んだ。

今日はエッサウィラという街に移動するらしい。

半分寝ぼけた頭で朝食を食べていると、ドライバーのモハメドがやってきた。


よく眠れたか?と聞かれたので
寝れたけど、少し寒かったよ


と答えたが、彼の目を見てすぐに逸らしてしまった。

こちらの昨晩考えていた事が、彼の大きな透き通った瞳ですべて見透かされそうな気がした。


急いでオリーブオイルを付けたパンを食べて、コーヒーで流し込んだ。

オレンジジュースは、相変わらず格別の美味しさだ。お替りが欲しい位に。


腹6分目位まで朝食を食べて、車に乗り込んだ。


レッツゴートゥーエッサウィラ!!

いたずらっぽくモハメドが微笑んだ。

バックミラー越しに私と目が合う。


昨日は寒かったのか??
と聞かれたので、

寒かった。疲れてたからぐっすり寝れたけど

と答えた。

またモハメドとバックミラー越しに目が合った。

優しい眼差しに、じっと見つめられたら恋に落ちてしまいそうだ。

こちらも少し気持ち長めに彼の目を見つめて微笑み返した。


車窓の景色は荒野という感じだが、所々に緑を感じられた。


途中、沢山のヤギがアルガンツリーの木の上に登っているのを見た。

こんなに沢山のヤギは自分で登ったのではなく、観光用に人の手を使って木に乗せられた様だ。

まぁ冷静に考えたら、こんなに沢山の山羊が一斉に登らないだろうなぁと思った。


荒野から、町並みの風景になったり、次々と変わる風景を見ながら

窓から照りつける太陽の光の強さに少し酔ってしまった様だ。

何というか、光が強過ぎてフワフワしてきた。


Today is too hot.

モハメドに話しかける。


いつもこんな感じだよ
でも夜は涼しくなるよ

ソノコさん ダイジョブ??

少しイントネーションのおかしい日本語で話しかけられた。


大丈夫
but Im thirsty.

ok

車は道路脇のカフェに入った。

私はカフェオレを頼んだ。

しばらくして出されたカフェオレは、
かなりガツンとカフェインが効いてくるような濃い味だった。


ぼやんと霧がかかった様になってフワフワしていた頭が冴えてきた。


このカフェオレは、いつもの日本のスタバで飲んでいるんじゃない。

モロッコで飲んでいるんだと思うと、ただのカフェオレなのにとても味わい深い


モハメドは店のスタッフと談笑していた。


私がカフェオレを飲み終わった頃に、モハメドが戻ってきた。

イキマショウカ

見てない様で、私の行動を見ていたのかな

少し満たされた気持ちで車に乗り込み、また走り出す。


でも私の心は満たされていない。

空っぽに穴が空いた様だ。

年下の彼氏に浮気された40代の女に空いた穴なんて、そうそう簡単に埋まる訳無いのだ。

日が傾きはじめた頃、道路脇に椰子の木の生えた風景になった。

海が近いようだ。
もうすぐ着くよ、後1時間位かな

英語でモハメドが話しかけた。

サンセットには間に合うの?
と聞くと大丈夫だよ。
サンセットは7時過ぎだから

と言われた。

随分日が落ちるのが遅いんだな

ここは大西洋か


日本から遠く離れて、日本語が通じない、誰も知り合いがいない場所にいるだけで何だか安心できた。

まさしく港町という所に車が駐車された。

近くの屋台では海鮮が売られ、塩の匂いがした。


今日もまた雰囲気たっぷりのリヤドに到着した。

可愛い中庭を囲む様な建築、中庭には小さなプールがあった。

このプールは実際入れるんだろうか?

チェックインが済んだら、すぐにサンセットを観に行った。

日本で見る太陽の3倍位の大きさに見える太陽が沈んでいく所だ。

沢山の観光客が防波堤から写真を撮っていた。

思わず防波堤の塀に上がって座り、おおきな太陽が沈んでいくのを見た。

まさしく燃える様な、その力強さと偉大さにひれ伏すしか無いような大きな太陽だ。


私の日本であった出来事なんて、とてもちっぽけな出来事に感じた。


何があっても私は生きているのだ。

この大きな太陽が、私の悲しみとか怒りとか憎しみ全てを焼き尽くしてくれればいいのに


今までの事は無かった様に、明日からただ幸せに楽しく生きる自分で


自由でいいんだよ

何にも囚われずに、年齢とか周りの目なんて関係無いじゃない


自分の気の向くままにね


そう自分に語りかけた。

思わず目の前の防波堤に上がって座り、太陽の沈む様子をずっとずっと見ていた。

じっと見ていると目の中から太陽の光が入り、自分の負の感情を焼き尽くしてくれる様だった。

気の済むまでサンセットを見て、防波堤から
降りようとしたら、さっき夢中になって上がったから気がつかなかったが案外高さがある事に気づいた。

しかし登ってしまったので意を決して飛び降りようとした時、

モハメドが「ちょっと待って」と言って私の手を自分の肩に掴まらせて、素早く私の腰に手を回し、凄く慎重に私の腰を抱えた。
ビックリして「あっ!!」と言ったのも束の間、
子供が抱っこされる様に抱き抱えられ私の身体は宙を浮き、ゆっくりと地面に降ろされた。

予想外の出来事にとても驚いた。
私の体重はどちらかと言うと重い方だ。
しかしモハメドが私の身体を抱き抱えて軽々と降ろしてしまった。

「重かったでしょう?」
英語で尋ねると

ベルベル人ベリーストロング!!

と答えが返って来た。

そうか、彼はアフリカの先住民ベルベル人なのだ。

普通に考えて、普段運動不足の日本人男性よりはDNA的にも身体能力的に優れているんだろうなと感じた。

この件で私は一気に気持ちが高揚してしまった。
モハメドは決して筋肉隆々なタイプでは無い。

むしろ痩せている方だ。

しかし潜在的に強い男に惹かれてしまうのは、女の性なのかも。

まるで自分が夢の中にいる様な、ハートがポワンとした、まさしく恋に落ちた時の様なドキドキしてフワフワした気持ちで海を後にした。


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