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「屈折くん」和嶋慎治

和嶋氏が書かれた自伝エッセイ本、「屈折くん」を読了。
感想と余計なことを書いていきたいと思う。
(金欠学生には文庫版で精一杯) 

以下、完全にネタバレ。 
未読の人は読まないで頂きたい。

まず、幼少期の話。
冒頭のアンパンの話や保母さんの話は、もう太宰治の「人間失格」そのもの。ちょっとビビる。
しかし段々と大庭葉蔵的な境遇はなりを潜めていき、ひねくれたギター少年へと変貌。

学生時代の話になると、恋愛、勉学、文学、そして音楽。様々なものに囲まれてそれぞれに苦悩し、充実した時間を過ごしていたことが窺い知れる。中学の時にスズケンが一瞬登場し、高校入学の時にも筆箱の話が僅かに出る。

これを読んでる感じだとなんでいきなり文通してバンド組もう!ってなるのかあんまり分かりません。音楽性の一致がやっぱりデカいんだろうな。

ソ連に卒業旅行中のスズケンの家に上がり込み、寝泊まりしながら勝手にリフを曲にするワジーはどこかオカシイとしか言いようがない(笑)
「りんごの泪」と「陰獣」が出来たのは割と有名だけど、ここで「神経症ILoveYou」も出来ていたとは。じゃあもっとLIVEでやってくださいよ。

中盤に差し掛かると、ついに「イカ天」の話に。
ここでの描写は意外にも凄ーくあっさり。
やっぱり最初の短い成功ってのはあまりいい思い出にはならなかったんでしょう。

あっという間にメルダックと契約を切られます。
本当に一瞬。(本著の中では)
上館さんのエピソードとか結構読むに耐えないキツさがある。

それからの結婚、極貧生活。
中々にしんどそうな日々が続きます。
もし、契約を切られていなかったらマスヒロくんはまだ人間椅子に在籍していたかもしれない。

高円寺に戻ってからもやはり貧困、再び失恋。
「品川心中」辺りでもう売れ始めていると勘違いしていた人間からすると衝撃的。

ラストがオズフェスなのも凄くいいと思う。
輝かしい瞬間が目に浮かんでこっちまで泣きそうに。

この本の中でかなりの頻度で現れる、一人の同性にめちゃくちゃ執着して急に冷める、和嶋氏の謎の生態。
なんかすごーく分かってしまう。
私も同性という安心感が必要以上に距離を詰めてしまい、その近さに疲れ出すことが度々ある。
(和嶋氏の場合は些細なことで猛烈に落胆してしまうらしいので違う)

一時間あれば読み終えてしまえるのでちょっと物足りない気もするが、和嶋氏の考え方に触れるにはもってこいの一冊。

超個人的な不平を言うと、人間椅子で出した曲への言及が殆どなかったことが残念。
この詩には自信があった、みたいのが聞いてみたい。(次回作をもし書かれるならそんなことを)

度重なる試練に苦しみながら音楽を続けてきた和嶋氏をさらに好きになってしまった。

エッセイというより哲学書として手元に置きたい。

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