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無理やり捨てるのではなく、時期を待つのも手
実家のリビングには、今はもう誰も弾かないピアノがあります。
このピアノは妹が小学校3年のときに父が買ったものです。
お正月やお盆など家族一同が集まると、このピアノの話題になります。
母が捨てたいというのです。
母からすれば、誰も弾かないピアノはもう役目を終えて、
今では、ホコリをのせることしかない迷惑なガラクタなのです。
しかし、父は、頑として「捨てない」の一点張り。
あまりに家族全員から「捨てるべきだ」と攻撃されるので、
話題が変わるまで、父も黙り込んでしまいます。
夕食の時間に、お酒も入って父もいい感じになったとき、
「思い入れのあるものはそう簡単に捨てられないよね」
とさりげなく聞いてみました。
すると父は、心の内を明かしてくれました。
「このピアノは、小さい頃からなんにも欲しがらないA美が、
小学2年生頃に、ピアノを習いたいと珍しく強く訴えたから、
お父さん、なんとかしてピアノを買ってやりたくてさ。
でも当時、このピアノは車1台分もしたんだ。
節約して、お小遣いの一部を長い間貯金をして、さらにローンを組んで、なんとか買ったんだ。
A美にはこれしかしてあげられなかった。
ピアノしか買ってあげられなかった。
今は、このピアノは誰も弾かないけれど、思いがいっぱい詰まっていて、どうしても捨てられないんだ」
と、ためていた気持ちを一気に吐き出しました。
それを何気なく、近くで聞いていた妹は、急に父の前に来て、
「お父さん、ありがとう。十分伝わっているよ」
といいました。
それを聞いて父は、「本当かい」と言い、
ふう〜と息を吐いて、ホッとしたような表情になり、また、無口になりました。
他人から見ればガラクタに見えるものが、本人にとっては、意味のあるものであり、感謝によってこだわりが溶けていくことを、しみじみとわかった出来事でした。
どうしても思い入れが強くて、捨てられないのなら、
時期を待つのもひとつかもしれません。
『捨てるほど若返る!人生の「そうじ力」』P.118より
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