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【監査のチカラ】1.「不測の損害」を減らす仕組み ─ なぜ監査が必要なのか?
すがちゃんです。前回の記事では「監査とは何か?」という基本的なお話や、カフェの“謎の売上減少”解決エピソードを通じて、監査がどうやって会社や投資家の皆さんの信頼を守るのかを紹介しました。でも、まだまだ掘り下げたいポイントは山ほどあります。今回は、「なぜ監査が必要とされるのか?」についてもう少し具体的に踏み込んでいきましょう。
財務諸表監査の必要性と効果を深掘りする
実例:謎のハイテクスタートアップ、急成長の裏側で…
「相次ぐ投資ラウンドで数十億円を集め、次世代技術で世界を変える――」
そう豪語していたハイテクスタートアップがありました。メディアも大きく取り上げ、投資家たちはこぞって資金を注ぎ込み、社内も毎日がお祭り騒ぎ。ところがある日、投資先の業績報告を確認していたファンドマネージャーが、ある数字の“違和感”に気づきました。
「なんだか売上が想定より妙に高すぎる…」
開発がまだ終わっていないプロダクトに、毎期数十億円の売上が計上されているのです。ファンドマネージャーがさらに踏みこんで調べると、その数字はどうも“一人歩き”しており、現実とはかけ離れた夢のような金額でした。この会社は結局、粉飾決算疑惑によって信用を失い、株価も暴落。投資家や社員、取引先にも大きなダメージが残ったのです。
「もし第三者の監査が入っていれば、こんなリスクは回避できたのではないか?」
――そう、財務諸表監査はまさにこういうケースで、企業情報の“本当の姿”を映し出すために存在します。
なぜ財務諸表監査が必要とされるのか?
1. 情報の非対称性と利害の対立
先ほどのスタートアップの例のように、経営者は世間に「夢」や「期待」を見せたいあまり、不都合な情報を包み隠すことがあります。一方で、投資家や銀行などの利害関係者は、企業の内部情報すべてを直接確認できません。
誰が本当のことを証明してくれるのか?
ここで登場するのが、客観的な立場を貫く監査人なのです。社内でも社外でもない“独立した専門家”が、財務諸表をしっかり検証し、「この数字は大丈夫」と太鼓判を押す。それが投資家や銀行にとっての“安心材料”となります。
2. 粉飾決算のリスク
スタートアップが陥ったように、経営者の主観や、業界特有の慣習に頼りすぎると、知らないうちに粉飾(虚偽の見せかけ)へ足を踏み入れてしまうことも。「まだ未完成――いや、もう完成間近でしょ?」VS「いや、売上の時期じゃないでしょ?」といった見解の違いが、数字を大きく歪ませる場合があります。この誤差が積み重なり、結果として“粉飾疑惑”につながる可能性も…。
監査がしっかり機能していれば、「それって会計基準と違いますよね?」と早い段階でブレーキをかけられます。
3. 影響の巨大さ
一度世間を巻き込むような不正会計が起こると、信用はガタ落ちになり、その企業だけでなく、株を持っていた投資家や取引先にも大打撃。社会的な影響は計り知れません。財務諸表は会社の顔とも言える存在なので、画像加工ならぬ“数字加工”は多方面に深刻な影響をもたらします。
4. 財務諸表の複雑性
最近は国際会計基準(IFRS)など、会計ルール自体がどんどん複雑化しています。ソフトウェアの売上計上のタイミングや、契約にまつわる認識基準など、一般の方にはわかりにくいところも多いもの。
そこで、会計の専門家である公認会計士が、細かいルールを踏まえて「本当に正しく処理されていますか?」と進捗管理をすることで、企業が“うっかり”間違えるリスクを減らしてくれます。
5. 遠隔性
投資家や銀行などは、会社の現場にしょっちゅう足を運ぶわけにはいかず、地理的にも立場的にも“遠い”存在。そこで、公認会計士の監査を通じて間接的に企業の姿をつぶさに確認しよう、という仕組みができているわけです。
監査がもたらす効果
1. 利害関係者の利益保護
先述のスタートアップ事件でも、もっと早い段階で監査が入っていたら、投資家の資金が守られたかもしれません。不正や誤りに対して、監査は「ここ、おかしいですよね?」と“クッション役”となってくれます。完全にリスクをゼロにするわけではありませんが、被害を最小限に抑える保険として大きな効力を発揮します。
2. 資金調達の円滑化
「うちには監査法人がついています」という一言は、投資家にとって安心感抜群です。融資や増資を受ける際にも、きちんとした監査報告書がある企業のほうが、お金を集めやすいのです。銀行が「この会社、貸したお金をちゃんと返してくれるかな?」と不安になるのは当然ですが、監査を受けていれば信用力アップにつながります。
3. 不正・誤謬の抑止効果
財務諸表を作る人たちも、「定期的に第三者のチェックが入るぞ!」と思うと、どうしても背筋が伸びるもの。ちょっとルールを逸脱しようかな…と思ったときでも、「後々監査で分かるし…」と自制する効果が働きます。
4. 内部統制の改善
監査人からの指摘を受けて、社内ルールや運用プロセスを見直す企業は少なくありません。「この承認フローだと責任所在が曖昧では?」といった具体的な問題点が浮かび上がり、結果として業務効率やリスク管理面でも向上が期待できます。
“不測の損害”を防ぐ効用
監査があることで、投資家や取引先は「もしかして数字を騙されている?」というリスクを減らすことができます。もちろん、投資で損をする可能性はゼロにはなりませんが、“ウソの数字”に踊らされて予想外の被害を被る事態は減るでしょう。
さらに、
企業の資金調達がスムーズになる
⇒ 銀行や投資家から見ると、監査済みの財務諸表は安心感が違います。不正・誤謬の抑止効果
⇒ 「監査があるからズルはできない」と思えば、誰もが慎重になる。内部統制の改善
⇒ 監査時の指摘を受けて業務フローを見直す機会が増え、会社そのものの管理体制が向上する。
こうしたメリットは、企業・投資家の双方にとって大きな価値になります。
実生活やビジネスへの応用ヒント
投資家の視点: 「監査済みの財務諸表か?」を最初に確認するだけで、リスクを大幅に減らせます。企業の情報開示資料の脚注や監査報告書までしっかり目を通す習慣をつけましょう。
経理担当者の視点: 自社の会計処理に迷ったら、まず“監査人ならここをどう見るか?”と考える癖をつける。そうすれば日々の作業から整合性や合理性を意識するようになり、決算前に焦ることも激減します。
経営者の視点: 「監査では、こういうところが見られる」。そう分かっていれば、普段から社内ルールを整え、問題が表面化する前に対処できます。さらに投資家へのアピールもスムーズに。
今回も読んでくださりありがとうございます。
これからも1日1本を目安に実務や日常に取り入れられる“監査目線”の鍛え方まで、お話ししていく予定です。
“シリーズ化”と銘打っているので、ぜひ続編も楽しみにしていてくださいね。
監査論という一見かたい世界でも、意外とワクワクする要素があります。数字の裏にあるストーリーを想像することは、まるで推理のような楽しさがありますから。皆さんもぜひ、監査人の視点を少しだけ借り受けて、自分のビジネスや投資をさらに盤石にしていきましょう!
次回も、どうぞお楽しみに!