湯灌って何をするの?流れや注意すべきことを徹底解説!
人生において、最後の入浴とも言える湯灌は送る側の悲しみも洗い流すような儀式。一日の疲れをお風呂で癒す日本人にとっては、心を落ち着かせ、心を癒す時間になるのかもしれません。今回はそんな湯灌について解説していきます。
湯灌とは
湯灌とは、納棺の前に遺体を沐浴させ、洗い清めることを言います。故人にとって最後のお風呂と考えるとわかりやすいでしょう。昔は、遺族や近親者、近所の手伝いが中心となって行われていましたが、大変な作業で精神的な負担が大きいものでした。そのため近年では、葬儀社のスタッフや専門の湯灌師が行うことがほとんどです。
湯灌は必ず行う儀式ではないため、実施するべきか迷う人も少なくありません。検討する際は、儀式の理由や内容を把握しておくことで決めやすくなります。
湯灌をする理由は大きく2つ
・衛生上の理由
遺体をお湯で温めることで、急速に進む死後硬直を緩め、着せ替えや納棺をしやすい状態にすることです。分泌液などの汚れを洗い、遺体を清潔にするという効果もあります。
・宗教上の理由
生まれたての赤ちゃんが産湯に浸かるように、現世の穢れと苦しみを清め、来世での霊魂の復活を願います。
エンゼルケアやエンバーミングとは違う
よく勘違いされることとして、エンゼルケア(清拭)やエンバーミングが挙げられますが、異なるものです。
・エンゼルケア
エンゼルケアは故人を生前の姿に近づけるために行う死後処置です。納棺までに行うという点に関しては、湯灌と同じですが内容に決まりはなく、施す内容は病院や施設によって異なります。
一般的には、医療器具を取り外し、傷のケアをしたり、濡れたタオルなどで全身を拭きあげたりします。病院の場合は主に看護師が行い、介護施設の場合は施設の職員が行います。
資格が必要であるわけではありませんが、排泄物の処理や、体の消毒を素人が行うことは難しいこと、医師から死亡診断があるまで遺体に触れられないことから、自宅で亡くなった場合は、かかりつけ医や専門業者に依頼するケースがほとんどです。
・エンバーミング
エンバーミングは簡単にいうと、遺体を長期保存するための技術で、「遺体衛生保全」とも呼ばれます。遺体の防腐、殺菌、修復のための技術で、最大50日間腐敗させることなく保つことができるようになります。
感染症を防止するため、遺体を修復して生前の姿に近づけるため、長期に渡って遺体を保存するため、空輸で遺体を運ぶため、といったことがエンバーミングを行う理由です。
遺体を綺麗にし、体の中に防腐剤を注入する技術で、専門的な資格を持つエンバーマーが行います。
湯灌の立ち会いについて
湯灌を業者にお願いした場合でも、喪主や遺族など近しい人は立ち会うことができます。湯灌では故人を裸にしますから、タオルなどで身体を隠すとはいえ、立ち会える人は限られるのが普通です。あまり多くの人に参加してほしくないという場合、喪主や遺族は他の人の参加を断ったとしても失礼には当たりません。湯灌をした後は、すぐに納棺の儀式を行うことが多いため、納棺にはたくさんの人が立ち会うという地域もあるようです。
・近親者のみが湯灌・納棺に立ち会う
喪主と遺族、故人の兄弟といった近親者だけで、湯灌・納棺を済ませます。納棺の儀式に立ち会う習慣がない地域であれば、これが一般的でしょう。
・近親者のみが湯灌に立ち会い、その後、親族や近隣の人が納棺に立ち会う
近親者だけが湯灌を見届けた後、納棺の儀に他の親族や近隣の人を呼びます。納棺の儀式にたくさんの人が立ち会う風習がある地域では、この方法が多いです。親族や近隣の人には納棺の儀の時間と、その前に湯灌があるため、早めの到着は避けてもらうようにお願いしておく必要があります。
・湯灌は立ち会いなしで行う
安置所に故人を預けた場合、喪主が多忙で湯灌の立ち会いにこだわらず、尚且つ、葬儀社の方針にも問題がなければ、立ち会いなしで湯灌をすることも可能です。故人の身体を洗い清め、着替えとメイクを施した後、布団に休ませて納棺の儀を待ちます。納棺についても、立ち会いの必要がないと喪主が判断した場合は、そのまま棺に納めます。
湯灌の手順とマナー
湯灌は基本的に納棺の前に行います。遺体の損傷が激しく、すぐに綺麗な状態に戻してあげてほしいという遺族の希望があれば、できるだけ早く湯灌を行うことも。着替えとメイクまで終えたら、布団で休ませるか、棺に納めます。お葬式場で行う場合や、自宅で行う場合など、シチュエーションはいろいろありますが、基本的な流れは同じです。
1 準備
湯灌業者が到着。自宅で湯灌を行う場合は、移動式のバスタブを持ってきてくれます。屏風や、衝立(ついたて)などで目隠しを行い、湯灌に立ち会う近親者だけを呼び入れます。準備が完了したら、スタッフから湯灌について説明の後、硬直をほぐすためのマッサージを行います。儀式の際には、故人の肌を見せないように、浴槽まで移動します。
2 洗体と洗髪
36〜40度くらいのお湯(普通のお風呂のお湯の温度よりすこし低め)を足元から順番にかけます。シャンプーで故人の髪を洗い、身体も清めます。故人が愛用していたシャンプーがあれば、それを利用すことも可能です。もし希望があるなら、スタッフに相談してみるといいでしょう。
目隠しがあるため、立ち会う人であっても故人の裸を目にすることはありません。故人がバスタオルを羽織った状態で、顔や手などを近親者がタオルで拭く儀式を行うこともあります。
3 着替え
葬儀社が用意する白装束や、故人・遺族が希望する服(和装・洋装どちらでも可)に着替えます。仏教では、浄土への旅支度として死装束を着せることが一般的。着替えの一部を喪主や遺族に手伝ってもらうことを、儀式の一環とする業者もあるようです。
4 メイク
故人の顔を整えます。男性であれば、髭を剃り(こだわりがある場合は、整える程度)、眉毛を整え、女性はメイクを施します。喪主や遺族の希望により、顔色やメイクの濃さ、口紅やアイシャドウの色を調節します。故人が女性で、娘がいる場合は、メイクを手伝ってもらうこともあります。
5 納棺
業者の他に、喪主や遺族・近親者の手によって棺に納めます。納棺後は、故人の胸元に「あの世に持っていってほしい」副葬品を入れることができます。入れられるのは、火葬をしたときに燃えるものであることが前提。金属製のつえやメガネ、入れ歯は入れることができません。厚みのある本や、りんごを丸ごと一個など、燃える物でも燃え残ってしまうようなものは控えましょう。果物は一口サイズに切って入れるようにします。入れたいものは、一度葬儀社に確認するといいかもしれません。
6 後始末
棺の蓋を絞め、棺の前で全員焼香を終えたら、棺の納棺の儀は終了です。残された故人の布団は処分して大丈夫。湯灌に使った逆さ水は、庭の北側に捨てるといいとされます。
※注意するべきこと
所要時間は大体1時間から1時間半くらいです。湯灌の手順やマナーは地域の文化や習慣によって異なるので、葬儀社や湯灌業者の誘導に従うようにします。
死後硬直すると着替えが難しくなってしまいます。服のサイズにゆとりがなかったり、滑りにくい素材だったりすると、きちんと着せることができない場合も。着せたい服が決まっているのであれば、着せやすさも考慮するようにしましょう。
また子供を参加させる場合は、スタッフの邪魔なったり、泣き出してしまったりする場合もあります。すぐに退出できるように、面倒を見る人を、湯灌が始まる前に決めておいた方が無難です。
湯灌に使うお湯。逆さ水とは?
湯灌の際には逆さ水という、故人を清めるために使うぬるま湯を準備します。普通、お湯の温度を調整するには、熱いお湯に水を加えますが、逆さ水はその逆で、水に熱いお湯を足して温度調整をします。
故人に湯をかける柄杓を左手で持つ、「逆さ手」という風習もあります。逆さ水や逆さ手は、「逆さごと」といい、通常の流れとは別の工程でものごとを行うことで、この世とあの世を区別するという考え方が由来とされます。
湯灌にかかる費用
必要な費用は湯灌業者によって異なります。入浴せず、手足を清拭するだけなら5万円前後から、湯灌・納棺をするなら、8〜10万円前後のことが多いです。先述の工程のうちどこまでが湯灌の料金に含まれるのか、ということも湯灌業者によって違うため、事前に確認をしておいた方がいいでしょう。
参加する際の服装
湯灌の際は、喪服を着る必要はありません。平服で構いませんが、弔事で言う平服とは略喪服のことであり、デニムやジャージなどの普段着ではないため注意しましょう。喪服を着てはいけないという決まりがあるわけではありませんので、お通夜の時間まで余裕がない場合や、遠方から来ている場合には、喪服を着て参加するということに問題はありません。子供の服装も大人と同じように、暗い色味で落ち着いた服装を選ぶようにします。
おわりに
故人を労り、直接感謝を述べる機会にもなるお湯灌。これは必ずしなければならない儀式ではありません。いくら傍から見えないとはいえ、「人前で裸の姿を晒すのは嫌だ」という考えがあったり、清拭をするため不要という考えもあったりします。遺族の考えとして、不要だと思うのであれば、その旨を葬儀の打ち合わせの中で伝えます。
しかしながら、そういった考えもある一方、長期の入院生活のためにお風呂に入る機会がなかったなど、お風呂に入れないまま亡くなってしまうことも。お葬式の儀式の中で、遺族や立ち会った人が感動した、とよく聞くのは湯灌です。一生を終えられた故人を労う意味も込めて、よく考えて決めましょう。
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