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いっしょに出かけたかったな

「ありがとうございましたぁ」。甲高い声が白い天井に響きわたる。

わたしは、いつも仲良くしてくれたおねえさんに見送られてドアをくぐった。

新しい家族は、ちょっとおじさんだけど優しそうな人と、とてもキレイなお姉さんみたい。

今は、わたしが傷つかないように柔らかなゆりかごに入れてもらっているから周りが見えないけど、新しい生活がとても楽しみ。

今夜はデートなのか、ざわざわとした街をゆっくりと歩いているようだ。

おじさんの声が聞こえる。「今日は前に言ってたお店を予約しておいたからね」。

「えーーっ、本当!ありがとう!楽しみ!」。

今日は記念日か何かかな?仲が良さそうな2人の家族になれて、わたしは胸がおどった。


「とても美味しかったね」「ねー!ありがとう!ごちそうさまでした」。

2人は食事を終えて、タクシーで家に帰るみたいだ。

「ここで降りるの?」「うん、また誘ってね!今日は本当にありがとー」バタン

お姉さんがわたしを抱えながら先に降りたみたいだ。

カツカツカツ、カチャ、ギィー、パタン

新しいお家に帰ってきた。早速、わたしのこと見てくれるかな?

カチャ、トン……。


お姉さんに「かわいい!」と言ってもらえると思っていたのに、今日は疲れているのかもしれないね。明日を楽しみにわたしも寝よう。


カチャ、ギィー、パタン……カチャ、トン……。

このお家に来て何日経っただろう……。わたしはどんなお部屋にいるのか知らないし、一度もおねえさんと会っていない。

たまに「カチャ、ギィー、パタン……カチャ、トン……」と同じリズム・同じ音が聞こえてくるだけ。

あー、素敵なお洋服とコーディネートしてほしい。そして、おしゃれな街を歩きたい……。早くお姉さんといっしょに出かけたいなぁ……。


カチャ、ギィー、パタン……。

「こんにちわぁ」。

扉越しに男の人の声が聞こえる。これまで「カチャ、ギィー、パタン……」以外の音を聞いたことがなかったわたしは、ドキドキしてしまう。

カチャ

「ここにあるの全部お願いしたいんですぅ」
「かしこまりました。それでは買取金額がわかりましたらご連絡しますので」
「よろしくお願いしまーす!」

わたしは、どんなところにいたのか、初めて会ったおじさんともう一度会うこともないまま、違うところに行くみたい。

一度でいいからおねえさんといっしょに出かけたかったな。

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