小説『人間きょうふ症』⑥

 「お待たせ。」
 先生は目の前に座って言った。珍しく私の顔を見つめ、いつものように落ち着いた声で話そうとしていた。
 「佐藤さんの目って、色々語るのね。あなたはもしかして、去年、クラスメイトと何かあった?」
 恐怖の後に続いたこの発言。きっと先生は知っていて、なにか企んでいるに違いない。そう考えると、余計怖くなって私のわなわなした唇は音を発することはできなかった。
 「佐藤さん。私はあなたの味方です。電話の時の性格はどこへ消えましたか?あなたは思っている以上に強いですよ。ただそれを人前では発揮できていない。なぜなら、人の気持ちがわからなくなったから。いや、まずはあなた自身の気持ちを理解していないから。そして、あなたに起きたそn」
 「黙ってください!」
 「あなたに起きたその出来事があなた自身をありのままでいさせるこt」
 「だから黙ってください!」
 「ことができない。それだといつまで経っても自立できないまま大人になると言われ」
 「黙ってっていっているじゃないですか!!もう良い加減にしてください!!私が話してもどうせ他の人たちみたいに責めますよね。こんなだから学校にも行きたくないし、人と関わりたくないんです!」
 叫んでしまった。息を切らしながら、大声で叫ぶ私。最低な人だ。言っていることは余計に苦しめられるからって、怒鳴ってしまった自分が醜くなり、すぐに荷物を持って家まで逃げてしまった。内心では分かっていた。こんなことは人の行動として悪いことだったことは。
 家に着いた私は、すぐに自分の部屋に入り、ドアに鍵をかけ、布団の中に籠って枕を強く抱きしめた。自分はひどい人。自分は悪人。目から川のように涙が流れ始めた。言ったことをずっと引きずったまま生きなければいけないのかな…。

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