小説『人間きょうふ症』32

 K先生と遠い街中で歩いている時、ふと考えた。もしこの二人でいる時間が長かったらどうなるのかって。2年生が始まって早々個別授業だとかお話だとか色々と一緒にいる時間が多かった。今だと学校外というのもあるので、一緒の時間がもっと長くなる。その時の先生の感情はなんなのか。先生の気持ちだけは唯一、読み取ることはできない、そんな気しかしなかった。
 「着きました。」
 先生はものすごく豪華そうなタワマンビルを指差しながら言う。
 「…こ…これは?」
 「私の知り合いから借りたビルですね。ちょうどアメリカにある何個かの大学へ行かないといけないようで、空けてもらいました。なので、ここで一緒に住みましょう。そして、」
 「え?!…先生、それは…」
 「どうしたのですか?」
 「そんな気軽に言っていますが、本当に大丈夫なんですか?そもそも今学校から逃げている時点でダメなことだし、先生と生徒同士だし、この時点で先生は職を失っているんですよ?!」
 「大丈夫だと言っていますが…。」
 「いや、だめです。やっていいことと悪いことの区別はしないと。先生は私のことを助けたいという気持ちはわかります。でもこんなことしていたら、先生が後で大変な目に遭います。」
 「そうですか。わかりました。佐藤さん、私は何があってもあなたの意見は尊重すると約束したので、ここでお別れにしましょう。」
 「え…」
 「あなたと私の考えは釣り合わないので、そうするとお互いに非効率的。だったら、今は離れておいた方がいいかと。」
 さっきまでずっと私を助けようとした先生が急にこんなことを言うのなんて、思いによらなかった。頭の中は真っ白になりつつも、今後どうやって生きていこうか考えることにした。その間に先生は可愛いクマさんの絵柄が付いた手帳に何かを書き込み、その部分を破り言った。
 「佐藤さん。もし何かあれば、この連絡先にお電話ください。その時は佐藤さんのご相手しますので。」
 「…ありがとう…ございます」
 「あと一つ。今、あなたは家から出ていってしまった。そして学校からも逃げて行った。住むところはどうしますか。」
 「一旦、物件とか探してみます…。」
 「よかったらその物件だけは誰かにお願いしませんか?家賃を安くしてくれる場所があります。そして、今は奨学金でなんとかしましょう。あなたなら今後、やっていけるような気がするので。」

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