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糟糠の妻

「糟糠の妻」という言葉が使われている本を読んだ。ずっと興味があったのだけれど中々、手が出せない本だった。
1960年代、女性が仕事を持つという事に対する理解が、今よりもっと難しい時代に、ライター、イラストレーター、専業主婦とそれぞれ違う人生を歩んだ女性と、その祖母や孫の世代の女性の生き方を描いた物語。だが、取り敢えず糟糠の妻はテーマではない。
糟糠の妻という言葉は知っていたが、良い機会なので改めて調べてみるとこんな意味だった。

糟糠の妻。
【酒糟や米糠のような粗末な食事をともにして、苦労を重ねて夫を肋け、家庭を守り、連れ添ってきた妻のこと】


夫とは互いが二十代で結婚した。うん十年前の6月、社内結婚だった。二人とも社会人だったので蓄えはあったが派手婚は無理。結婚に掛かる費用は必要最小限。無駄を省き全ての費用を二人で出し合う地味〜なスタートだった。

それまで勤めていた会社は結婚する前に辞めた。家庭と仕事の両立を考えない事もなかったが、自分にとって大切な方を優先した。結婚して暫くはパートをしていたが、やがて妊娠しつわりが辛くパートも辞めた。それを機に兼ねてから考えていた専業主婦になった。ずっと忙しく働いて来た夫の母親、姑は私が働かない事を非難した。専業主婦になる事の理由はあったけれど、それを姑に話しても理解はしてくれないだろうと何も言わなかった。夫がわかっていればそれで良い事だった。

結婚してからずっと節約はしていたが、仕事を辞め夫の収入だけで生活するようになってからはさらに節約を心掛けた。娘を出産した翌年、それまでより家賃のかからない家に転居した。古い建物ではあったが間取りも広く陽あたりも良くなった。夫が勤める会社は近くなり、姑が暮らす家からは遠くなった。

娘が1歳から高校卒業までをその家で、大学生になる時に今の家を買った。ファミリータイプで英国風の可愛いマンション。価格も抑えめ。幾つも見たモデルルームの中で一番気に入ったものだった。夫の会社は少し遠くなったが、娘が通う大学は以前の家より近かった。

幼い頃から節約する私たち親を見て育った娘は浪費しない事が身に付いた。大学に通うための学費や交通費こそ親がかりではあったが、学生時代から使いたいお金はアルバイトで稼ぎ、社内人になった今は給料から毎月きちんと家にお金を入れている。

住宅ローンの返済を含め、生活費の全てを夫の収入だけで暮らしていたが、この4月、夫の収入が激減した。大打撃。私も働いた方が良いのか訊ねたが、専業主婦になった思いを知っている夫は、私は今まで通り節約、万が一の場合は自分が副業を持つと言った。

それをきっかけに地道に蓄えていた貯蓄から少し纏まった住宅ローンの繰上げ返済をした。家のお金事情を知らない夫は思っているより多い貯蓄額に感心していた。いやいや、完済するまでは感心している場合ではない。さらなる節約、いや、節約だけでは無理。これからは倹約を心掛けなければ。

結婚の先輩や義兄夫婦など、周りでは金銭的な事も含め何かと親を頼りにしている人もいたが、私たちはそうではなかった。姑は長男である義兄夫婦を優遇しそちらにかかりきりだったし、実家の親を頼る事もなかった。そもそも頼る気などなかったが、お陰で自立を促されお金の事やその他諸々、親や親戚の世話にならない事が当たり前になった。

お金がある事が幸せだと言う人もいる。お金はあるに越した事はないし、幸せは人それぞれだからそういう人もいると思う。でも私の幸せはそうではない。家族のために真面目に働く優しい夫と生意気だけれど親思いの一人娘、今は姿は見えないけれど片時も心から離れない賢い長男猫と反抗期全開の次男猫。静かで穏やかな暮らしを守り、それを同じように幸せだと感じる家族がいる。だから私はその人より幸せだと自信を持って言える。

ちなみに。
【糟糠の妻は堂より下さず】『後漢書』宋公伝
貧乏な時から苦労をともにしてきた妻は、表座敷から下に降ろさないほど大切にすべきである。
『糟糠の妻』は、貧しい時から酒の糟(かす)や糠(ぬか)を食べて、苦労を共にしてきた妻。
『堂より下さず』は、表座敷から下げない、ということで、正妻の地位から追い出してはならない。という意味もあるそう。

糟糠の妻。
【酒糟や米糠のような粗末な食事をともにして、苦労を重ねて夫を肋け、家庭を守り、連れ添ってきた妻のこと】

私がして来た事は最初に書いた本に登場する女性たちと同じで、それが自分自身のやりたい事であり役割、そうなりたいと強く願って来た事で、それ以外の何ものでもない。そしてずっとそう居させてくれた事を夫に感謝している。しかしこの先も住宅ローンの返済や娘の嫁入り資金、まだ少し先の事だが老後の年金生活など不安要素ばかりが山積している。だから多分、いやきっとこれからも贅沢をする事はないだろう。しかし贅沢に対する考え方も人それぞれ。今の暮らしを大切に、本当の贅沢はもっともっと歳を重ねてからの楽しみに取って置きたい。

だから…。

糟糠の妻。
【質素倹約を心掛け、家庭や家計を守り、時々は美味しいものを食べて、何より夫の健康を願い、一生、二人で笑って生きて行ける事を最高の幸せであり、贅沢だという思いを貫き通す妻のこと】

少し長いけれど、こんなふうに易しく、優しくアレンジしても良い?
…と、独り言を呟いてみる。

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