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Woher kommst du ursprünglich?  「本当はどこ出身?」 日常に潜む差別

先日、Woher kommst du ursprünglich?「本当はどこ出身?」というドイツ語の文章がちらりと話題になったので、改めてこの問題について書いていきたいと思います。

Woher kommst du?
という質問は、ドイツ語学習者ならまず第一に習うセンテンスでしょう。
留学すれば、まず最初に聞かれる質問。
この質問の何が問題なの??と驚かれる方も多いでしょう。

この質問が、日常の中にある人種差別 Alltagsrassismus ではないか?と改めてドイツ中で話題になったのは2018年11月のことでした。
ドイツのオーディションバラエティ番組で、5歳の女の子、メリッサが登場した時のことです。
「メリッサ、どこから来たの? Woher kommst du, Melissa?」
ーヘルネです。(ルール地方の街)
「で、ママとパパは?どこから来たのフィリピン出身かな?Und Mama und Papa, woher kommt ihr, Philippinen?」
ーううん、ヘルネ出身よ。
「でも、どこから来たの?どの国から?生まれは?Aber woher kommt ihr, aus welchem Land, gebürtig?」
ーわからないわ。
「おばあちゃん、おじいちゃんは? Oma, Opa und so?」

……司会のディーター・ボーレンは、メリッサが来たドイツの街の名前を聞いただけでは満足しません。この子は「ドイツ人(出身)ではない」とどうしても言わせないと納得がいかないようです。それはなぜなのでしょうか?
彼女が、“ドイツらしい(白人系の)"見た目ではないからです。

この番組が放映された後すぐに、Twitterハッシュタグvonhierのもと、「移民系の背景を持つ」人たちから、様々な体験談がアップされました。

「見た目がドイツ人ではない」
からこの質問を受けるのはしょうがない?では「ドイツ人」ってどういう外見なの?

育ちも生まれもドイツで、出身はドイツ(もしくはドイツの都市)と言ってるのに「本当はどこ出身?」「祖父母はどこなの?」と聞かれ続けることの理不尽さ、辛さ、腹立たしさの度合いは、その人によって、そしてそのシュチュエーションによっても違うでしょう。
ムッとする人もいれば、
ああまたこの質問か……とうけ流す人、
私の祖父母はね、と誇らしげに語る人もいるかもしれません。
ドイツ全国区で話題になったのは2018年からではありますが、ドイツで"白人系ではない"見た目の人は必ずといっていいほど、この手の質問を何度も何度も受けています。


その質問は差別的だよ、と指摘すると、質問した方は大抵驚きます。
「悪い意味じゃないよ!」
「興味があっただけだよ」
悪意がなくともそれは差別であるかもしれないし、ほかの人を傷つける可能性はあります。また「興味があった」のが、相手の出身地だとしたら、なぜドイツと言う回答に満足しないんでしょう?出身の街まで知りたかった?続けてくる質問を見れば、興味があった部分は「この人はドイツっぽくない見た目だけどルーツはどこ?」で、「(この見た目で)ドイツ人なわけがない」という自分の考えを確かめなければ気が済まないという点だったのは明らかです。

問題は、その質問をした背景にある「なぜ、目の前にいる人を、“ドイツ人ではない“と思ったか?」ということです。

2020年、ドイツ連邦議会統合サミットIntegrationsgipfelでのメルケル首相の話では、その点が明確にされています。


「私の曽祖父はポーランド人で、私は4世代目です。しかし私には、誰も統合の余地があるか?とは聞かないわけです。しかし黒人だったら?
(隣の、カメルーン出身のCDU政治家、Sylvie Nantchaさんを指す)
肌の色がドイツでは少数派だったために統合が不可能?ドイツで暮らし、子どもを生み、育て、ドイツ語を話しキャリアを築いて、生まれたお子さんが大学で学び成功しても、常に最初に聞かれるのは「あなたは実際にどこから来たの?」ということ」

そしてメルケル首相の話はこう続きます。
「初めての統合についての会話で、黒人の俳優に「TVではいつも犯罪者の役ばかり。いつか市長を演じたい」と聞いた。それは正当な願いだと思う。この願いについて、私たちはもっと考えなければいけない」

そう、この質問の後ろには
目の前にいる人は“ドイツ人ではない“
→だから、ドイツ社会には属していない
という、先入観(偏見)があるステレオタイプの考え方があるのです。

ドイツから“国へ“帰れ
という発想にもつながる危険性

私が2010年前後に、ベルリン、クロイツベルク出身の運転手さんのタクシーに乗った時の話。

「普段はこの辺流さないんだけどね(私が乗車したのはパンコウ地区)」
ーへえ。なんで?
「面倒なんだもん。本当はどこ出身?ってさ」
ーああ、この辺は住民が“白い“からね。
「そうなんだよ。スモールトークのつもりなんだろうけどさ、皆絶対聞くんだよ。君さ、どこ出身?って。で、クロイツベルクですって答えると、いやでも親は違うでしょ?てしつこいんだ。親もベルリンですと返すと、じゃあルーツは?祖父母は違うでしょ?って言うから、めんどくさいからさ、諦めてトルコですって答えると、あー!だよねー!!ってすごく嬉しそうなわけ。で、聞くわけ。『次はいつ帰るの?故郷に?』ってね」

参考記事

https://www.instagram.com/woherkommstduwirklich/

https://www.zeit.de/video/2019-03/6009938444001/alltagsrassismus-wenn-die-frage-woher-kommst-du-zur-belastung-wird

https://www.dw.com/de/woher-kommst-du-vonhier/a-47988141

https://www.bpb.de/mediathek/198266/die-arier

カッセル生まれの(父はガーナ人)のMo Asumangが撮影したドキュメンタリー「Die Arierアーリア人」。彼女を育てた祖母は、ナチス親衛隊SSにいたドイツ人女性です。彼女はネオナチのデモに乗り込みます。
「アフリカに帰れよ!」ドイツ生まれですけど……「いやだからなんかどっかから来てるだろお父さん?お母さん?そこに帰ればいいだろ!」

わたし自身は日本に生まれ日本で育ち、ベルリンと日本の在住歴が徐々に同じくらいになりつつありますが、見た目は「アジアっぽく」国籍も「日本人」です。そのため、この質問には耐性があり、それほど気になりません。
私の場合は、日本出身ですと答えれば、大抵が「日本はいい国だよね〜」と相手が、最近見た日本についての旅行番組だの、日本の映画だの、自分の日本旅行について語り始めるからです。(時には脱原発についての意見を求められることもあれば、難民政策についてだったりもします)
また、私は見た目がこうなので"移民系の背景を持つ"人から、いろんな話を聞きます。タクシーは一緒に一つの空間にいる時間が長いからか、こういう踏み込んだ話をされることもしばしば。相方(イタリア系ドイツ人ですが見た目は"ドイツっぽい")が同乗してると、全然雰囲気が違います。
また、この会話の際に、パンコウ地区の住民が"白い"と表現した理由ですが「ドイツ人が多い」も文脈的にありえないし、また一言で、私が相手が何を言っているかが通じてるよ、というシグナルにもなるから、この言葉を選びました。     

↑ドイツのコメディアンAurel Mertzの動画、最後の2:24〜からの終わりに出てくるWo kommst du eigentlich her?が、文脈によってこの言葉が受ける印象が変わるという話を上手に説明してて秀逸!




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