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わたしが「ここ」で暮らすということ④

インタビュー後編では、ここで暮らすみなさんのそとの楽しみかたを聞きながら、どんなことに心が動いているのか、座談会形式で、さらに語っていただきます。

まず、そとの楽しみかたを大洲和紙に書いたところから、3人のトークがはじまりました。

新しい発見があったり、ふとした風景が心に沁みたり、三人三様のそとの愉しみ

わけさん:さんぽ」って書いたんですけど、知らない植物を見つけたり、知らない何か、ちょっと変わっている何かがあった時は、それを持って帰って調べたり、ちっちゃいものだったら押し花にしたりとか、季節ごとに楽しんでいます。日々発見がありますね。本当に。


わけさんの押し花。散歩の途中に、心に止まった小さな草花を持ち帰って、本に挟む


水谷さん:私は、何をするのが好きっていう感じじゃないなあって思って。だから、「歩いたり、座ったり、考えたり、人と話をする」って書きました。なんだろう、目的を持って外に出ることが好きというより、こう、ふとしたというか、なんかその外の空気感を感じるというか、外でただ過ごすみたいな、なんかそれが好きかな。

散歩も好きなんだけど、ここに移住してきてから、私は逆に散歩をあんまりしなくなっちゃって。けれど外にいる時間はすごく多いというか。

わけさん:ただ、人と話すだけとか?

水谷さん:そう! なんか用があって、外に出ている時とかに、ふと、ああいい天気だなあとか、今日はよく山が見えるなあとか、農作業していて休憩のためにふっと座るとか、そこへ近所の人がやって来て話すとか、そういうなんてことないことが好きだなと思いますね。


御祓地区にある屋根付きの常盤橋に佇む水谷さん。里山の風景が見渡せる


武藤さん:私は「あかみち探検」って書いたんですけど、まちはきっと散歩で、山は探検になるのかなって思って(笑)。もともと歩くのが好きだったから、移住してすぐの頃、山や畑につながるいろんな道を歩きたいなあって思ったんです。

でも、道路は車が通りやすいように整備されているから、遠回りになるんですよね。こう一直線で行きたいっていう気持ちがあって、草を掻き分け、ちょっとならしてあるところがあったら、もしかしたら通れるんじゃないか、みたいな感じで進む。

一人でもそんな感じで探検しながら歩いていたら、その辺にいたおじいちゃんが、ここは「あかみち」だったんだよって教えてくれたんです。路地裏とか近道とか通学路だとか。それこそ、小学生とかが学校に行くのに、道路だと遠いから、あかみちを利用していたとか。山道とか舗装していない草の道なんですけど、それを探検するのが好きで

子どもが散歩ができるようになった頃から、一緒に探検が始まりました。「今日は右行く? 左行く?」みたいな感じで、子どもと相談して。で、なんか入れそうな道があったら「ここ行ってみる?」って、長男と長女と私の3人で棒を振り回しながら(笑)。好きな棒を選んで。

わけさん:わかる! 棒、持つよね(笑)

武藤さん:棒を杖とか役立てながら、いろんな道を歩いていって。季節によっては食べられそうな実もあるから、それを食べたりしながら、上ったり下ったりして。「あっ! ここに出たのかー!」みたいな発見があることも。

わけさん:うんうん。つながる。

武藤さん:そう、つながる。それが、面白い! はじめて見る景色だったり、まあ登っていくことが多いから、そこからの眺めとか景色とか村並みとかがすごく綺麗で、そこに達成感があったりしますね

みほちゃん(わけさん)みたいに、この草が、花がどうとか調べようとかまでいったら、きっと素敵なんだけど。我が家の場合は、どう探検して辿り着くか、みたいな。

わけさん:その冒険っていうのがいいよね。子どもたちがワクワクするし。私もなんか子どもたちとどんぐりを探すっていうのをミッションみたいにして、ちょっと変わったずんぐり型があったら、ポイント高いとかにしたりしています。


わけさんのお散歩道具。草花を摘んだり、拾ったものをカゴに入れたり。手袋も使い込まれている


武藤さん:それいいね! そういうの楽しい!

わけさん:そうそう。そういうのを見て探したりとか、そういうなんか楽しみを見つけたらね、きっと盛り上がる。

――都会で棒を拾うってなかなかないから、棒を拾って探検って、街とは違う楽しみ方ですね。

武藤さん:棒は使える! 危険だなと思ったら、こっちを探ったり。

わけさん:山系のところって鬱蒼としているところがあるから、振り落としたりするのもいいし。


取材当日、パン工房や自宅周辺を案内してくれた武藤さん。棒は、蜘蛛の巣を払ったり、方向を指し示したり、この日も大活躍


武藤さん:あれで、息子は、草刈りを覚えました。棒を振り回したら、結構、若い草は切れるから、あれでもう「お母さん、ここの道は行けるよ」って、わーっと刈ってくれて、「来い!」って引っ張っていってくれるみたいな(笑)

水谷さん:開拓していくよね。まさに(笑)

わけさん:だから、(前編で語られた)「生きる力」だよね。

武藤さん:そうそう。本当に。

わけさん:自分たちで気づいて刈っていくっていうのはね。

水谷さん:実感からそうやって学んでいくみたいな、本当に力が身についている感がありますよね。

武藤さん:最初は、ここは危ないから、お母さんがちょっとこれ通れるようにしてからついて来て、みたいだったのが、だんだん息子の方が前に行き、先頭に立って……。

わけさん:危険かどうかを確かめてくれて。逞しいね。

武藤さん:そう、だんだん、子どもの背中を見るようになってきたのが嬉しいですね

――それぞれの楽しみを持つ、みなさんですが、お気に入りのそとスポットはありますか?

わけさん:私は、だらり権現ですね。そこに行った時に、ここは何だろう、異世界みたいな雰囲気があるなと思いました。本当に、神聖な感じがして。

水谷さん:そう、石鎚信仰ですね。巨石と巨石の間の梯子を上って、最終的には、90度の絶壁を鎖で登るっていうミニ石鎚みたいな感じ。

わけさん:それこそ子どもたちには冒険、ダンジョンって言ったら、みんな本当にドキドキして。何回か登って、ここはすごいなって思いましたね。

水谷さん:確かに、ダンジョン感、MAX にあります(笑)。御祓(みそぎ)の隠れ名所ですね。でも、私は……、そう、絞れなかったの。

武藤さん:御祓はいっぱいあるから。

水谷さん:そとスポット……、あっ! 秋は、やっぱり、稲穂が垂れ始めて、お米の匂いがしてくるかのような季節なので、やっぱり田んぼの見えるところはお薦めというか、好きなところですかね。まあ、田んぼの見える風景は、季節問わず好きですけど。そう、スポットって難しいなあって思って。その時その時で、いいところがあるから選べない。


常磐橋からは、山々に囲まれた田んぼが見渡せる。この御祓の風景とともに、ここで獲れたお米を頬張るのは最高の気分


わけさん:そう、何でもない風景がすごい良かったりするから。

水谷さん:そうですね。名前もないような。

武藤さん:そうそう、観光地とはまた別のね。私は、家から坂をちょっと登ったところにちっちゃいお堂があって、お大師様がいて、組内の人が御念仏とかをする場所なんだけど。


武藤さんが住む地域の人が大切にしているお堂に。靴を脱いで上がり、ささっと掃き清める


武藤さん:お堂があって、棚田がこうあって、自分の家が見えて、で、うちからスギちゃん(石畳の栗農家。インタビューはこちら)たちの集落が見えるのね。集落が見えて、山があって、そこに、その山に夕日が沈んでいくんだけど、その時間帯にこうぼーっとそのお堂のところに座りながら夕日を見るのが好きで。

村の景色、その村並みがすごく綺麗なんですよね。自然の中に人が耕した田畑があって、それに調和した古い民家が立ち並んでいて、その中に自分たちが建てた家も入っているっていう。その石畳の美しい景色の中に、自分たちも一員としてここにいるんだなっていうのが実感できる風景というか。

観光名所とか特別に景色がいいとか、そういう訳じゃないけど、自分がここにいる、ここで暮らしているっていうのがすごく実感できる景色。


武藤さんの自宅から上った場所から見渡す里山の風景。山々に囲まれている安心感と、開けている開放感をあわせ持つ、そんな場所だ。ちょうど稲穂が色づき、彼岸花がそこここに咲いていた


水谷さん:それ、いいですね。

わけさん:平地に住んでいたら、そうやって、見渡せるってなかなかないかも。

水谷さん:そうですよね。傾斜があってこそ見渡せる。石畳は特に傾斜があって、集落として開けているんだけど、山に囲まれている景色っていうのが割と特徴的ですよね。それが私も最初に石畳に行った時に、この景色いいなって思ったポイントですね。なんか。里山感がすごいある。

武藤さん:そう、里山感が強い。その集落、集落で開けて。


一見、なんでもないところに、幸せを

――好きなそとスポット一つをとっても、その人の価値観が見えてきます。自分の心が何を幸せに感じるのかということを知ることは、どこで暮らすにしても大事ですが、皆さんが感じる幸せとは、どんなところにあるのでしょうか。

わけさん:なんか、なんでもないことに、幸せって感じますね。例えば、ずっと雨が降り続いた後の晴れた時って、すごい気分いい、晴れてありがとうとか、それくらいのほんのちょっとしたことでも。

ご飯が美味しいとか、そういう本当になんかねえ、食べ物をいただいたり、今ちょっと自分で野菜を育てていたりするんですけど、収穫した新鮮なものを食べて、家族が元気でいてみたいなこともですね。

水谷さん・武藤さん:うん、うん、うん。

わけさん:本当に、なんでもないけどね(笑)

武藤さん:今年、息子が植えたスイカの苗をお父さんが草刈機で切っちゃって、息子が号泣したことがあって。もう植えることもできず、諦めていたところ、近所のじいちゃんがコンテナに入るくらいたくさんのスイカを持ってきてくれて。それを幸せだねえって、子どもたちと食べたことかなあ。

その幸せなのは、いただけて幸せだねえっていうのもあるし、じいちゃんが一生懸命育ててくれたっていう気持ちも子どもが感じてくれて。だから、自分で切るって言って、それも食べやすく切るとか、お父さんのために取っておくとか、そういう一連の流れが、もらっておしまいじゃないっていう、それがちゃんと子どもにもいい具合に伝わっているっていうところに幸せだなあって思いますね。



武藤さん:
子どもがまだ幼いっていうこともあるんですけど、私の場合、いろんなことが子どもにつながっていっているから、そこに幸せを感じますね

この前も、こだわりのポイントはどうだとか言いながら、泥まみれになりながら土手をつくり、そこに水を流してびしょ濡れになって遊んだんですけど、それをもう好きなだけやりなさいって言える自分がすごく嬉しかった

泥んこになろうが何だろうが、もう着替えなくていいよ。そのままやろう、そういうふうに言える自分っておおらかでいられていいなって思いますね。

水谷さん:すごくいい! 

なんか、私は、景色を見て、ああ、いいなって思うことが結構多くて。山の上に住んでいた時は、朝、みそぎの里に来る時と夕方に上に帰る時の風景が毎日違うし、あと、その季節によって向かいの山がだんだん紅葉していくのを日々見られるってすごいなあって思って、そういうのが本当に幸せだなって。

夕日というか夕焼けの景色とかを、ふっとこう横目に見た時には、車を停めてちょっと眺めたり。だから、そういう風景でちょっと幸せになることが結構ありますね。この田んぼの風景もそうですけど。そんな感じかな。

――日々の身近な風景や暮らしの一コマに幸せを感じているみなさんですが、ここで暮らす前と後で、なにか変化はあるのでしょうか。

武藤さん:うーん、私は、ここだからできることをやろうって、常に思ってますね。でも移住する前は、その土地にいてできることとか、その土地の特徴とかも考えなかったし、ここだからできることよりは、自分がやりたいことの方が優先でした。

けれど、移住してきてからは、この土地で、この土地の特徴を生かした何かができるのかなとか、ここで暮らす人たちのために何かができないかなとか、そういうふうに、ここだからできること、ここしかできないことみたいなのを常に考えてますね

何か行動を起こす時に、迷ったりしたら、そこにもう一回戻って考え直すというか、そんな感じですね。



水谷さん:
なんか、さっきの風景の話ともつながるかもしれないんですけど、その、この中に自分がいるとか、この風景の中に自分の居場所があるとか、ここの人たち、ここの地域の人たちの中に自分がいるみたいなのは結構感じるようになったというか。

ここに来てから、地域の人たちとつながりを持つようになって、自分がこんなに人としゃべるのが好きだったんだとか、すごい大好きになるような人がいっぱいいて、で、そういう人たちとの関わりの中で、自分があるっていうことに気がつきましたね

移住する前は、仕事で関わりのある人とか、同じマンションに住んでいる人とか、それぞれの付き合いの中で垣間見える、その人の一面しか知らないことの方が多かった気がするんです。けれど、ここに来て、人となりも含めたその人の全体を知っていると思えるような人がたくさんいることの嬉しさみたいなのを感じるようになりました



わけさん:
うーん、私が住むところは、内子では結構、都会なので、なんかこの人との関わりとか、その地域の中の一員みたいなのがそこまでないかも。

武藤さん:でも、みほちゃんの場合、好きなことをしている人同士の輪みたいなのが、内子の中にも外にもあるよね。

わけさん:確かに、ここで和紙と出会い、紙を通じて、例えば、ゆるやか文庫さんやnekiさんとか、そういうふうに好きなものに集まってくる人たちと出会って、どんどんその輪が広がっていっているのが、今、ちょっと面白いところですかね。

で、あとは、四季を感じられるっていうか、その自然と四季があるのが田舎の良いところっていうか。春はこんな楽しみ、秋はこんな楽しみとかって、1年を通していろいろな楽しみを感じられるようになりましたね。



水谷さん:
今って本当に、いろいろなことを選択できる時代というか、こう、自分次第でどんな環境にも行けるような気がしていて。そういう中で、どういう環境に身を置くかみたいなのを考えて行動できるようになりましたよね。

自分がそうやって納得できる場所にこうやって居られるっていうのは、すごい幸せというか、本当に自分が自然で在ることができるみたいな気はしています。



Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani


皆さんがここで暮らしていて満たされるひと時、そこにはそとの風景もありました。美しい景色だけでは、食べていけないかもしれません。でも、何気ない日常の光景に心動かされたり、背中を押してもらえたり、アイデアが湧き出てきたり。その積み重ねが自分をつくっていきます。

そして、その風景の中にいるのは人。ここで出会えた人たちと過ごしながら、自分や家族、自分が関わるものの成長や発展を感じられることも喜びにつながっていきます。このインタビューが、読者のみなさんの「ここ」を考えるきっかけになると嬉しいです。

今、私たちが当たり前のように目にしている、自然と人の営みが調和した里山の風景、楮の皮を砕いて紙にする伝統的な和紙。どちらも、先人から連綿と受け継がれてきたものですが、担い手が、使う人がいなければ、消えてしまうかもしれません。

しかし、武藤さんも水谷さんもわけさんも、そこに魅力を感じた人たち。未来につなげようとアクションを起こしていて、関わってくれる人を歓迎しています。まずは、パンやみそぎの里のごはんを食べたり、和紙に触れてみるところから、一緒にできることを考えてみませんか。

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