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仕事(農業)×母×じぶん

仕事、母親(主婦)、じぶんなど、社会の中で、さまざまな顔を持つ私たち。女性ならば、ライフステージの変化や、結婚、出産、育児、介護などを経験する中で、それに応じた変化を求められることがあるのではないでしょうか。みんなさまざまな顔のバランスを取りながら生きているけれど、戸惑うこと、迷うことがあるのではないかと思います。


今回のトークでは、里山で、仕事として農業を選び、プラスアルファの活動をしながら、子どもを育てて、活躍している3人が登場します。


多忙な中で、農家であり、主婦であり、母親であり、じぶんという顔を持つ3人は、ここの暮らしをどのように思っているのでしょうか。いつかは巣立つ子どもたちに、何を伝えたいと願っているのでしょうか。皆さんが率直に語る今の気持ちに、私たちにとって、じぶんを見つめ直すヒントがありました。

①農業と、ここだからできること

ここ内子町に移住して、働き、子育てをする里山暮らし。実際に住む人は、どのように感じているのでしょうか。仕事として農業を選択し、プラスアルファの活動も楽しみながら子育てを両立させている女性3人に集まっていただきました。


1人目は、柿やブドウ栽培を営みながら、「farmer's kitchen HIMARINO」を主宰し、野菜のオイル漬けや果物のコンポートなどをつくり、販売している谷岡真衣さん


2人目は小規模循環型有機農業を実践するために内子町に移住し、「天然酵房やまそだち」の屋号で野菜や卵を販売。フリースクール「クローバー」をはじめた大崎桃子さん


3人目はスイカや野菜を栽培しながら、マルチワークを楽しみ、ゆくゆくはをご主人の親御さんの実家に農家民宿をオープンさせるために準備中である「FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる」の泉綾子さん


農家であり、母親であり、じぶんという顔を持つ3人に、まずは、ここの魅力や農業の面白さについて語っていただきました。

(聞き手:Mai(そとで、ここで)、場所:旧泉邸の庭)

里山だからできること


【ここだからできること(谷岡さんの場合)】

――谷岡さんは、イベントに出店したり、HIMARINOなど、アクティブに活動していますが、きっかけは何だったのでしょうか?

谷岡さん:私は農家出身ではないんですよ。町外で飲食の仕事をしていたんですけど、主人が内子町の実家の農業を継ぐことになったことから一緒に来て農業をはじめることに。でも今は、都会の暮らしもちょっと知り、田舎暮らしも知ったからこそ、いろんな活動ができているんじゃないかなって感じることがあります。

そのきっかけは、ご近所の農家さんが、大洲市と内子町の女性農業者の集まりに参加しないかと誘ってくれたことでした。他の農業者と知り合ったことが、愛媛県の一次産業女子ネットワーク「さくらひめ」に参加したり、「ぷらいまりぃ」という大洲・内子の女性農業者グループをつくるきっかけになり、イベントで自分たちの野菜や、その野菜を使った料理を販売するように。だから、ご近所の方が、内子町の江子(ごうじ)に嫁いできた私を、ちょっと外に出してあげないとって思ってくれたおかげで、今の自分があるんじゃないかなと思います。


「farmer's kitchen HIMARINO」の瓶詰め商品を両手に語る谷岡さん


――人の繋がりで発展していったのですね。いつも何かをしていて忙しいイメージがあるのですが、その中で何か楽しみはありますか?

谷岡さん:果実酒とかシロップは、けっこうつくってます。梅のシロップとか、それをまあソフトドリンクとアルコール入りをつくって、大人も子どもも楽しんでいます。

それは、子どもたちに清涼飲料水をあまり飲ませたくなくて。谷岡家ルールでは週末だけは、そういうジュースもOKにしていたんですけど、なんか自分の中ではそれも本当は嫌だった。でもまあ子どもたちも休みの日だけOKにするとテンションが上がるし、週末にお手伝いをさせることも多いから、まあええかと思っていたんですけど、やっぱり自分でコントロールしたいなと思って。

今はね、生姜がいっぱいあったからジンジャーエールみたいなのと、私の実家から生のレモンをもらってきて、実家では蜂蜜も採っているから、蜂蜜レモンをつくって飲ませたり。

そんなのが楽しみで、次はキウイのお酒をつくってみようかなとか、住んでいる場所がフルーツの産地だからブドウをもらったり、この夏は、スモモと山桃が同時にたくさん来たから、両方を漬けてみたりとかしました。自分のところでは柿をつくっているから、捨てずに使いたいなとか、どうやったら楽しめるかなとか、いつも考えているんですけど、そういうのは自分の楽しみになってるかな。あまり表には出してない自分の楽しみ。



【ここだからできること(大崎さんの場合)】

――大崎さんは循環的な暮らしを実践されていますが、それはここだからなのでしょうか。

大崎さん:私の場合、この環境だからできていることって、すべてですね動物が飼えるというのもその一つ。やっぱり動物を飼うのは、匂いとか、鶏が鳴いたりとか気になって、街ではできないと思うんだけど。


平飼いで鶏舎の中を自由に駆け回りながら育つ、天然酵房やまそだちの鶏


大崎さん:あと、3.11(東日本大震災)の後に、少しでも自分の土地を持ちたいと思って。それで、土地を購入したので、そこから家をハーフセルフビルドでつくったり、出荷場をつくったりとか。

コンポストトイレも、やりたかったことの一つ。自分の排泄したものが流れてどこかに行くのは、何ていうか人任せというか疑問に感じて。そうじゃなくて、昔はね、金肥って言って糞尿とかもきちんと戻して環境中で循環させていたわけだから、そういうこともしたいなって思っていたのが、まあできているってことかな。そうね、あとは、星がよく見えるのもここの魅力。

谷岡さん:内子の星は綺麗よね。

大崎さん:そうだね。そして大きな音を気にせずに、いろんなことができる。音楽やるにしてもそうだし。自分が音楽をしているわけではないけど、仲間でバンドをつくっていて、うちの旦那も参加して、練習をここでやったりとかね。 


山々に囲まれながら開けた場所に、天然酵房やまそだちの敷地が広がる。奥は畑。中央の建物が、壁をじぶんたちで塗るなど、ハーフセルフビルドで建てた住まい


――すべてが暮らしに根付いていて、それはきっと楽しいことなのかなと思うのですが、いかがですか?

大崎さん:そうですね。楽しみながら。でもなんかやっぱり忙しいですね。自給的な暮らしをしたいと思うと忙しいけど、まあそれが楽しみでもあり

――スケジュールはどんな感じですか?

大崎さん:それがね、ないんですよ(笑)。だからその辺が課題かなと思っていて。週に1回、月曜日に配達に出て、水曜日にはフリースクールをやっているので、それが決まっていて、あとはもう農作業ですね。そこに子どもの予定が入ったり、そんな感じですね。


畑を案内してくれた大崎さん


【ここだからできること(泉さんの場合)】

――泉さんは、スイカづくり、和紙の乾燥の仕事、みそぎの里のカフェスタッフや、教室を借りて秘密基地にしたり、滝打たれのガイドをしたり、役場で働いたり、いくつもお仕事をしていますね。それは、ここだからと言えるのでしょうか?

泉さん:本当にそう、すべてそうですね。ここでしかできないことを敢えてしようっていうところがあります。大阪でもできることはスルーして、やったことがないこと、やってみたいと思うことを常に選ぶようにしてますね。

日常そのものも、ここでしかできないことを。たとえばお父さんとお母さんがしているような鶏を飼うこともそうだし、朝、その卵をいただいて卵かけご飯を食べるとか、そんな贅沢なこともできるし。蕗とか独活(ウド)を食べたのもこっちでははじめてなので、そういう山菜を採って料理とかも。自生してる冬いちごを摘んでジャムにしたのもはじめてで、そういう恵みをいただけるっていうのもすごく楽しんでやってます。


今回のインタビューのために、旧泉邸の庭を開放してくれた泉さん。ゆくゆくは、隣接する建物と庭、畑が「FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる」となる予定だ


――新しいことを恐れずに、どんどんやっているイメージがありますが、楽しむことが上手なのでしょうか?

泉さん:そうかもしれないですね。役場のお仕事も半年間させてもらったけど、本当にそうだった。期間限定だったけど、私にとってもすごく情報量が多く、人の繋がりやどういう動きがあるのかを見せてもらう上でもすごく良かったです。

でもやっぱり1番は、声をかけてもらうことが嬉しくてやらせてもらっているのが多いですね。天神産紙工場(和紙の乾燥の仕事)もだし、農家の農業アルバイトも1年ぐらいさせてもらったんですけど、それも声をかけてもらうことが嬉しくて。じゃあ私にできることを精一杯やろう、そこで私も何かを成長させようみたいな感じでするのが楽しいので、声をかけられたら、たいてい受けちゃうって感じですね。


みそぎの里(旧御祓小学校)の3・4年生の教室を借りて、泉さんにとって秘密基地的なものづくりの拠点に。この日は、和紙が吊るされていた


農業は創造的な仕事


育てる仕事のやりがいとは


――ここだからできる楽しみを見つけている皆さんですが、農業をしていることも共通点。農業の魅力や面白さをどのように感じていますか?

谷岡さん:私、果樹農家だけど、その子育てしているみたいな感じは好きです。

大崎さん:ああ、子どもと同じみたいな。

谷岡さん:そうそう。なんかこうね、答えてくれるっていうか。やり方は人それぞれだと思うんですけど、農業って、育てている作物の親であり、医者でもないといけないかなって思っていて。

大崎さん:なるほどね。



谷岡さん:
結局、元気に育ってもらわないと、いいもの、美味しいものは手に入らない。たとえば、子どもが風邪をひいたら、病院に連れて行ってあげて、怪我したら絆創膏を貼ってあげたりするけど、果樹だと、自分が見て、虫と病気、カビとかの部分の管理をしてあげないといけない。子どもなら痛いって言ってくれるけど、樹は痛いとか苦しいとか言ってくれないから、自分でそれを見極めないといけなくて。その見極めがよかったら、美味しくなるというか、返ってくる

肥料を与えるタイミングとか、そういうのも結局ごはんみたいな感じだから、量とかは収穫する段階では、割と素直に返ってくる。まあそれは私の中では結構楽しいというか、褒めてもらっているって言い方もおかしいけど、それでよかったよって言ってもらっているような気がして。まあ、日々そんなサイクルで楽しんでいるかな。

大崎さん:そうだね。それは魅力の一つだよね。

谷岡さん:あと四季を感じること。なんか、道端にタンポポが咲いていたり、雪が残っていたりとか、そんなところで四季を感じたりするのは、そとで仕事をしているからかなと思います。


まだ雪が残る取材時に、谷岡さんが新たにブドウの園地にしようとしている予定地を見せてもらった


実は体力よりも頭脳勝負


泉さん:私はまだ4年目のペーペーなので……。

谷岡さん:私も4年とか5年やで。

泉さん:あ、本当? そっかあ。でもやっぱりなんかイメージと違ったのは、ただ体力勝負なだけじゃない。

大崎さん・谷岡さん:頭、使う!

泉さん:やっぱりみんなそうか。頭を8割、9割使うって感じで。しんどいやろう、大変やろうって言われるけど、いや、体を使うのなんか全然、みたいな。

大崎さん:そうだね。



泉さん:
体だけ動かしていて育ってくれるんだったら、それがいいみたいな。ただ、もうそれまでの下準備がやっぱり1番難しい。その情報をどう精査するかとか、データをどう利用するかとか。

谷岡さん:結局決めるのは、自分だしね

泉さん:そうそう。どういう方針でいくかっていう。

大崎さん:そうよねえ。

泉さん:なにをどれだけ混ぜて、今の土の状態がこうだから、こうでみたいな。

谷岡さん:それも想像で。

泉さん:そうね。本とかだけの話だから、結局やってみないと答え合わせができない分、なんか、ああかなこうかなって考えながら、もうちょっと経費落とすにはどうしたらいいかなとか、自分の手をもう少しかけないようにするためにはどうしたらいいかなっていう、その采配とか計算とかの方がほとんどで、大変だけど、それが面白いってことはすごいありますね



谷岡さん:
そうだね。やり方はいろいろあると思うのよ。防除の仕方も自然農でするとか、ここまで農薬使うとか、ここはもう農薬に頼らないとか、除草剤は使うか使わないかとか、そこら辺のチョイスも結局自分たちでしないといけないじゃないですか。

泉さん:そうそう。

谷岡さん:なんかそこを決められるっていうのは、農業の魅力かな。

大崎さん:そうだよね。

泉さん:難しさであり、楽しさであったりしますよね。確かに。何通りもあって、何通りもの決断を全部自分でして。

大崎さん:鍛えられるよね(笑)

谷岡さん:そうね、失敗することもあるもんね。

泉さん:そうそう、それが経験値ってこと。



谷岡さん:
天候とかにも左右されるから、嘘―! 今のタイミングで雨がこんなに続くの!とかね。

大崎さん:あるある!

泉さん:そうね。次どういう天気でも、雨が続いても、こういう状態にしておけば大丈夫っていう、やっぱり打てる手はあるから。

大崎さん:全部、次を読んでね、対策して。

谷岡さん:で、あーあってなった時にも、どこで諦めてやめて、また次の新しいことに切り替えるかね

大崎さん:そこは捨てるとかね。そういう判断だよね。

谷岡さん:そう、ここは混ぜて土に返して、またやるとかっていうのは、結局自分たちで決めないといけないから。

大崎さん:そうだよね。総合的な、なんていうのかな。失敗したらまたそれを次に取り返すって言ったら変だけど、全部、自分たちの責任でやっているから、なんか経営者に近いよね

谷岡さん:でも、面白いところだと思いますよ。かっこよく言ったら、みんながね個人事業主で、それって、フリーランスだからね。

大崎さん:1年ごとのものもあるし、何年かかけてこの経費を取り戻していくというのもじぶんで考える。そこまで考えてじぶん好みの畑をつくる、じぶん好みの野菜とか商品をつくっていく。だから、全部つくり出していく、創造的な仕事だと思う。本当に、芸術でもあるし個人事業主なんだけど、すべてが含まれるよね



農業が、体力よりも頭脳勝負というのが意外な答えでした。日々の観察や世話がうまくいけば、ちゃんと美味しく応えてくれる、やりがいのある仕事ということも。 町外から来て、農業をしながら、ここでだからできることに楽しみを見いだしている皆さんですが、実際のところ、「農業」と「母親」「じぶん」とのバランスに悩むことはないのでしょうか。 次回は、「じぶん」について聞いていきます。

Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani


ここに会いに行こう


farmer's kitchen HIMARINO

子どもたちに野菜や果物の本当のおいしさを伝えたい、仕事や子育てに忙しいお母さんの味方になりたい。そんな想いを込めて、愛媛県産や自家製の野菜・果物を瓶詰めに。お取り寄せはオンラインストアを。
Homepage, Instagram


天然酵房やまそだち

小規模循環型有機農業を営み、県内外に野菜や卵、加工品を届けている。旬の畑の情報は、Facebookを。大崎さんが開催しているフリースクール「クローバー」の情報はこちら
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FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる


旧御祓小学校の教室を借りた、泉さんのものづくりの拠点。集めた素材や和紙を使ったアクセサリー、雑貨などが並ぶ。
住所:愛媛県喜多郡内子町只海甲456 コミュニティースペースみそぎの里2F
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