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ショートショート『青り運転』

田舎は気持ちがいい。いくらでも飛ばしていいんだからな。
俺は白いアルファードの速度をどんどん上げていった。
そんな俺の目に飛び込んだ一つの案内板

【青り運転にご注意ください】

なんだよ青り運転って、煽り運転の間違いだろ。馬鹿なやつが作ったんだな。
気にせずにどんどん飛ばす。
車の速度は100キロを超えている。高速道路でもない田舎道。
法定速度がいくらかなんて気にせず、飛ばせるだけ飛ばした。
前方に車を見つけた。止まっているのかと思うほどにチンタラ走っている。
俺はこの車のせいで、少しだけスピードを緩めることになり、イライラした。
クラクションを鳴らしまくって威嚇すると車は端に寄った。
それでも俺の気は収まらない。

前方に出て、左右をフラフラしたり、急ブレーキをかけたり。
思いつく限りの嫌がらせをしてやったんだ。
バックミラー越しにも相手のうんざりする顔が見えたところ
正面を見直すと、一面が真っ青になっていた。
俺は思わず急ブレーキをかける。
やべっ、今度こそ、後ろの車もぶつかるんじゃねえか、とドキッっとしながら、ミラーを見ると
後ろも一面真っ青、そしていつの間にか左右も真っ青だった。
「なんだよ、これ……」
四方の青い壁は、よく見てみると、少しずつだが前に進んでいる。
仕方なくそれに合わせて、ゆっくりと車を進めていった。
得体の知れない何かに、運転スピードを決められることはとてもストレスだった。

この青い壁・素材はなんなのか。
気になった俺は、ドアのウィンドウを開けて、壁を触った。
腕を伸ばせば届く距離にあったんだ。
触ってみると、手応えがなかった。水の塊に手を突っ込んでいるような。
だが、抜き出してみると、ペンキのような青色の塗料が手にべっとり着いていた。
これで青壁に衝突しようもんなら、白い車の前方だけが真っ青になる。それはダサい。

青い壁の動く通りに、俺は車を動かした。
途中で右に曲がったり、左に曲がったり。
壁自体の高さはそれほどなかったが
青い壁のせいなのか、カーナビで現在地も表示されない。
車からは今どこにいるのかもわからなかった。

走り続けて二時間ほどが過ぎて
青い壁はだんだんとスピードを落としていった。
そしてついには完全に止まった。
壁がゆっくり下がっていく
いったいどこに連れて来られたのか
俺はイライラで次に目の前に現れたやつをぶん殴りたい気持ちだったが……
現れたのはパトカーに乗った警察官、完全に周りを固められていた。
「わざわざ警察署まで来てくれてありがとさん。話はゆっくり中で聴くから」
何も言えなかった俺は、青くなっていた拳を開き、黙って警察署の中に入っていった。






お読みいただきありがとうございました。
青色をテーマにショートショートを30編ほど作る予定です。
書き切ったら書籍化します。

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