ショートショート『卒業の』シロクマ文芸部
卒業の気分がわからなかった。
小学校の卒業式は風邪で休んでしまった。
中学校はなんとなくで教室に行かなくなり、保健室にも行かなくなって
母から「あんた卒業したよ」と教えられたときには布団の中で猫と遊んでいるときだった。
家族のお陰でアルバイトもしている。
卒業してみたい、とボソリと呟いてみる。
すると「良いものありますよ」と黒づくめの老婦人。え、いつから隣にいたの?
「卒業したいあなたに、おすすめのものがございます」
「いや、でも気持ちさえ味わえたら、それで十分なので……」
と伝えている間に、婦人は消えてしまった。
翌朝、母親が大声を出している。
慌てて飛び起きてみると、家の前に大きな荷物、私の身長と同じくらい。
「門 在中」と書かれている。
住所も教えていなかったのに、勝手に届けられたみたい。
私の部屋には置き場所がなくて、リビングで広げる。
お母さんには「猫のためにキャットタワーを買ったの」と言い訳したけど、あんまり納得はしてなさそう。
包装紙から剥がしてみると、木製の門が現れた。
軽いから簡単に持つこともできる。
説明書には「好きな場所でご使用ください。卒業できます」とだけ。意味不明だった。
好きな場所って言っても、これ持って学校に行くの恥ずかしいんだけど。
そんなことを考えていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。
まさか、まだ変なものが届くんじゃないだろうな。
不安に思いながらも玄関へ向かった。
届いたのはネットスーパーの商品だった。
ああ、よかった。
野菜と卵と魚とお肉と。一つずつ確認していく。
と、そこをうちの猫が通りすぎて、家を出て行ったしまった。
「困ったわね、今まで家を飛び出したことなかったのに。届いたキャットタワーで遊んでいたら、何かを思い立ったかのように、飛び出しちゃったの」
もしかして『家猫』からの卒業しちゃったのかも。だとしたらまずい、一旦この門を片付けなければ。
私が慌てて門に布を被せているところ、母親が申し訳なさそうに話を切り出した。
「あとね、お母さんね。あなたのお母さんをやめようと思うの」
驚きのあまり、私は滑って布を被せながら、門の中に飛び込みそうになった。
いや、いっそのこと飛び込んだ方がよかったのかも……
こちらの企画に参加させていただきました。
前回の作品はこちらです。
お読みいただきありがとうございました。
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