熱狂の背景 清水大吾著「資本主義の中心で資本主義を変える」

みなさんはゴールドマン・サックスという企業についてどんな印象をお持ちだろうか。超エリートで高年収、生き馬の目を抜く、超激務など、いわゆる「資本主義の権化」的なイメージをお持ちかもしれない。それは正しい面もあるのかもしれないが、私は仕事の中で、それなりの数の現・旧ゴールドマン・サックスの方とお会いすることがあった。その印象としては、当たり前ながら、彼らも血の通った人間だった。中でも、本書の著者である清水氏のセミナーには何度も参加し、直接声を聞いてきた。彼のセミナーは面白く、信念を感じるものだった。陳腐な言い方をすれば、私は彼の”ファン”であり、本書を書店で見つけるやすぐにレジへ持って行った。

我が国では日経平均が最高値を更新したというニュースに熱狂と冷めた目が入り混じりながら沸いている。これは日本企業が稼ぐ力を高めたことに加え、資本コストや株価を本当に意識した企業体に進化したことが投資家に認められてのことだと解釈しているが、その過程において、清水氏のような金融のプロが発信してきたことは、小さくない役割を果たしてきた。

長らく、日本では金儲けをすることをあまりいいことだと考えず、むしろ安月給で一生懸命働くことが美徳であるかのような考えが跋扈していた。本題と逸れるが、大谷翔平選手がドジャースと総額1,000億の契約をした時に、「そんなにいるのか?」というような論調を耳にしたが、私は報酬=その人の仕事の価値だと思っているので、贅沢したいとか強欲とかいうのとは別次元の話であり、高額報酬に見合う価値の仕事ができるなら要不要にかかわらず受け取り、余ったら寄付でもすればよいと考えている。実際大谷選手は日本中にグローブを配るなど彼なりのやり方で野球の普及に取り組んでおり、頭が下がるばかりである。

そんな我が国では、投資家をハゲタカファンドのような投機家と同視するような誤解があったと思う。本来、自分たちの儲けのことしか考えない投機家と、企業を応援し企業価値の向上を通してWin-Winの関係をめざす投資家は区別して考えなければならない。真摯な投資家の意見は企業にとって聞く価値のあるアドバイスのはずだ。しかし、持ち合い株などで投資家の意見を聞かず、忖度で経営を進められる仕組みを作ってしまったことが、日本経済停滞の一因となった。この背景には、バブル期の成功体験、バブル崩壊のトラウマが強すぎたことが影響しているのだろう。バブル期には日本中が好景気であり、社外の声を取り入れなくても世界で勝つことができた。バブル崩壊のトラウマにより、リスクを取って投資するよりも内部留保を厚くした。我が国は良くも悪くも、いったん方向性が決まると一枚岩になる。この成功体験とトラウマから抜け出すまでには長い期間を要した。その背景には投資家と投機家を一緒くたにし、資本市場の声を取り入れてこなかったことがあったのだろう。ようやく日本全体がリスクオンの機運となり、株価や資本コストを意識した経営への移行が進んできた。今度は正しい方向に一枚岩になっており、この日本企業の変化は本物だと多くの投資家に評価されている。私も10年後の日本経済には期待を持たざるを得ない。

本書はこうした日本の資本市場の中心で、清水氏が取り組んできたことが記載されている。株価が上がっている理由が腑に落ちない方は、ぜひ一読をおすすめしたい。かなり理解が進むことだろう。

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