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売りは買いより難しい/事例に学ぶ製薬株の売却タイミング

こんにちは、そーすけです。
今回は、株の利確(利益確定)のタイミングについて考えたいと思います。

製薬業界では時々、株価が大きく変動する事例が起こります。新薬上市、合併、開発の失敗など様々です。
その株価の波にうまく乗ることができれば大きく利益を出すことができます。失敗すれば大きな損失を食らいます。
このような事例には株式投資に関する多くの学びや教訓があります。
私自身、利確のタイミングが悪かったために大損をしてしまった経験があります(後の事例でご紹介します)。

この記事の結論は、安易な売却はせず、今一度立ち止まってから売りのボタンを押しましょうということです。

今回紹介する事例は、製薬業界に限ったことではありません。
この記事を通じて、失敗しない株の売り方を学んでいただければ幸いです。



利益確定とは

買った株が値上がりした際に売却し、利益部分を現実化(確定)することをいいます。
株が好きな人ならよく聞く格言ですが「売りは買いよりも難しい」と言われます。
株価が上がって含み益が出ると、利確したい衝動が湧いてきます。一方で、これをずっと持っていればさらに増えて億万長者になれるのでは、なんて妄想まで湧いてきます。

このような状況で人間は間違いを犯しがちです。
誤ったタイミングで売ってしまい、結果的に思っていたよりもずっと損した気分になってしまうものです。

意外と奥が深い株の売り時ですが、近年製薬業界に起こった具体的な株価変動の事例を見ていただきます。
いつ売ればよかったのか?なぜあれだけ上がっていた株価が下がったのか?
色々な学びがあると思います。

では見ていきましょう。

事例に学ぶ製薬株の売りタイミング

事例1. 2020年 mRNAワクチンで上昇したファイザー株

2020年3月、新型コロナ感染症は全世界に拡大し人々はパニックになりました。高い感染率と死亡率、連日の報道も相まって人々は不安でいっぱいでした。
日本でも外出自粛という大号令のもと、ステイホームという名の自宅待機を余儀なくされました。

そのような状況下、ファイザーはこの未知のウイルスに対しmRNA技術を利用したワクチンを開発するという決断をしたのです。
ビオンテックと共同開発を行い、2020年12月には製品化され使用許可が下りました。
新種のウイルスが発生して1年以内にワクチンが生産出荷されることがどれだけ衝撃的か、製薬メーカーで働いている人ならよくわかると思います。

これらの結果ファイザーのワクチンは全世界に供給されました。
(ちなみに、その功罪に関してはここで論じるつもりはありません)

ではこの間のファイザー株の値動きを見てみましょう。


図.1 新型コロナ関連のイベントと株価の推移


図1はコロナパンデミック関連のイベントとファイザーの株価の推移です。2020年1月頃の株価は約38ドルでした。新型コロナパンデミックの発生後、mRNAワクチン承認まで株価は平行線を描きますが、2020年12月のmRNAワクチンが全世界に流通するようになってから一気に株価は上昇しました。
人々は熱狂してファイザー株を買い求め、2021年12月には58ドル近くに達しました。


また売上も市場の予想通り順調に推移し、2021年の年次リターンは脅威の66.7%でした(S&P500は28.5%)。

2021年ファイザーの年次リターンは指数を上回る

しかし全てが順調にいかないのが株の世界です。
2022年2月に新型コロナ治療薬のパキロビットパックを発売した頃から株価の動きが下降へと向かいました。新型コロナ自体が終息していったからです。
2021年12月に58ドルを付けた株価は右肩下がりに推移し、現在(2024年7月)は27ドル付近です。

歴史を振り返って「あの時ああすればよかった」というのはとても簡単です。当時の絶望的な状況で冷静な判断を下すことは本当に難しかったことでしょう。
その卑怯な「たられば論法」で当時の株の売り時を判断するならば、このファイザーバブルで売りぬく最適のタイミングは、新型コロナの治療薬が発売された2022年2月頃だったでしょう。

この事例での学びは、未知の疾患に治療ゴールが見えた時、そこが株の天井になるということです。


事例2. 2024年肥満症治療薬に沸くイーライリリー

2つ目の事例は、GLP-1作動薬の発売により株価が大きく上昇したイーライリリー(以下リリー)です。
事例1のファイザーよりも株価の上昇が激しく、しかも現在進行形の事例になります。

リリーは、アメリカ合衆国に本社を置くグローバル製薬企業です。主要領域は、糖尿病、中枢神経系、免疫疾患、がんなどです。
世界ランキングTop10には入っていないものの、豊富な開発パイプラインを揃えています。将来、10位以内に入ってくる可能性が高い今成長中の会社です。

現在リリーの時価総額は製薬企業の中で第1位です(約112兆円)。
その最も大きな理由として、肥満症治療薬による売上増加の期待が挙げられます。以下簡単に説明します。

抗肥満薬「チルゼパチド(製品名:マンジャロ)」は元々糖尿病の治療に用いられる薬です。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ペプチド)の二重作動薬であり、2つのインクレチンホルモンの受容体に作用することで、血糖値のコントロールを改善する作用を有します。
週に1回の皮下注射製剤で自己注射が可能です。
ちなみに米国ではZepboundの製品名で販売されていますが、都合マンジャロで統一します。

2022年5月に2型糖尿病の治療薬として米国で承認を受けました。その後、2023年11月に肥満症治療薬として適応が追加されました。
それを追うように世界各国でも承認が進んでいます。

参考までに、WHOなどのデータベースから国別の肥満症の患者は下記のとおりです。
これら国々でマンジャロが承認・使用されれば、多大な売上が見込めます。
こうやって並べるといかに先進国で肥満症の患者さんが多いかがわかります・・・。

【国別の肥満人口】
アメリカ合衆国(約1億人 成人の約42%)
中国(約9000万人: 成人の約6%)
インド(約7000万人: 成人の約3%)
メキシコ( 約3000万人: 成人の約30%)
イギリス(約1400万人: 成人の約28%)
カナダ(約700万人: 成人の約30%)
オーストラリア(約700万人: 成人の約31%)
日本(約600万人: 成人の約4%)

さて、それではリリーの株価の推移に各種イベントを合わせてみてみましょう。

マンジャロ承認以降より圧倒的な株価上昇局面へ

ご覧いただければお分かりになると思いますが、株価が圧倒的に右肩上がりに伸びています。いかにこの治療薬の成長が期待されているか、株価を見れば一目瞭然です。

このまま株価は右肩上がりで伸び続けていくのでしょうか?
それとも事例1のファイザー株のように急落するのでしょうか?

今後の株価の動きは正直分かりません。
ただし、新型コロナ感染症と異なり肥満症がすぐこの世からなくなることは考えにくいです。
ですので、上げ下げしながらも今の株価付近で推移するのではないでしょうか。

今後株価が下げる要素として考えられるのは下記のとおりです。

・未知の重篤な副作用の出現(短期・長期の使用含む)
・欠品、不良品、品薄など供給不安
・競合品の出現(現在いくつかのライバルが候補を開発中)
・政府の薬価抑制政策(もしトラ問題)

リリー株を売却するタイミングは非常に難しいです。
私個人の考えでは、キャピタルゲインを最大限に取るのであれば、先に挙げた肥満大国で承認が下りる時期に売却するのが良いのかなと思っています。
ただリリーは肥満治療薬だけでなく、アルツハイマー治療薬にも高い期待が寄せられていますので、安易に手放す必要もありません。

ここでの格言は、株価下落の可能性を常に考え、あらかじめ要素を洗い出しておくことですね。難しいですが・・・。

事例3. 2013年 迷える経営 アボットラボラトリーズのスピンオフ

アボットラボラトリーズ(以下:アボット)は、1888年に設立された米国の医療機器およびヘルスケア企業です。元々アボットは、医薬品・栄養剤・検査薬・医療機器と多角的なビジネス戦略を取っていました。
当時のアボットは経営における悩みを抱えていました。医薬品においては、その後圧倒的なブロックバスターに成長を遂げるヒュミラを有しており、業界から注目されていました。一方、栄養剤や医療機器は市場規模が頭打ちであったため成長は鈍化していました。
多角経営のデメリットとして、成長のプラス材料とマイナス材料が同じ会社に存在していると株価が上がりにくいのです。
まさにアボットはそのような状況でした。
そこで経営陣は大きな決断をします。アボットを2つの会社に分社化(スピンオフ)することにしたのです。
株価が適正に評価され、かつ経営資源を1つの事業に集中できることが将来の成長に必要だと判断したと推測されます。

会社は2つに分割され、株は1:1の比率で分けられました。
当時アボット株を100株持っていた人は、アボット100株+アッヴィ株100株持つことになりました。

その後、アッヴィ・アボットの株価は経営のジレンマが解消したため株価が徐々に上昇しました。
価格も元に戻ったため、スピンオフ前の実質2倍になりました。

私は当時アボットに勤めていて、700株ほど持っていました(当時1株30ドル程度、1ドル=85円くらい)。
そこにスピンオフの話が舞い込み、合計1400株に増えました。

今でも悔やんでいるのですが、当時の私はこのミラクルな状況と湧き出る欲望に勝てませんでした。

何を考えたか両社の株を売って現金化し、新車の外車を購入したのです・・・。
450万をキャッシュ一括で買い最高の気分でした。

当時の私に会えるのなら引っ張ってでも止めたでしょう。

その後、両社の株は上りに上がりました。
当時の450万円分の株を売却しなければ、今の換算レートで約2240万円になっています。



私の人生で最大のミスです。
今冷静に考えれば、スピンオフの事情(株価上昇期待)、ヒュミラというブロックバスター、堅調なアボットの事業成長などプラス材料ばかりで、売る必要など全くなかったです。

教育資金や老後資金などの準備のためといった理由で株を売却するのは全く問題ないのですが、贅沢品購入のためにこういった宝を売ることは避けた方が賢明だと思います。

ここで得られた教訓は、株を売るときは冷静に。そしてその贅沢は株を売るほど必要なことか。これらを自問自答すべきでしょう。

ちなみに昨今では、株式分割が盛んに行われています。NVIDIAは2024年6月に株式分割(1株→10株)しました。日本においても中外製薬やNTTなど株式分割を行いました。
これらについて私は肯定的です。プラス材料が多い中での株式分割は全く問題ないと思っています。

まとめ

今回は株の売り方について、近年起こった製薬株変動の事例をご紹介しました。
ヘルスケアは安定した配当だけでなく、キャピタルゲインも期待できるセクターです。
ぜひ私と一緒に学びながら、ヘルスケア株への投資を楽しんでいただければと思います。








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