散文　ナイトバーグ・チルドレン

〈ナイトバーグ・チルドレン・ハウス〉

おはよう、ナイトバーグのこどもたち。
おやすみ、ナイトバーグのこどもたち。
ああ、わたしたちの愛しいこどもたち。

「成長すると、あの子たちは消えてしまうんですね。」
「消えるわけじゃない。私達が認識できないほど巨大で、広大で、遠大な存在になるだけさ。」
「どれくらい大きくなるのですか？」
「この空をすっぽり飲み込むくらいかな。」
「それじゃあ、空はあの子たちの胃袋の色を映しているのですね。夜はあの子たちの時間ですもの、どおりで暗いはずですね。」

誓約、わたしたちは《こどもたち》に危害を加えません。
誓約、わたしたちは《こどもたち》に強制しません。
誓約、わたしたちは《こどもたち》を平等に愛します。
所長　ニューグラフィス・ナイトバーグ
副所長　ウー・ジュイ
補助長　チュアナ・ツォアボキ
（所長、副所長、補助長は補助員兼任）
補助員　トウシチ・シミズ
補助員　リリアン・ガッツ
補助員　チル・ヴォーガス
補助員　ヒヌメイヤ・パッセー
以上七名は、この血に代えても《こどもたち》を疾病、迫害、貧困、飢餓、その他あらゆる困難と災厄から守ります。
代表　創設者　ニューグラフィス・ナイトバーグ

食品保管責任者　ビル・コットン
医療責任者・医師　ソ・シュ・クニア・ヒディ
建設・運営資金支援　〈摂理の膝元〉、ストレイト・マナフン・パラグラビティ特別区保護教会、ムーニュント連星大学付属病院

夜中だけ目を覚まして朝陽とともに眠りに就く《こどもたち》がいる。あるものは八つ足で這い回り、あるものは泥状になり天井にへばりつく。床に穴を開けて他の者を引きずり込むのを好むものもいる。

《こどもたち》に食事を供し、洗体を施し、寝床を整え、時にはコミュニケーション、スキンシップをはかり、健康な生活を補助するのが職員の仕事である。

《こどもたち》は全七名。各房鉄扉上部にルームネームを刻んだプレートが鋲で打ち付けられており、それが《こどもたち》の名として呼ばれる。

日誌は当直室内で書くこと。照明器具の使用は居室から居室への移動の際に限る。各房内を灯りで照らしてはならない。各房へ入室する際は防護服と暗視ゴーグルを着用する。

職員は全七名。勤務形態は午後六時から翌午前二時までのA勤と、午前零時から午前八時までのB勤がある。連続勤務は最長三日まで配置される。（例：A勤、A勤、A勤、公休、B勤）

毎日、職員はA勤者一名、B勤者一名がシフト制で勤務する。休憩時間は最長五十分。状況に応じて任意のタイミングで休憩をとってよい。休憩開始時刻、終了時刻をタイムカードに記録すること。

A勤者は午後六時に出勤後、施設内全扉のセキュリティ、空調設備ほか生命維持装置、監視・警報装置、食品用冷凍庫等がすべて正常に機能していることを確認する。

A勤者は午後七時に防護服を着用する。各房鉄扉の覗き窓から《こどもたち》の状態を目視確認後、入室して寝台を拭き清潔なシーツに取り替え、周辺の危険分泌物質・汚物などを回収する。

A勤者は午後九時からマルチモニタルームにてパネルを操作し、食事を提供する。《こどもたち》の食事風景の観察を開始する。食事の内容と摂取量を記録する。

A勤者は午前零時まで食事の様子、排泄、変色、変態、脱皮、換羽、産卵、体調不良などを記録し、その都度対応する。場合によっては所長、専属医師へ連絡する。

A勤者は午前零時から二時までに、B勤者への引き継ぎをし、当直室にて本誌への記録を書き残してから退勤すること。“夜道はくれぐれも気をつけて。”

B勤者は午前零時に出勤後、A勤者からの引き継ぎを受け交代し、マルチモニタルームにて《こどもたち》の食事風景の観察を開始する。食事の内容と摂取量を観察する。

B勤者は午前三時まで食事の様子、排泄、変色、変態、脱皮、産卵、体調不良などを記録し、その都度対応する。場合によっては所長、専属医師へ連絡する。

B勤者は午前三時から六時までに、防護服を着用し、各房に併設されている浴室にて《こどもたち》全員の洗体入浴を行い、寝台に誘導する。不眠時の向精神薬、睡眠薬の使用は専属医師の許可が必要。

B勤者は八時までに《こどもたち》全員の就寝を確認し、各房の浴室の清掃を行う。食品や備品、医療品等の補充が必要なら手配し、本誌への記録を書き残してから退勤すること。

日中は無人となるため、B勤者は退勤前に空調設備ほか生命維持装置、監視・警報装置、食品用冷凍庫等がすべて正常に機能しているのを確認後、施設内全扉を施錠する。

A勤者、B勤者ともに勤務中、《こどもたち》の様子次第では、防護服を着用している場合に限り、スキンシップ、アイコンタクト、日常的な会話をしてもよい。交流記録を書き残すこと。

（2018/4/11）