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ある中国資本企業の採用面接by転職定着マイスター川野智己

「ここに並んでいる女性陣があなたの部下になります。」
身体の線が浮き出るようなスーツを身にまとった女性社員が、唐突に部屋に入ってきた。そして、TGCよろしくポージングをとり、求職者である彼の目の前に並んでいたそうだ。

 私は、彼の転職活動の経験を聞いて耳を疑った。
 ある人材紹介会社に、登録の為に訪問したそうだ。
 他の人材紹介会社で行われるように、キャリア面談と希望する企業像や賃金などの希望条件がヒアリングされていたという。

 キャリア面談の相手である人材紹介会社のコーディネータが席を外した。通常なら彼の希望する求人案件の求人票を複数持参して戻ってくるはずだった。しかし、そこに現れたのは、先ほどまでのコーディネータとは全くの別人の男だったのだ。

「はじめまして。貴方の希望条件は、先ほどのコーディネータから聞きました。私はA社のB山です。」
 と、男は話し始めた。
「貴方の希望条件にピッタリ合致する求人案件があります。それは、わが社の求人案件です。もっと具体的に言うと私の後任のポストです。」
 彼は男が何を言っているのか、当初は理解できなかった。

「驚かせてスミマセン。ご存じかどうか、実は数年前にわが社は中国資本に買収されました。実は、私は中国人の経営陣とそりが合わないのです。彼らのビジネスのやり方にはついていけません。一刻も早く辞めたいのですが、『後任を探さないと辞めさせない』とクギを刺されて身動きが出来ないのです。お願いだから、私の後任になってください。」

 その後に、「貴方の部下になる女性陣を紹介しよう。」との一方的な言葉と共に入室してきた様子が、冒頭の記載である。
 繰り返すが、彼はこの企業に応募などしていないのだ。

 私は、彼から、これら一連の経験談を聞いて耳を疑った。
 人材紹介会社には守秘義務があり、求職者の了解なしに求人案件を進めることはあり得ない。恐らく、訪問前に彼の履歴書をみて、「ねじ込める」と考えA社の者を別室に待機させていたのだろう。
 これだけでも十分に非常識だが、求職者の彼に対して、自社の批判を滔々と聞かせた挙句、「自分は嫌気がさしたが、辞める為にも、あなたが後釜になってくれ」と誘う神経が理解できない。そんな実態を聞かされて、「では、入社します」と言う人間がいるはずがないからだ。

 この異常な事例は、中国資本企業だからと言うよりも、この企業のB山氏の資質に問題があるのだろう。
 そんな非常識なことを行ってまでも、辞めたかったという企業はどんな雰囲気なのかと、怖いもの見たさはあるものの。
                                完
 
 

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