幕末のリアルな監獄のようす、というマニアックな知識が深まった團菊祭五月大歌舞伎夜の部感想
病気か?
というペースで歌舞伎に行っている
いや、それはさすがに言い過ぎか……
5月には團菊祭五月大歌舞伎に行ってきた
感想書きますのでお時間ある方はどうぞ
伽羅先代萩
これ、どう読んでも「めいぼくせんだいはぎ」とは読めないと思う。
女ヤクザの抗争みたいな、権力を持つ女たちが睨み合い、威嚇し合う治安の悪いシーンがあり、めちゃくちゃ格好よかった。
たぶん、後半の二部の「四千両」の登場人物の99%が男性なので、それと対比させる意図で、
こちらの演目は男の子二人の子役を除くと、
女性しか出てこなかった。
女、女、どこを見ても女……(←中身は男性)
見た目は華やかな演目なのに、
ストーリーは「武士道」「忠義」「裏切り」「暗殺」とめちゃくちゃ男社会というか武士っぽい、ソリッドな筋立てだ。
また前半の「飯炊き」のシーンの優雅な手つき。
お腹空いてフラフラしてる子どものかわいそうな姿。
も印象的だった。
ところで私は新興宗教2世として育ってきたのであるが、
この演目で、親が子供に役割を求め、子供がそれに応えようする様子が、
自分の幼い頃の経験と重なって見えた。
子供に子供らしく過ごすこと以上の「役割」をさせることは、立派であるのと同時に「かわいそう」である。
そういう感性が一般的で、
しかも250年も前からあったということに慰められる思いがした。
床下のシーンは短かったが、
妖術使い同士の対決というファンタジーあふれるシーンでエンタメとしてもめちゃくちゃ面白かった。
四千両
今から150年くらい前に起きた実際の窃盗事件をモチーフにした演目だ。
四千両を国庫から盗み出し、捕まって死刑になった二人の、窃盗の瞬間から逃亡劇、逮捕されて投獄され、死刑になるまでのあゆみを演劇化したものだ。
四千両とは現代においては三億円くらいの価値があるらしい。
三億円といえば「三億円事件」がある。
(知らない方はこちらをどうぞ)
たしかに、かの三億円事件とはセンセーショナルで(未解決だし)興味をかきたてる。
同様に、150年前もこうして実際に起きた事件にインスピレーションを掻き立てられて歌舞伎の演目にしよう!とした人がいたんだなぁと。
そうした感性に共感できる気がした。
またこの演目の見どころとして、
実際に入ったものでなければ知るよしのない、
幕末の監獄の内部のようすが描かれている、というのがある。
歌舞伎座の二階の奥の方の座席で観ていたが、
人相の悪い男たちがずらりと並んで集会をしている光景は怖さを感じるほど迫力があった。
学校にはスクールカーストがあり、
職場にも年齢とか経歴とか職務とかによって序列があるものだが、
150年前の監獄にも「秩序」があり、
たぶん自然発生的な「組織」があった。
牢屋にぶち込まれるようなお尋ね者のみで営む共同生活だが、
看守から倫理や人道を説かれなくても、
監獄内を統治する大悪党が「仁義」を説き、
監獄内に「秩序」が行き渡るよう見届けているというのはある種心強くもあるのではないだろうか。
まぁ、その「ドン」的な大悪党の好みだけで采配が決まるというのは心もとないと言えばそうかもしれないが。
その点主人公の富蔵は仁義に厚い男ということもあり、監獄のドンをはじめ監獄内の幹部たち、囚人たちからも好かれていた。
最後のシーンで「死刑」の沙汰を言い渡され、
事件を起こした二人が久しぶりに再会する。
これから市中引き回しによる死刑という凄惨な処刑が待ち受けているが、
二人とも監獄内で好かれて、人望を得ていたので、
いよいよ死刑に臨む、
というタイミングで柵の中から見送る囚人たちから「よっ!天下の大悪党!」と口々に歓声があがる。
その姿はカーテンコールを浴びる役者のようで、
すがすがしい雰囲気の中で幕が下りる。
なんか……この結末からは
どんなに落ちぶれても重んじるべきは「義」であり、最も価値あるものは「人脈」なのだ、
とかいう、意識高い系ビジネスマンみたいな結論を150年前の脚本が出してくるのがホントに面白いなと思った。
時代が変わってもきっと人間は、そう変わらないのだ。
まとめ
歌舞伎ってホントに色んなジャンルの演目があるんだな、と観るたびに驚かされる。
ただのダンスナンバーみたいなライトな作品(猩々)から、
人殺しの瞬間の集中力をかっこいいとも、コワいともいえるような感性で抽出したり(夏祭浪花鑑)
百合ファンタジー(天守物語)
チャイコフスキーのくるみ割り人形みたいなオムニバス形式のもの(四季)などなど……
今回はどちらも任侠ものっぽかった。
まだまだ歌舞伎を初めて見てから1年に満たないド初心者の私だが、
観るたびにまだまだ新鮮な驚きがあって面白い。
まだまだたくさん観に行ってみたいと思っている。
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