『HER STORY』事情聴取映像を繋ぎ合わせるゲームについて語る※ネタバレあり
今回はSteamなどからダウンロードできる『HER STORY』というゲームについて、そのストーリーと登場人物の性質の複雑さについて語ろうと思う。
『HER STORY』とは
2015年にリリースされたゲーム。
とある女性が警察で事情聴取を受けている様子の映像が細切れになった状態でデータベースに保存されており、プレイヤーはキーワードを駆使して映像を次々と探して視聴し、彼女に何があったのかを解き明かしていく。
公開当初から高評価を受け、たくさんの賞にノミネート・受賞している。
※以下ネタバレしまくるので、未プレイの方はご注意ください
登場人物
サイモン・スミス
ハナ・スミスの夫で、ガラス会社で装飾や彫刻の仕事をしている。
今回の事件の被害者で、行方不明だったが自宅の地下室でのどを切り裂かれた死体として見つかった。
妻そっくりのイヴに近づき、妻を捨ててイヴと結婚したいと迫った。
しかし迫った相手がイヴのフリをしたハナだったため話がこじれて、結果的に死んでしまった。
ハナ・スミス
サイモンの妻。
紅茶を好む。タトゥーはない。
内気でプライベートのことをあまり語りたがらない。表情もあまり変化しない。
おそらく髪をまとめること、淡い色の服が好み。
実はイヴとは双子で、二人で「ハナ」を演じていた。
(最初に警察署を訪れたのはハナを装ったイヴ)
イヴ
ハナとは双子だが、世間的には存在しない女。
ブラックコーヒーを好み、左の二の腕にリンゴと蛇とタトゥーがある。妊娠している。ギターを弾ける。
積極的な性格で、話好きなのか冗談を言ったり話題が主題から逸れることもしばしば。表情豊か。
おそらく髪をおろすこと、はっきりした色の無地の服が好み。
助産師フローレンスによって本当の両親のもとから奪われ、隠して育てられた。
エリック
ガラス会社のアーンスト・ブラザーズに勤めており、サイモンの上司。
("エリックの会社"という表現があったため、上司というか社長かも)
サイモンとハナは彼の職場で出会った。
サイモンに時計をあげたことがある。
ダイアン
エリックの妻。夫の会社を手伝っている。子供が2人いる。
ダグ
サイモンの父親。
ハナに給食を作る仕事を紹介した。
エレノア
サイモンの母親。
フローレンス
助産師。かつてハナの実家(今ハナが住んでいる家)の向かいに住んでいた。
ハナが生まれるときに、一緒に生まれたイヴを死んだと偽って連れ帰り、秘密裏に育てた。
戦争で夫を失った未亡人だった。
サラ
イヴとサイモンの間に生まれた子。
このゲームは彼女がデータベースを用いて、自分の母親(イヴ)に何があったのかを探る視点となっている。
時系列
1967年6月17日
ハナとイヴ誕生。
しかし助産師フローレンスが、双子の片方は首にへその緒が巻き付いて死亡したと嘘をつき、イヴを連れ去る。
ハナは以降一人っ子として実の両親に育てられ、連れ去られたイヴはフローレンスに秘密裏に育てられる。
彼女たちが誕生し、最終的に事件現場になるこの家はポーツマスにあるらしい。
ポーツマスはイギリスの南部にある海に面した都市。
1972年6月17日
ハナとイヴが5歳の誕生日に互いの姿を見て双子であることに気づく。
1975年
フローレンスが階段で滑り事故死。
イヴ(当時8歳)がハナの家に行き、ハナがイブを屋根裏に隠したことで、イヴが秘密裏にハナの家の屋根裏で暮らし、ハナとイヴの2人でひとりの「ハナ」を演じるようになる。
1982年
イヴ(当時15歳)がハナのフリをしてバンドマンのカールと初体験を済ませる。
1983年
イヴとハナ(当時17歳)がガラス屋のアルバイトでサイモンと出会う。
1984年
妊娠を機にサイモンとハナ(当時17歳 誕生日前でまだ18歳になっていない)が結婚、ダグとエレノア(サイモンの両親)と暮らすようになる。
屋根裏に残ったイヴも妊娠しようと手当たり次第に試みるが妊娠できず、性病に感染する。
1984年夏
ハナが妊娠8ヶ月で流産し、その影響で以降子供を望めない体になる。
ハナの両親が死亡する。
(死因はキノコによる食中毒とされるが、ハナもイヴも疑問視している)
ハナが実家を相続したため、実家にハナとサイモンが引っ越してくる。イヴは屋根裏に隠れたまま過ごす。
1984年冬?(上記の約6か月後)
イヴが屋根裏を出て他で部屋を借り、バーで歌って生活費を稼ぐようになる。
1986年?(事件の約8年前)
イヴが腕にタトゥーを入れる。
1992年2月
スピード違反でハナが切符を切られる。
(おそらく本当はイヴ。運転が苦手なのはイヴの方。この時点でサイモンはイヴと浮気し、架空出張先のオックスフォードで逢引きしたと思われる)
1994年6月17日(金)
夜(仕事から帰宅後)
ハナがサイモンに、自分に双子の姉妹がおり、一緒に暮らしたいと打ち明ける。
サイモンの表情で、イヴの子の父親がサイモンであると気づく。
ハナがサイモンを追い出す。
ハナがイヴを電話で呼び出す。
午後8時
先に家を出たサイモンが「ザ・ロック」を訪れる。
サイモンはヘレンに口論したことを漏らす。
午後9時
イヴがハナの家に行き、二人が喧嘩になる。
イヴが車でグラスゴーに向かう。
ちなみにポーツマスからグラスゴーは、GoogleMap曰く車で7時間半かかるらしい。
ハナがウィッグを被りイヴのフリをしてサイモンと会う。
サイモンがハナと別れイヴと一緒になりたいと言ったことで我を忘れ、プレゼントでもらった鏡を破壊。
言い争いになり、ハナがサイモンからぶたれる。
ハナが威嚇のために鏡の破片を振り回したところ、サイモンの喉を切り裂いてしまい、サイモンが死亡する。
(つまり、サイモン殺害はハナの単独犯)
イヴがグラスゴーでタクシーと接触し、病院で診察を受ける。
1994年6月18日(土)
午前8時
イヴがグラスゴーを出発。
午後3時
イヴがハナの家を訪れ、事態を把握。
イヴとハナで協力して死体を地下に運び、偽装工作を開始する。
(つまり、偽装と犯人隠蔽はハナとイヴの共犯)
午後7時7分~
ハナを装ったイヴが警察署を訪れ、サイモンを探してほしいと訴える。
サイモンの特徴を一通り語り、自殺したりトラブルを起こすような人ではないため何かに巻き込まれた可能性があると主張。
この日はイヴなので、髪をおろしており濃い青色のシャツを着ている。
ブラックコーヒーを要望しており、話がそれたり警官に結婚しているか尋ねたり(=自然に会話を広げようとしたり)と外交的な性格が見える。
1994年6月25日(土)
午後1時35分~
本物のハナが訪れ事情聴取を受ける。
上司夫妻や友人、両親のことなど、サイモンや自分の周りの人間との関係についてと、自分とサイモンの出会いについても説明した。
(警察官からアザを心配されているが、これはイヴと揉みあったときか、サイモンにぶたれたときに負ったもの)
この日に指紋を取られているため、本物のハナの指紋が登録された。
この日はハナなので、髪をまとめており薄い水色のシャツを着ている。腕にタトゥーはない。
紅茶を要望し、プライベートなことだからとサイモンと口論の内容を詳しくは語りたがらなかった。
義両親からの"干渉"と言うなど、やや嫌がっているような様子がある。
1994年6月27日(月)
午後8時52分~
サイモンの死体が自宅地下室で発見され、第一発見者としてイヴがハナを装い警察署を訪れる。
ここでサイモンの死亡推定時刻に自分は自宅におらず、グラスゴーにいたと言うアリバイを話す。
そして突如嘔吐するが、これはつわりであり妊娠していることも打ち明ける。
この日はイヴなので髪をおろしており、派手な赤色の服を着ている。
コーヒーを要望。ブラックが好きと言っている。アザは元からない。
昨日ハナがプライベートだからと伏せた口論内容を、妊娠についてだったと明かす。
(妊娠した双子の姉妹と一緒に住みたいという話だったから、100%嘘とも言い難いが正確でもない)
1994年6月30日(木)
午後3時41分~
本物のハナが、自宅から見つかったウィッグの毛について心当たりを問われる。
(ないと答えたが、実際にはイヴが使っていたもの)
この日はハナなので紅茶を要望。砂糖を1つ入れていることからやや甘めを好むこともわかる。
半袖の服で、腕にタトゥーがないことがわかる。
取り調べを録画しているかを聞いている。
性生活について問われたことに嫌悪感を示し、警官に性生活や子供は何人か?と問う。
この日、あまりプライベートを話したがらないハナが、なぜか"友達のイヴ"の顔を水に押しつけたエピソードを自分の暴力性と絡めて話す。
警官が一時離席している間に、自分で自分に対して「なぜイヴのことなんか話すの?」と戸惑っている様子も見られる。
この時指先で机をたたいているが、これはタップコードという暗号の一種。「LOVE U(あなたを愛してる)」と打っている。
1994年7月1日(金)
午後2時20分~
ハナを装ったイヴが取り調べを受け、サイモンとの出会いや2月のスピード違反切符について問われる。
そしてなぜか唐突にギターの弾き語りを披露することになる。
この日はイヴなので、ブラックコーヒーを要望。妊娠中でもやめられないことを漏らす。
途中でコーヒーをこぼしたことで、来ていた長袖のシャツを脱ぎ、途中で半袖になった。
それによって腕のタトゥーがあらわになる。
リンゴと蛇というモチーフは、旧約聖書に登場する人類最初の男女アダムとイヴを連想させる。これを自己表現としていること、そして昨日のハナの話から、警官は今目の前にいるこの女こそがイヴでは?と勘づくことができただろう。
そして、イヴはここで姉妹の顔を水に押しつけて殺すストーリーの歌を弾き語りして見せる。
同様のエピソードを前日ハナが話しているが、この曲は友達ではなく姉妹の歌だ。警官もここまで匂わせられれば、彼女たちが双子であることを確信できるだろう。
この日、昨日ハナが聞いた子供がいるか?や録画しているか?についてイヴが再度質問している。
1994年7月2日(土)
午後2時18分~
本物のハナが取り調べを受ける。
この日初めて警官から双子では?問われ、馬鹿じゃないのと怒りすぐに去ってしまう。
この日はハナだがイヴを装おうとしている。服装がイヴが好むような色が濃いもので、髪を下ろしている。紅茶ではなくコーヒーを要望したが、ブラックではなくミルクと砂糖入り。
指紋について強気なのは、警察に登録した指紋は本物のハナなので、この日の指紋と比べられても問題がないからだ。
ハナがコーヒーを頼んだのも、疑われていることに気づき、あえてイヴっぽい振る舞いをして払しょくしようとしたのかもしれない。
1994年7月3日(日)
午前11時26分~
イヴの取り調べ。察していたのか、噓発見器に素直に応じ、イヴとしての自分の経歴を洗いざらい話す。
事件の顛末
ハナも、イヴも、サイモンも、とんでもなく異常というには憚られるがどこか倫理観が欠如した行動だったり、常識的ではない行動を積み重ねた結果、こじれにこじれてこの事件に繋がる。
(そもそもはフローレンスが問題だが、そもそも過ぎるので直近の主要3人の動きを見る)
ハナ
ハナは自分の理想の世界を確立すること、もしくは好きなものを囲っておくことに執着していたように見える。
幼い頃であれば、屋根裏の大きな人形の家がわかりやすい。理想の素敵な家という箱庭を作っていた。
イヴが家を訪れたときの行動が異常で、両親に相談するなどできたはずだが、彼女はそうせずにイヴも屋根裏に囲った。お気に入りの人形の家があるところに。人形と同じ扱いなのだ。
ハナにとってのイヴは対等な関係ではなく、(愛憎入り混じってはいるようだが)自分のお気に入りのひとつというところだろうか。
だからこそ、イヴと分け合わず自分だけで独占したはずの愛するサイモンが、自分ではなくイヴを選ぼうとしたことに激しく動揺したのだろう。
ハナは最後にイヴを警察に差し出し、自分の方が姿を消した。
もしイヴと同じく子供を第一に大切であると考えるならば、自分が警察に行きイヴを逃がしても良かったはずだ。しかしそうしなかった。
結局のところハナにとってはハナ自身が一番大切であり、サイモンもイヴもお気に入りのひとつという格差があったのだ。
イヴ
イヴはその生い立ちから、自分は影に隠れなければならない存在であるという劣等感のような、なんらか不完全な存在という認識があったようだ。
だからハナと接点を持った時も、一対一というよりも、欠けた部分を満たせるという感覚を持っている。
イヴがひとりの独立した人間として歩む道もあったはずだ。
彼女が屋根裏を出て部屋を借り生活費を稼ぎだしたのはその一歩だった。そのまま歩めれば良かったのだが、サイモンがそれを阻んだ。
いや、イヴが姉妹の夫とは関係を持つべきではないと考えて自ら拒絶することもできたはずだから、結局のところ彼女の倫理観にも問題はあった。
彼女達は互いが何を証言したか共有できただろうし、実際したはずだ。グラスゴーでのいきさつが殆ど同じセリフだった。
しかしイヴは警察でタトゥーを見せたり(コーヒーをこぼしたのはわざとかも)、弾き語りで姉妹の歌を選んだりと、双子であることをバラそうとしているように見える。
イヴがハナに成り代わってハナの人生を歩もうとしたのかとも思ったが、おそらく違う。
イヴはイヴとしての自我がある。だからこそ腕にヘビとリンゴのタトゥーを彫った。最後の取り調べでもタップコードで「BYE HANNAH」と、ハナへの別れを告げている。ハナと自己を分離させて、イヴとして生きようとしているように見える。
しかし子供にはサラと名付けた。これはハナが子につけようとしていた名前だ。(本物のハナが事情聴取に応じた6/30にこのことを話している)
イヴはイヴとして生きようとしたが、その人生でハナに成り切ったことが侵食しており、ハナとしての要素を切っても切り離せなかったのもまた事実だったのかもしれない。
サイモン
周囲からの評判のいい真面目な男だったようだが、浮気野郎だった。
しかも妻そっくりの女と浮気するという……どういう思考でそうなった?
妻へのプレゼントと同じものを浮気相手にプレゼントするあたりが非常にクソ。
しかも浮気がバレた後"言い争いになった"ということは素直に謝ったわけでもなさそうで、いろいろとクソ。
このゲームの直接的な続編というわけではないが、後継作品である『TELLING LIES』もプレイ済だ。
そちらはストーリーが私の好みとは違ったため、ここでは紹介を割愛する。
そして気づいていなかったのだが『IMMORTALITY』という、さらなる後継作品が出ていた。
これは未プレイなので、時間ができたらやってみようと思う。