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ヱビスビール

[ 日本語雑話:ゐ・ゑ ]

高校に入学したばかりの生徒に五十音図を書かせるのは、結構おもしろい。
「ばかにするな」という勢いで書き始めた高校生はヤ行とワ行で大抵行き詰まる。
「ヤ行のイ・エ段とワ行のイ・ウ・エ段は空欄?」と。

やいゆえよ・わゐうゑを
ひらがなは漢字全体が崩れてできたんだ。
「ゐ」は「為」から。でもこれは書ける。
「ゑ」は「恵」からできた。だから下の部分は「心」が崩れた形。
ニョニョロとか、「灬」じゃないよ。

次にカタカナで書いてごらんと言うと、これがまた大抵行き詰る。

ヤイユエヨ・ワヰウヱヲ

次にローマ字で書いてごらんと言うと、次の四つでどちらを書けば良いか混乱をきたす。でも、今では日本式とかヘボン式とかローマ字を習ってこないのかもしれない。

ti と chi ・ tu と tsu ・ si shi ・ hi と fi

じゃあ、見ないで段ごとに言ってみようか、と言うとこの辺りが限界。

あかさたなはまやらわ・いき・・・

次に、「いろは」を書いてごらんと言うと、大抵、途中まで書いて、最後まで行きつけない。

いろはにほへとちりぬるを・・

基本なのだが、意外とそういう基本を身につける機会がなかったかということがわかる。


カタカナの「」、「」を説明する時、前者は「ウヰスキー」という例を出すのだが、ほとんど分かってもらえない。
後者は「ヱビスビール」を出すのだが、これも微妙である。

酒の例では高校生には微妙であろう。ただし、僕も最近はお金がなくて4リットルの焼酎を買ってそれを麦茶や野菜ジュースで割って飲むと言う生活をしている。ウヰスキービールは高校生に劣らず遠い存在である。
本当に年に数回、自分へのご褒美として、ヱビスビールプレミアムモルツを清水の舞台から飛び降りる覚悟で飲んでみようと思う程度である。

話が横道に逸れたが、「ヱビスビール」の「ヱ」はワ行なのだが、不思議なことにビール本体には「YEBISU」とヤ行で書かれている。「WEBISU」とか「EBUSU」とあってもいいところだ。

この事情をサッポロビールのHPでは次のように説明している。

Q.恵比寿駅のローマ字はEBISUなのに、ヱビスビールはなぜ「YEBISU」と書くの?

A.江戸末期から明治中期にかけて、日本語の外国人向け表示には「エ」を「YE」と表示したものが多くありました。例えば江戸Yedo、円Yenなどです。これは日本語を初めてローマ字表記したポルトガルの宣教師が、当時(16世紀)の日本人の発音を聞いて「YE」と表記したものです。しかし、日本語の「エ」の発音は、その後変化して江戸時代の間に「E」となったのに、外国人は16世紀の日本語表示のまま、「E」とするところを「YE」と書いていました。このため、日本人は最初「エ」は「YE」と書くものだと思ったようです。ヱビスビールも明治23年に発売以来、商標のローマ字は「YEBISU」であり、今日でもこれを踏襲しています。

この説明では「ヱビス」の「ヱ」はヤ行ではなくワ行ではないかという疑問が残るが、江戸も「yedo」、円も「yen」と表記される。室町あたりにア行ヤ行の「え」もワ行の「ゑ」も、ついでに言えばハ行の「へ」も「ye(je)」という発音であったらしい。
適当なことを言から当てになさらないでいただきたいが、それは語頭の母音は言いづらいので「y」を添えた変化だったのかもしれない。あるいは同様に「場合」のような二重母音が「ばやい」とか言われるのもその変化の一種かもしれないなどと思ってみる。

「yen」については日本銀行HP「教えて!にちぎん」の中に解説がある。興味があればどうぞこちらを。

一筋縄ではいかないのが日本語である。

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