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鉄(てつ)は音読み?訓読み?

[ 日本語雑話:音と訓 ]

この間授業で「現象・表象・具象・抽象・捨象」という評論用語五語の解説をしたのだった。
漢字は中国から伝わり日本人が聞いた音と、それに和語がくっついた訓の両方で読まれる。「山」であれば、前者が「サン」、後者が「やま」。特に漢文などでは、意味が分からない漢字や熟語は訓読みを試みるという原則がある。
「では、象の訓読みは?」と聞くと、
生徒は「ゾウ」と言う。
「それは音読みだろう」と言うと、
周りでゴチャゴチャ話をするが、答えは出てこない。

かたちだよ」と言うと、
「う~ん、そうかもしれない」という顔をする。
現象は、かたちとして現前すること。
表象は、心の中にかたちとして表れること。「心の中のイメージ」であることが現象との違い。
捨象はかたちを捨てることだけど、「具象」は?「抽象」は?と聞くと、これも苦戦している。

「具象はかたちを具(そな)える。抽象はかたちを抽(ひ)きだす
例えば、A君という具象(具体)としての存在は、男であり、高校生であり、日本人であるといった様々な属性を持っているけど、それを切り捨てていく。A君は日本人でも高校生でも男でもないってやって行く、すなわち捨象していくと、最後に例えば、人間という概念に抽象化される、ってことだね。」と言うと、
「ふ~ん」とわかったような顔をしている。
でも、彼ら彼女らは、英語やら数学やら課題やら部活やら恋やらにかき消されて、次の時間になるともう何も覚えていない。

ついでに「鉄(てつ)って音読み?訓読み?」と聞くと、
これはほぼ間違いなく「訓読み」と答える。
「実は音読みです」と言うと、
「えーっ」とどよめきが起こる。
これはこの世代には無理からぬだろうと思いながら、
「じゃあ、鉄の訓読みは?」と聞くと、
ざわざわするが答えは出てこない。
「空に聳える○○○○の城」とマジンガーZの主題歌を歌ってやっても、もはや彼ら彼女らが知るはずもない。「答えられたら抱きしめてあげる」と言うと、「だったら絶対答えない」と言う。

それでも「答えは、くろがね」と言うと、あっ、なるほどという顔をする。
そこから、じゃあ「銀は?」「銅は?」と聞くと、
しろがね・あかがね」と、今度はすらすら答えが出て来る。

日本語は奥が深いなあと思う。使わないともったいない・・。

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