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第103話:ボケ論争

最近、僕ら夫婦の間でどちらが先にボケるかという問題がこのところ話題となり、熱い論争となったりしている。

僕はカミさんはまずボケるだろうと思っているし、僕より先にボケるだろうと思っているのだが、カミさんは「あなたみたいに自分は絶対ボケないと言っている人ほど早くボケるの」と言って憚らない。

特に二人とも決定的な論拠を持たないので、論争は常に平行線なのだが、最近どうもカミさんの様子がおかしく、僕の予感が何となく当たる可能性が大きくなってきている。

例えば、僕が寒いところから帰ってくると、「あなた、紅茶を入れましょうか」と言ってくれるのだが、これが10分待てど1時間待てど出てこない。僕が「さっき紅茶を入れてくれると言ったが・・」とさりげなく催促すると、「うん、忘れた」と言う。

例えば日曜日の朝、朝ご飯を食べながら、
僕が「椿が咲いたね」と言うと
「うん、そうね」と確かに答えたにもかかわらず、
昼ご飯を食べながら、僕に「あなた、椿が咲いたわよ」と言う。

我が家では飲み物は紅茶に牛乳を入れてミルクティーにすることが多いのだが、ある日、牛乳が切れてしまった。
カミさんは「牛乳がなくてミルクティーができないからホットミルクを入れましょうか」と言う。
しかし、牛乳がなくてはホットミルクができないことは明白な事実である。

ついこの間も、アサリの味噌汁を作るためにアサリを買ってきて、「今日はアサリの味噌汁よ」と言っていたのに、気がつくと大根の味噌汁を作っていて、アサリは酒蒸しになって出てきたりもした。

言い間違えも多い。眼鏡が壊れたのを見て「それ歯医者さんに持って行かなくちゃね」などと言う。歯医者さんでは眼鏡は直してくれないと思う。

僕の買ってきた本を見て、「それ、どこのお医者さんで買ってきたの」と言う。
明らかに本屋さんの誤りである。
僕がそれを指摘すると、「いいの。だいたい分かれば」と平然としているのだが、そうだろうか。

山中湖のことを山口湖と言ったりする。

この間、雨の日に車で出かけたのだが、トンネルの中に入るとコンクリートの割れ目から水がバチャバチャと出ている。危ないと思ったのだろう。カミさんは
「コンクリートの割れ目からあんなに穴が出てる」と叫ぶ。
思わず大笑いすると、「些細なことで笑うんじゃないの」と怒る。

そう言えば息子がが、あろうことか小学5年生にして水虫になった時、風呂から出てきた息子に
「塗ってあげるからゴキブリの薬を持ってらっしゃい」とのたまったこともあった。
僕と息子が笑いこけていると、
「汚いんだからゴキブリも水虫も一緒でしょ」と抗弁している。

これらは氷山の一角だが、カミさんがボケ状態に近づいているのはもはや明確であり、僕はカミさんがボケてしまったら、大きな名札を作って背中に貼ってあげ、勤めも辞めて、手厚く面倒をみながら二人仲良く暮らそうと考えているこのごろなのである。
 

ついこの間、夜、居間でゴロゴロしていた。カミさんは隣の部屋で布団を敷いていたのだが、突然そこから
「あっ!バカ!」
という声がしたので、何だろうとのぞき込んでみると、カミさんが部屋の真ん中で座っている。
「どうしたの」と聞くと、
「いま敷いたたばかりの布団を全部たたんじゃったの」
と、悲しみに暮れていた。

いよいよ、と思う僕なのであった。 


■土竜のひとりごと:第103話

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