私の中の龍　＃２

【「熱田さん」へ行く】

毎年お正月は近所の神社へ初詣に行くのだけれど、その年はなぜかわけもなく熱田神宮へ行こうと考えていた。熱田神宮は地元では、「熱田さん」と呼ばれて親しまれている。
「熱田さん」へは子供の頃の七五三で行って以来、何十年も行っていなかった。同じ市内にありながらも遠く、わざわざ行く場所でありながら、なぜかふと「熱田さん」のことが思い浮かんだのである。

結局、初詣の感じがすっかり薄れた1月の終わり頃、「熱田さん」へ一人行ってみることにした。

「熱田さん」は見どころがたくさんあるので、事前に見るところをいくつか決めてきておいた。その一つが「大楠」。樹齢1000年以上の大きな楠で、弘法大師空海が手植えされたと伝えられている。その内部には、白蛇や普通の蛇が何匹か棲みついているとのこと。この蛇を見ることができたらご利益があるそうで、「会えたらいいなぁ」くらいに考えていた。

残念ながら見ることはできなかった。そう簡単には見られないのだと、大楠を後にしようとしていたら、知らないおじさんに声をかけられた。一見ホームレスにも見えなくもない、お世辞にも清潔感があるとはいえない感じの人だった。正直、どうしよう話しかけられたと思った。

「そこにある網の箱、なんで置いてあると思う?　」

そう言われた視線の先を覗いてみると、大楠の根元に網の箱が置いてある。大きさは縦横30センチ×50センチくらい。何かを捕獲するのだろうか。
おじさん曰く、そこにお供え物を入れるのだそうだ。そうしないとカラスに取られてしまうから。

「何をお供えするか知ってる？　」
はて、なんだろう？
もうこの時点で神社に詳しい人ならピンときていると思うけど、その時はまだそういったことをよく知らなかった。卵をお供えするのだそうだ。
そんなことも知らないということは、きっと知らないのだろうという感じで、
「そこにある生き物が住んでいるんだけど、何だと思う？」とおじさんが嬉しそうに話してくる。あっ、これは知っている！一瞬気を使って知らないふりをしようかとも思ったけれど、「蛇がいるって聞いたことがありますよ」と答えた。
「そう、12匹いるんだよ」
えっ！12匹も。きゃあ、想像してしまった…。
「今は冬眠していて、見られないけど」
5月頃になるとまた見られるそうだ。（そうかぁ、それでは見られないよね……）と一人納得しながら顔を上げてみたら、おじさんは遠く私から離れたところに行ってしまっていた。

続く……