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よくある風景のなかでこんな気分になる

図書館には独特の香りがある。
自動ドアをぬけるとバーコードをピッと読み取る音が響く、検索するために受付近くにあるパソコンに向かう途中に、まちのイベントや音楽会などのチラシが置かれたラックがある。そのうちの一つを手に取ってみるとマルシェや手作り市、地元出身の音楽家のリサイタルなどがあった。ため息をついていつものように文学コーナーに向かおうとしたら、目の前を横切って行った女子高生に目を奪われた。彼女は目的地を目指して凛とした姿勢で自習机に座って机についている照明をつけた。その一連の流れが鮮やかで、これから勉強に向かう彼女をみて心の中で応援した。他の席もちらほら埋まっている。

いつもの文学コーナーとは違うところに行ってみようと思って探索を始めると、20年前の内容とは随分変わっているように見えるけど、その時の自分は気づかなかっただけで、そこまで代わり映えしていないのかもしれない。文学コーナーの位置も以前からかわっていないのかもしれないけど、足を運ぶようになったのは戻ってきたときからかもしれない。

変わってしまったものもあれば変わらないものもある。

ふと、少し先にできたばかりの新しいコミュニティスペースに彼女はなぜ行かないんだろうって思った。ここより設備は新しいし、休憩したくなれば併設している珈琲店で休憩もできる。
ちょっと足を伸ばして行ってみることにした。

コミュニティスペースの出入り口に来ると、女子高生たちが8人ほど集まって、入り口の自動ドアを塞いでいた。こういうとき、声をかける人ってどのくらいいるんだろう、って思いながらしめしめと声をかけてみた。
「ここ入り口だから、ちょっとそっち避けてくれるかな」
「すみません、どうぞ通ってください」
彼女たちのうちの一人が早口で言って人一人くらい通れるような通路ができた。そういうことじゃないんだよな、っておもいながら付け加えた。
「ここで話さなくても良いと思うよ、みんな通るから」
「わかりました、もう終わりました!」
彼女はご機嫌斜めになって言葉を荒げた。可愛かった。大人がみんな悪者に見える年頃だなぁと思った。
「おわったのならあっちいったら?」
私も大人気ない。でも実験だ。
「それって、差別発言ですよ。」
そうか、私は差別をしていたのか。もっとゆっくりはなしたいなと思いながら入り口だからもういいやと思ってその場を離れた。まあ、しばらくはいるよね、っておもいながら。
少し離れたソファーには、レッスンを終えた若者たちがライトな感じで雑談をしているし、向こう側には隣町在住のメキシコから来たアーティストが来展示していて、本人が自分の作品をメンテナンスしていた。コンセントがあるスペースではPCを広げて作業する若者たちがいた。施設スタッフの人たちも楽しそうに会話をしている。

なにかが違うと違和感を抱きながら出入り口に戻った。彼女たちはもういなかった。図書館の女子高生と彼女たちの違いは何だろう。

「だが、本当に重さは恐ろしく、軽さは美しいのだろうか?」
ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」の一節がよぎった。

ここには軽さがある。
図書館には重さがあるのかもしれない。その重さを受け止める人たちが図書館を好み、軽さを好ましく思う人たちがこのコミュニティスペースに集うのかもしれない。

そんなことを思いながら駐車場に止めていた車のアクセルを踏んだ。



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