見出し画像

海まで100km 2004夏 ①

突然携帯が鳴った。
「一緒に追悼登山しない?」
それは、政則からのメールだった。彼と最後に会ったのは、2年前の暑い夏だった。
僕と政則は、かれこれ20年来の親友だ。
「どうせなら拓也も誘おうよ」
僕は、頭で考えるより先にメールを打っていた。まもなく拓也からもメールが来た。
「うん、行く行く。ほんま久しぶりやなあ。」
拓也も政則と同じく20年来の親友だ。

気がつけば、あっという間の20年だった。最近読んだ本で、椎名誠の「哀愁の街に霧が降るのだ」を読み、ふと懐かしい友の事を思い出したばかりだった。
最近、政則の友人に不幸が有り、それがきっかけで再び集合するきっかけを得ることが出来た。

約束の日、まず政則が僕の家を訪ねてきた。
僕は、てっきり30分は遅れるだろうと、全く出かける準備をしていなかったのだが、彼は、約束の時間きっちりに最寄り駅に降り立った。

「久しぶり、ごめんもうちょっとだけ待って」
「了解」
「びっくりした、だって時間ちょっきりに来るんだから」
僕は、ちょっとおどけて政則にそう言った。
「遅れる分けないやろ」
政則は笑いながらそう返事した。
僕は心の中で、政則も成長したなあ・・・て思った。

僕らは、昔から遅刻の常習犯で、お互い「30分遅れだろう・・・」と、集合場所に集まるぐらいでちょうどよかった。
とはいえ、いつも最後になるのはちょっと気がひけていた。だいたいいつも政則か僕が最遅刻者に名を連ねていた。

僕の家から拓也の家までは、車で1時間30分ぐらいかかる。

僕たちは、奈良の田舎の学校出身だが、今は、それぞれ全く離れた場所で暮らしている。
政則は大阪のコンクリートジャングルに身をうずめ、僕は、中途半端に都会な奈良の北部に住み、拓也は緑いっぱいの和歌山に住んでいる。

拓也の家についたのは、21時を過ぎていた。
拓也は、呆れることなく僕らを気長に待っていてくれた。
そして僕らを見て開口一番こう言った。
「久しぶり!ほんま久しぶりやなあ」
拓也は、とある住宅街で大きな屋敷に一人で住んでいた。
拓也とも会うのは2年ぶりくらいになる。

お互い話したいことは山ほどあった。
お互いの時計を合わせるため、その夜はゆっくり、次々と終わることのない話を交わした。
夜も2時を過ぎる頃、ふと僕がみんなに言った。

「またみんなで海に行こうよ、そしてあのトンネルに字をかこう!」
アルコールは入ってはいたが、酔ったはずみではなかった。

普通の30代なら、こんな話をしたところで、呆れかえるか、聞こえてないふりをしただろう。
でも政則と拓也は違っていた。
「ええんちゃう、いこか」
お気楽に拓也は言った。
「僕もおんなじことを考えていた」
政則がしみじみと、グラスの中を説けていく氷を見ながら言った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?