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海まで100km 2004夏 ②

少し寝て酔いを冷まし、僕らは再び海へ向けて出発した。そこにいっても何が変わるわけでもない。でも無性に行きたくなった。

政則は現在、誌のサークル活動に没頭しており、最近は彼女と一緒に住みはじめたということを聞いた。
昔から僕と彼は気が合い、同じ音楽を聴いたり、同じ彼女を好きになったりしていた。
彼は僕と同じで、普通の人とは少し違っていたと思う。
安定よりも夢を追い、長いものに巻かれることなく自分の世界を大事にする奴だ。
僕は、夢をあきらめずいつまでも少年のような気持ちを持っている所に惹かれ今まで友人でいられたと思っている。
彼は何冊か自費出版で本を出版していたが、僕はそのほとんどの本を持っている。
心の中で思い描いた感情を素直に表す素敵な文章でいっぱいなのだ。
密かに彼が本屋大賞を受賞したら、なんでも鑑定団にこの本を持っていこうと思っている。

車を運転しているのは、拓也。
その隣に僕が座り、後部座席には政則が座った。

拓也の愛車は、今ちまたで噂の三菱パジェロだ。
ふたりして心の中で「火、吹けへんやろな」と思いつつ車に乗り込んだ。
昔出発した時と同じように、既に時計はPM23:00を指し示していた。

「ほな出発」
「GO!」

拓也の愛車は夜の街に吸い込まれていった。

「郁夫は最近どないしてるんやろ?」
僕は拓也に訪ねた。

「うん、こないだ今回のことで郁夫に電話したら、元気そうにしてたで」
「あいかわらずぶっきらぼうやったけどね」

そう、郁夫は現在、故郷を離れ、西宮で住んでいる。

郁夫は、大学時代は岡山に下宿し、卒業後、神戸の方で働いていた。
会社の同僚と結婚し一時期故郷の奈良へ戻って来ていたが、
しばらくして嫁さんの実家近くの兵庫県へ再び越していった。

昔、みんなでこの道を走ったのは、郁夫が恋に破れたときで緊急招集かかって大変だった時だ。
でも今は、一番地に足をつけて生きているのは、郁夫なのかもしれないと思った。

ずっと自分は変わらない。変わっていないと思いながら、あれからもう10年の月日が流れていた。

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