君は希望を作っている #38

『kibou』が沙羽のパソコンで、また少し動き出した。
 皆は電話応対の練習をしていた、沙羽は少しだけ再開したプログラミングを切り上げ、wordの画面を立ちあげた。
 ただカタカタとキーボードを叩く、昼休み、きりのいい所までやろうと昼休みを少し使って、買ってあったらしいサンドイッチを食べながら夢中になっている。
「あ、いた」
海老原が黒崎の車椅子を持ってこっちに来た。邪魔な椅子は動かす。
「お昼ぐらい休んだら、今月末でしょ?何書いてるの?」
「そんなの、孤独と貧乏にまみれた純文学でしょ?」
黒崎の口は相変わらずだ。
「君は希望を作っている」
沙羽は言った。
「え、あやしい自己啓発書みたい、何それ」
黒崎は戸惑った
「うん、でも純文学だよ、筆者の分身がいる私小説」
「「私小説!!」」
そこで黒崎も海老原も驚いて沙羽を囲んだ。
「ってことは私達のことも書くの?」
「うん」
「えぇ、僕、内定に響かないかな」
「大丈夫、プライバシーには配慮してちゃんとちょっと違う人で書くし」
そうじゃなくて、えぇ、海老原と黒崎はしばらく突っ伏して、それから黒崎は言った。
「純文学なんて止めなさいよ」
え、と沙羽は声を出す。
「そうよ、純文学じゃなく、涙々のヒューマンドラマを書きなさいよ。ヒロインである車椅子の女性はある日、自分を見てくれる人と出会うの、そして、自閉症や色々な登場人物をも巻き込みいくたびの愛の試練を乗り越え、最後にはその人と幸せを掴むのよ」
あぁ、黒崎は少し元気になったようだ。
「自閉症の誰かはあまった誰かとお友達でいたら、そう、これは一つの応援歌、立てなくても支えてもらえば……」
黒崎が少し元気になったことでか、海老原は安堵した表情を浮かべた。
「うーん、じゃあこことここ変えようかな」
沙羽はwordを見返した。

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