君は希望を作っている #44

「ふん、あんたみたいな素人が何をやったって無理。そんな何日かじゃ全然勉強不足、使いものにならないわよ。社長に相応しいのは自分の意見をはっきり言う、軽やかでおしゃべり好きな人なの。あんたみたいなオベンキョウだけのブンガクオタク、釣り合ってないのよ。分不相応なの、つうかその年で?ちょっと、自分の市場価値わかっている?鏡見たら?」
黒崎はそんな沙羽に何か言ってきたけれど沙羽は無視した。上司が社長なのは社長の仕事の仕方がわからないからちょっとだけ不安だけど、応募で見た会社のサイトによるとプログラムをすることから始めてIT会社を起業して五年以上続けられたのは確かに社長の手腕だ。最も社長はそこの社長ではなかったけれど、沙羽にはわからないことだらけだ。
「正社員になりたい?何それ。どこの企業にも必要とされない、誰からも必要とされない、正社員になれないスキルしかないのがあなたの『正当な評価』なんでしょう」
もう何言っているのかわかんないけれど無視した。
「あなたはその誰からも必要とされない孤独をブンガクにすればいいのよ。孤独と貧乏こそ文学の友でしょう?」
無視で。
「社長に甘えようなんてとんでもない考えだからね」
うるさいなぁ。
何かをやろうとする沙羽に呪いをかける黒崎は、無視されて苛立っている。
 出来上がったものが社長の求める基準に達しているかもちろん沙羽はわからない。
 まぁ素人が企画を最初に書いたならきっとこんな感じなんじゃないか。
 予算の枠も細かい数字が無いし、どんぶり勘定で、文章も固い。
 それでも期限内になんとか書類を送って、沙羽はほんとうにこれでなんとかなるのかならないのか、企業からのお祈りメールに慣れているとはいえ落ち着かないでしばらくを過ごした。
 黒崎はそんな沙羽に言ったものだ。
「っていうかその年になって正社員で雇ってくれるコネもない、人脈もない、貯金もないって何やっていたの。ウケんだけど」
社長のところに入社したら縁故だなんだと間違いなく一番沙羽を叩くのは黒崎だろうに、まぁ。
母は母で
「プログラミング勉強して会社に勤めないで自宅で仕事したいんでしょう?せっかくだからもうすこし勉強すれば?」
とか何も聞いていない。
 男子は外に出れば七人の敵がいるというけれど、社会に出てないのにもうこの二人と佐藤で三人もいる、しょっちゅう目を合わせるのはきつい、早く就職しよう。そう沙羽は友人にLINEした。

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