君は希望を作っている #17

「ねぇ、どんな人なの?」
「あ、えっと、投資関係、なんかそういう仕事しているって」
沙羽は少し照れて言う。
「プロフは完璧、なんで私に声掛けてきたのかわかんないけれど、写真を見る限り爽やかな人だよ」
「じゃあ会わなきゃ」
黒崎は言う、そして休憩時間が終わると、次の休憩にまた言ってきた。
「どう、どうするの」
「まだ返信来ない、仕事中なんじゃない?」
沙羽は淡々と答える。
「既読つかないの?」
「待って」
そして黒崎は昼休憩の時もしつこく聞いてきた、沙羽は気を使って「お昼買ってこようか?」と声を掛けて、黒崎はクロワッサンとサラダに紅茶を頼んだ。
 昼休み、窓際の席でそれらを満足げに前にしながら黒崎は言った。
「で、どうするの」
「まだ返信来ないって」
しつこいなぁ、とでも言いたそうに沙羽はパックの寿司をパクつく。
「え、何?」
何でそこにいるのかわからない社長が、楽しそうに首を突っ込んでくる。
「うわっ、なんですかいきなり、っていうか社長って暇なんですか」
「まぁまぁ」
社長は沙羽が呆れて視線を外すと、そこに現れ、また逸らすとそこに現れる、を繰り返した。
「何ですか今度は」
「かくれんぼ」
社長は何が楽しいのか笑っている。
「遊んで欲しいなら、誘ってくれれば付き合いますよ」
沙羽が何気なく言った言葉が意外だったのか、え、と声をあげて社長は考え込む、しばらく後、真面目な顔で
「まぁ資金援助者がそれを利用して施設利用者とどうこうは駄目だよね」
と呟き、それから言った。
「で、何?恋バナ?」
社長は楽しそうに笑って椅子に座り、背もたれに腕を広げて寄りかかる。沙羽はあながち間違いじゃないと少し呆れた。
「沙羽さんがネットでナンパされて会うって言うんです」
「なんだ、いいんじゃない?」
社長はあっさりと言ってのけた。
「で、どこの出会い系?」
「Facebookで声掛けられたんです、銀行で働いている証券マンみたいで、私の条件にも合うし、まぁ会ってみるのもいいかなって」
「条件?」
すると社長は険しい顔になり、しばらく口をつぐんだ後急にこう言ってのけた。
「それは愛でも恋でもない」
「え」
そんな真面目なことを真剣に言う社長を黒崎も沙羽も意外な顔で見つめたけれど、さらに社長は強い口調で言ってのけた。
「僕も色々な人が近づいてくるんだ、でもなんで、そんな人に僕が何かをあげなきゃいけないのさ?ね?沙羽さんさ、僕に何かもらおうとか思うの?海老原くんにもそうなの?」
「……あ」
沙羽は何かに気付いたように小さく声を上げる。
「ただ楽しく遊ぶだけならいいけれど、あんまりそれ以上は賛成しないなぁ」
「……」
沙羽は黙り込んでしまい、そんな沙羽を見るとはなしに見ながら社長は別の利用者に声を掛けに行った。
「条件じゃ駄目なのかなぁ」
落ち込む沙羽に、黒崎は自慢げに高笑いをした。
「まぁ、私はこの美貌に釣り合う男だけを相手していればいいんだけど、鈴木さん、全てを愛して欲しいなんて、私がそうなのに気付かないのかしら……」
うっとりと自分の世界に入ってしまった黒崎を、沙羽は何も言わない。
結局メッセージ来たの最初だけだった、次ないなこれ。
沙羽はLINEでそう愚痴った。

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