君は希望を作っている #7

 社長と沙羽のそんなたわいのない話を憎々そうに睨みつけていた人がいた。黒崎だった。
「何よ、あのドブス、性格悪いんじゃない。媚び売っちゃって、男ならなんでもいいくせに、社長さん?なんて顔色変えちゃって。何が希望よ、何が正社員で月給二十万の奥さんよ。男に頼る気満々、胸に栄養取られて馬鹿じゃなんじゃないの。私みたいに、もっと生かすべきスキルが身についていないのね、そうだ」
そう言うと黒崎は貸出しのパソコンで、勉強以外で使うのは禁止されているはずなのにTwitterの画面に飛んだ、それから何かを調べ出し、にやり、と笑みを浮かべた。
沙羽は帰ると部屋で一人くつろいだ。それにしてもあの社長って人は変な人だなぁ。
『ってことは、希望があるってまだ信じているの?』鈴木なんだっけ、NPOきぼうのサイトによると鈴木翔か、ググったけれどなんにもわかんない、この人は同姓同名さんかな、同姓同名さんが多いなぁ。まぁ、ネットの情報だけで人を判断するのも変な話だし、ただ話した感じでいくとこの人の人生にはそもそも文学と哲学が足りない気がするなぁ。
 いいや、変な人だけどきぼうに援助するんだし、悪い人じゃないんだ、たぶん。                                                                                                                   沙羽はたいくつな時は少し出るなりインターネットで検索なりして希望を探してはいたけれど、希望という地名がみつかったぐらいで、なにせまだ手術跡の腫れを抑える包帯が取れていない沙羽にはまだちょっと遠かった、ヘルシーなバターソテーの美味しい秋の味、茶色い帽子に白い肌のかわいい絵本に出てきそうな茸でもない、そもそも地名じゃ食べられないし、そんなわけで何日か沙羽は不機嫌顔だったはずが、その日きぼうに入った新しい人の顔を見るとその沈んだ顔が満面の笑みになった。
「はじめまし……あれ、海老原くん?」
「……沙羽っちだ、ちわっす」
海老原と言われた男性も、沙羽と同じぐらいの年頃なのだろうか、髪で目が隠れていてわからない、それでも優しい目をしているらしいことはうっすらとわかる。シンプルなジーンズにTシャツなのにどこか清潔感がなく、くたびれたスニーカーを履きつぶしている。
「そういえば最近カードショップでみないよね、どうしたの?」
「……あ、ちょっと欲しいものがあって、カードゲームは……」
しどろもどろになって俯きがちに答える。
「あら、お知り合い?海老原さんは自分でこちらに来てくれたのよね、みなさん、『はじめまして』」
佐藤は海老原をそう皆に紹介した、海老原はつっかえながら自己紹介をする。
「みなさんはじめまして、寿司屋で修行をしていたこともあったんですけど、ちょっと人間関係で躓いちゃって、時々のバイトもあんまり上手くいかないし……で、ここでなにかを吸収できたらいいなと思います、よろしくお願いします」
しどろもどろに話す、海老原は、じゃ、あとでね、と沙羽に軽く声を掛けて行った。
 休憩時間に聞いた話では、海老原はTwitter上で誰か親切な人にここを紹介してもらったと言っていた。
「お礼をしたいんだけれど、捨て垢みたいでね。消えちゃったんだ、誰だったんだろう?」
ふふん、その海老原の他人の親切を疑わない笑顔を見て黒崎は薄く笑った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?