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ATR72-600 操縦資格試験【番外編】 相方がうまくいかなかった理由を考える

今回は、ATRのタイプレーティング試験の番外編です。

試験1日目の模様はこちら
試験2日目の模様はこちら
トレーニング全体の振り返り記事はこちら

実は、相方のドム(仮称)は1日目の試験である「LOFE」を通過することができず、追加訓練が決まってしまいました。先日の記事で書いたシビアアイシングへの対処で、飛行機のオートパイロットをうまく使えず、Situation Awareness(SA)が大きく下がってしまったことが直接の原因でした。

彼は、マニュアル操縦のハンドリングはうまいのですが、オートパイロットで飛行機を自由自在に飛ばすには、また違った技量が必要なのです。オートパイロットのモード、テクニカルな知識、スタンダードコール、プロシージャの全てにおいて詰めが甘くなってしまったと感じます。

このうち、チームワークで助けられるのは、一緒に練習ができるスタンダードコールとプロシージャでした。シミュレータ訓練に入る前に、これらの品質をできるだけ高めておくことが必要でしたが、それには、注意深さと根気が要ります。そこに大雑把さと詰めの甘さが出てしまったことが、彼の敗因だと私は考えています。

「似て非なるもの」の切り分け

例えば、プロペラを回したあとにやるドリル(暗記してやる操作やチェック)に以下のようなのがあります。

1. Probe Heating ON
2 Anti- (De-) Icing ON

3. Anti-skid TEST
4. Flap 15
5. Cockpit-com hatch CLOSE
6. FWS RCL
7. ACW CHECK

覚えるの、大変ですよね。どうやるかというと、スイッチの場所と手の動きで覚えます。

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この動きを何度も練習して、体に叩き込むわけです。紙レータの有用性がわかりますね。

次は、着陸後(After Landing)にやるドリルです。

1. Probe Heating OFF
2. Anti- (De-) Icing OFF

3. TRU OFF
4. Landing Lights OFF
5. Wx Radar STBY
6. Flap 0
7. Trim RESET

太字で書いたものに注目してください。これらは、最初のドリルと同じか、似た位置にあるスイッチです。

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ふたつのプロシージャのうち、1と2は、ONとOFFが違うだけで触るスイッチは同じです。その後、3の操作が違いますが、手のフローで覚えているので、2をやった後に「あれ、3はどっちだっけ?」となってしまうわけです。道しるべに「3」と書かれた分かれ道が2つあるようなものです。

こういう間違えやすい「似て非なるもの」を切り分けて、迷わないように工夫する必要があります。

頭で覚えるところと手で覚えるところ

例えば、最初のドリルではこれから「離陸」する段階でのドリルですから「離陸中止時のためにAnti-skid TEST(ブレーキのテスト)をするんだ」と理由を考えます

ふたつ目は「着陸」後、ですから、Landing Light(「着陸」灯)を消したい、とライトの名前に状況を関連づけて考えます

こうやって道しるべに書く目印を工夫して、どっちの3を取るのかわかるようにしておいて、離陸の方なら3(TRU OFF)と4(着陸灯OFF)を手で覚えれば、1、2、(一瞬考えて)3、4という動きを間違えなくなります。

ついでに言うと、ターンアラウンド(目的地に着いた後、次のフライトに備えること)のチェックは

1-2. Fire warning CHECK
3. Wind shield Heating ON
4. Seatbelt Sign ON
5. Memo panel CHECK
6. Prop Brake ON
7. Destination Elevation Set
8. Wx Radar STBY
9. CVR TEST
10. ATPCS TEST
11. Trim TEST

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まったく冗談じゃない。

ラインで毎日毎日やっていれば、そのうちいつか覚えるでしょう。しかし、タイプレーティングのようにごく短期間で大量のプロシージャを正確に覚えるには、頭を使うところと、手(運動神経)を使うところをうまく組み合わせなければなりません。

プロシージャ一つ覚えるのにも、マニュアルを読んでいるだけでは足りず、かなりの工夫が必要なんです。相方は、このような点に関する危機感が足りませんでした。

最初にスロースタートになったのもそのためです。ですから、一緒に練習をして要求されるだろうレベルを見せてきたつもりでした。しかし、残念ながら彼は最後までこの危機感を持てず、弱いところをインストラクターに質問して、それを一つ一つ潰していく努力をしませんでした。

さて、以下では実際の訓練と試験で、我々に起こったことを書いていきます。人の訓練結果ですから、限定公開としますが悪しからず。

危機感の欠如

一度、FMSの入力を練習していた時に典型的なことが起こりました。


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