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【号外】「トップガン マーヴェリック」を観た前作ファンのパイロットが目に涙をためて書いた感想文(ネタバレなし)

前作をリスペクトしている人にほど、ぶっ刺さる。

彼にとって、この物語はやはり特別だったのだろう。そうでなければ、版権を自分で買い取って誰にも続編を作らせないようにしたりしなかったはずだ。

トム・クルーズは、この物語を大切に宝箱にしまっておいてくれた。それは彼自身のためでもあるだろうが、今、現実となったトップガン「2」を観て確信した。この物語を大切に思っている、世界中のファンのためだったのだ。

そのファンの一人として、礼を言いたい。

ありがとうよ、戦友!

前作は「バカ」になって楽しむ映画

「トップガン」は、1986年にトニー・スコット監督、トム・クルーズ主演で製作された航空アクション映画だ。

https://youtu.be/BGqD3A4UL_g

アメリカ海軍の戦闘機パイロット養成学校「Navy Fighter Weapons School」の俗称をタイトルにしたこの映画には、海軍自身が全面的に協力した。

当時「世界最強」を自負する艦上戦闘機F-14A「トムキャット」を実際に飛ばし、実際の空母を動かして(夕日を撮るために、作戦行動中の空母を転回させたらしい)、リアリティを追求した演出が功を奏して大ヒット。海軍に志願する若者が激増したという逸話を残した。

ただ、言わせてもらえばストーリーは単純そのもので、荒唐無稽なところもある。パイロットのタックネーム(コールサイン)は長すぎるし、突然ビーチバレーが始まるし、ノーヘルでバイクに乗るし、卒業式と同時に作戦に参加させられるし。んなわけあるかい、が随所にある。

しかし、そんなことはどうでもいい。どうでもいいのだ。

この映画はわざと「知能指数」を少し下げて、言ってみれば少し「バカ」になって、まるで戦闘機のプラモで空中戦を模擬して遊ぶ子供のように、映像的な「かっこよさ」を存分に味わうための映画だった。

特に、冒頭のオープニングの航空母艦上、戦闘機をカタパルト射出する映像は、筆舌に尽くしがたい。30年経っても色褪せない。

冒頭の音楽、「Top Gun Anthem」のリズムと、俳優やスタッフの名前の文字が出てくるタイミングが合っていることに注目して欲しい。トニー・スコットはCMの監督を多くやっていたことで、音楽と映像のマッチングが非常にうまい。

文字だけではなく、映像自体もカットのタイミングや音楽のクレシェンドに合わせてエンジンのが咆哮する様、そして何より「Top Gun Anthem」の「静」からケニー・ロギンス「デンジャーゾーン」への「動」への切り替えでトムキャットがカタパルト射出されるところが死ぬほどかっこいい。

74歳でこの声のケニー!

今作は、前作へのリスペクトと完璧な続編に

今作も、基本的には同じようにストーリーの単純さ、荒唐無稽さを受け止めた上で、前作と同様に映像的な「かっこよさ」と、俳優が実際の戦闘機に乗って撮影したという「臨場感」を味わうのが正しい態度であることは変わりないのだが、違うのはこれが30余年を経て作られた「続編」であるということ。

つまり、30年の間に起きた映画撮影における技術的進歩によって「かっこよさ」と「臨場感」を演出する精度、粒度が桁違いに上がっている。これは私のようなバカにでも、見りゃわかる。

例えば、コクピット内での俳優の演技だ。前作のコクピットでの演技は、ジンバルと呼ばれる360度回転するフレームにモックアップのコクピット組み、その中で俳優が演じた。だから、急激な旋回中でも余裕で話していた。

しかし今回は、実際に飛行中のコクピットで俳優が演技をしている。その結果、機動中には「G」がかかって呼吸そのものが困難になるという「物理法則」を演技の一部にするという、俳優にとっては地獄のような状況で撮影を行っている。

実際の戦闘機パイロットは、高G状況下でも意識を失わないために特別な呼吸法を使う。これが「Hecking」といって横隔膜をできるだけ動かさずに短く呼吸する。劇中での俳優の呼吸音を聞いて欲しい。みんな「ヘック!ヘック!」と言いながら必死に呼吸しているはずだ。

また、前作へのオマージュとリスペクトがこれでもかと盛り込まれている。それは、映像レベルでも、脚本(伏線の仕込みと回収)レベルでも、台本(セリフ)レベルでも、あらゆるレベルに編み込まれていて、冒頭1分で私は頭を抱えた。これだけの「技術」と「本気」で冒頭から「前作リスペクト攻撃」を仕掛けられたら、絶対に涙腺がもたないぞと思ったのだった。(そして、それは証明された)。

前作の最初のセリフを覚えていますか

実は、今回、第一作目のDVDを見返して気がついたことがる。

第1作目の冒頭、主人公マーヴェリックの第一声が、今作まで続くテーマを象徴するセリフだったのだ。日本語字幕では単に「グース」としか言っていないので分かりづらいが、英語で実際にどう言っているか聞き取って見て欲しい。トニー・スコットは、シリーズを通して最も大事なこのセリフを、最も大きな伏線として、一番最初に持ってきていたのだ。

https://twitter.com/soratobonz/status/1530482760673992704

前作冒頭のマーヴェリックの第一声シーン。↑確認してみて。

そして今作では、この前作における主人公の運命のターニングポイントになった事件を伏線にするという信じれられないが、後から考えればこれしかないというストーリーを打ち出し、それをラストシーンで映像的にも回収するという離れ業をやってのけている。

マーヴェリックが持つグースへの呵責

今作をみて初めて、前作はビルディングスロマンとして「不完全」だったのだと、解った。

挫折を経験し、一度はどん底に落ちるが、敵を撃墜して母艦に帰投し、クルーに囲まれ、ライバルと和解する。戦闘機パイロットとしての自信を取り戻しました、めでたしめでたし。で終わっていた。少なくとも、絵面上は。

しかし、よく考えてみれば、敵を「殺す」ことで、あのグースの一件への自責から逃れられるとするのは、無理がある。あれは、すでに続編ありきのエンディングだったのだ。

親友であり、最も信頼できるRIO(複座の戦闘機の後席でレーダーなどを操作する乗員)であるグース。彼に対する自責の念を抱えるマーヴェリック。どうしたらマーヴェリック(つまりそれは観客自身だが)は、救われるのだろうか。

そう考えると、今作のラストシーンはあれしかなかった。でも、それを現実に起こすには、そこに至る過程の描写が、全てにおいて前作を超えて雪崩のように進んで来なければいけなかった。そこに、30年という封印期間の意味があったのだと思う。だから感動するのだ。なぜなら、我々ひとりひとりが皆、マーヴェリックなのだから。

そして、トムキャットの使い所よ。確かにそれなら辻褄合うぞ!(F-14Aを運用した国は史上2カ国だけなのだ!)というこの、大筋の脚本では荒唐無稽でんなアホな!の連続なのに、細かいところでやけにこだわって辻褄を合わせてくるところ。
https://twitter.com/kadonkey/status/1531107928777838592

やっぱりバカ映画だけど、これほど感情を動かされる映画もなかった。現実世界の30余年、ファンは皆、マーベリックと同じようにグースへの呵責を抱えていたのだから。それをどうやって解き放つのかは、続編を作るなら絶対に避けて通れない結論であり、伏線回収だったのだ。


F-35ではなくF/A-18でなければならなかった理由

記者会見で「Now or Never」と言っていたトム・クルーズの意見には、賛同してもしきれない。

今だから、最高の撮影技術によって前作を超える臨場感を演出できた。

今だから、トム・クルーズとヴァル・キルマーの共演が実現できた。

今だから、F/A-18EとF/A-18Fが使えた。

前作の続編として考えた場合、俳優の乗る戦闘機が単座の第五世代戦闘機であるF-35や、F-22では、この物語は成立しなかった。

F/A-18。この、第四世代の、複座のマルチロール戦闘機が、艦載機として現役である今だからこそ、「兵器の優位性によってではなくパイロットの腕によって問題を解決する」あの作戦を敢行する理由が(曲がりなりにも)できた。

エリア88の「あの作戦」を模したあの作戦をだ。

そして、単座のE型と複座のF型を混在させ、海軍機特有のRIOという職種を描くことによって、前作のグースやマーリンやウルフマンへの存念を観るものに示しながら、今作のマーベリックとルスター(ということはつまりグース)のふたりの物語を浮かび上がらせるには、F/A-18スーパーホーネットしかなかったのだ。さすが「マルチロール」機だ。

やるなら、今しかなかった。そして、これしかなかった。

トップガンを見てパイロットになりたいと思った

トップガンの後、いろいろな戦闘機映画が出てきていた。アイアンファイター、イントルーダー怒りの翼、メタルウィング、、しかし、今回、ここまでのレベルを見せられて、誰が今後、「戦闘機映画」を作りたくなるだろう。後に続く者を絶望させるような出来だ。

こいつを超えられる戦闘機映画は、そうそう撮れない。まさにBest of the Best。

今後、「パイロットになった理由はトップガンです」という、私のようなパイロットがまたたくさん出てくるのだろうか。

そう願いたい。

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