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小説『ジェルム〜宝石の島〜』

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完結済み。兄の残した手紙を握りしめて、幼なじみとともに故郷を旅立つ少女の、王道ファンタジー小説。note創作大賞2024応募作品。
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ジェルム〜宝石の島〜 第25話『また、ここから』完

ジェルム〜宝石の島〜 第25話『また、ここから』完

 終わった。
 今度こそ、終わったんだ。

 クリスタルが輝く。ジェルムの時と同じく、白い竜が姿を現した。

「よく、よくやってくれました。と、言いたいところですが……」

 四人のやりきれない表情を見て、白い竜は言葉を詰まらせた。こんな形でしか、この度を終わらせる事ができなかったのか。ブラックオニキスのせいで変わってしまったもの、この旅で失われた命。リリアンとテッドにとっては、兄を探し出すだけの

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ジェルム〜宝石の島〜 第24話『最後の戦い』

ジェルム〜宝石の島〜 第24話『最後の戦い』

 空は暗く、紫色でどんよりとしている。雲の隙間からあちこち閃光が見える。雷だろうか。リリアン達が踏み締めている大地には、目の前に入り口のある大きな木があるだけで、他には何もなかった。海も河も無く、ただ平坦な大地が広がっているだけだった。ここが、魔界。
 あの大きな木で、ザンは待っているのだろう。ここまで来たら、ザンを倒すしか道はないのだ。四人は警戒しつつ、大樹の麓でマジカルテントを張った。確信はな

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ジェルム〜宝石の島〜 第23話『白い竜』

ジェルム〜宝石の島〜 第23話『白い竜』

「王が……すり替わっていたなんて……」

 遅れてやってきたジャネルが、グロリオサ王ーーテンマーーの亡骸を見て呟いた。騎士団の副団長である彼女でさえ、この事実を知らなかった。悔しさと、自分の未熟さを、ただ恥じるばかりだった。が、すぐに四人の方を見る。

「来てほしい所がある」

 ジャネルは急ぎ足で王の間を出た。四人も慌てて追いかける。城の地下へと続く螺旋階段を下って行くと、ある扉の前に出た。
 

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ジェルム〜宝石の島〜 第22話『謀反』

ジェルム〜宝石の島〜 第22話『謀反』

 翌朝、四人は宿屋のエントランスに集まった。全員、何かを決意したような顔つきだった。

「行きましょうか」

 リリアンの声かけに、三人は頷いた。
 ジェルム城へ向かおうとする三人を、テッドが呼び止める。決戦を前にと作った、四人お揃いのブレスレットだった。願掛けみたいなものだけど、と言うテッドに、そういうの嫌いじゃないとヴィオラ。全員の右手に同じブレスレットが付けられ、改めて四人はジェルム城へと足

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ジェルム〜宝石の島〜 第21話『行かないで』

ジェルム〜宝石の島〜 第21話『行かないで』

 夢を見た。
 プランタンの村の大樹の下で、花吹雪の中、テッドと兄の三人でランチを取っていた。慌ててサンドイッチを頬張り、咽せるテッド。そんな彼を笑いながら兄と見ている。当たり前の日常だったはずなのに、今ではとても遠い昔の事に思えた。

「行かないで……」

 はっと目を覚ました。夢の中での呟きか。右手は天井へと伸びていた。目からほろりと熱いものが溢れる。呟きではなく声に出ていたのか、窓のところに

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ジェルム〜宝石の島〜 第20話『黒の正体』

ジェルム〜宝石の島〜 第20話『黒の正体』

「私だって足手まといになるかもしれない。でも……」
「ーー見せたくなかった」

 その懐かしい声に、リリアンとテッドは顔を上げた。そこにいたのは、ディーンだった。リリアンは口を両手で覆い、テッドの身体は震えていた。やっと会えた。やっと。しかしディーンは彼らが近寄ると、一歩後ろへ下がった。

「本当は、見せるつもりはなかった」

 あのジュリアンというエルフ族の少年さえいなければ、そうディーンは続け

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ジェルム〜宝石の島〜 第19話『それぞれの事情』

ジェルム〜宝石の島〜 第19話『それぞれの事情』

 オトヌの島に来た時に見た、頂上の見えない塔は、目の前に来てもその頂を見る事はできなかった。ただ、雲に突き刺さるその姿は、積み上げられただけの歴史を感じさせた。
 中は入ると、螺旋階段がひたすらに続いていた。真上を向いて見るが、やはり頂上はよく見えなかった。一体どのくらい高いのだろうか。四人は思わず息を呑んだ。アスカは少しだけ、足が震えていた。

「こんな時に話すのはなんだけど……」

 アスカは

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ジェルム〜宝石の島〜 第18話『手がかり』

ジェルム〜宝石の島〜 第18話『手がかり』

 やがて見えてきたオトヌの城は、ジェルムの城とは全く違う姿をしていた。入り口に兵士が立ってはいるものの、特に確認などもなく自由に人が往来している。そして何より、ジェルム城よりも年季が感じられた。"古城"という言葉がピッタリだった。

 城の中に入ると、赤いカーペットが敷かれているのはジェルム城と同じだったが、左右に武器屋や薬屋、食材屋などが立ち並ぶ、所謂商店街といった感じだった。
 四人がまず向か

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ジェルム〜宝石の島〜 第17話『古への道』

ジェルム〜宝石の島〜 第17話『古への道』

 リリアン達は、今回はジェルムの街には寄らず、直接オトヌの島へ向かった。ザンが集める石に、一体何の意味があるのだろうか。それは四人にはわからなかった。ただ、島の様子を変えてしまう程の影響力を持つ物を持ち出すという事は、何か良からぬ事を考えているのでは、そう言ったのはアスカだった。
 プランタンにはエメラルドが眠っているはずだが、何か変化はなかったかと問われ、リリアンとテッドは考えた。イヴェールやエ

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ジェルム〜宝石の島〜 第16話『赤い瞳、ふたたび』

ジェルム〜宝石の島〜 第16話『赤い瞳、ふたたび』

「……そうですね。そのルビー、いただきましょうか」

 声がして振り返ると、ザンがいた。まるでつけられていたかのようだった。今度こそは。リリアン達が武器を構える。

「ほう。私とやる気ですか」
「やれることは何でもやってみるんだよ!」

 その心意気、素晴らしいですねとザン。漆黒の剣を抜いた。同時にリリアン達が散る。正面からアスカが剣で斬りかかったが、ザンはこれを漆黒の剣で受け止めた。だが、彼を見

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ジェルム〜宝石の島〜 第15話『火山の中で』

ジェルム〜宝石の島〜 第15話『火山の中で』

 リリアン達は、エテの長老の孫娘であるアンリを連れて、大火山の入り口へ辿り着いた。アンリの双子の弟であるライトを探す事。最大の警戒点は、ザンが現れる事だった。何としてもアンリとライトだけは守らなくてはならない。ライトがルビーを手にしてしまわないように。それだけを祈って。

「中は思った程暑くねーんだな」

 テッドの言う通りだった。ジェルムとエテを繋ぐ洞窟の方が、余程暑かった。マグマはあちこちに散

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ジェルム〜宝石の島〜 第14話『夏の夜』

ジェルム〜宝石の島〜 第14話『夏の夜』

 涼しい風の正体は、夜だった。満天の星空に、一面の砂漠。これがエテの島なのだ。夜である事に違和感を覚え時間を確認したが、まだ正午頃であった。島同士で時差があるのだろうか。もしくは。

「ずっと……夜の島……?」

 リリアンが呟いたが、きっとそれが正解だろう。
 エテの街は、島の南東にあるのだが、島の中央にそびえる高い山ーー火山のようなものーーがあり、今いる場所からは見えなかった。一見立派なこの火

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ジェルム〜宝石の島〜 第13話『黒い長髪の男』

ジェルム〜宝石の島〜 第13話『黒い長髪の男』

 ジェルムに戻ったが、やはりこの島に大きな変化はみられない。もしかしたら既にクリスタルは奪われているのかもしれないが、人々の様子を見る限り、それはないように思えた。
 城へ向かうと、兵士に止められた。手形と、王に謁見したい旨を伝えると、王はこのところ体調が優れないらしく、謁見はできないと言われてしまった。ジャネルも不在だと言う。
 それではと、改めて酒場でディーンの聞き込みをしてみたが、やはり見か

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ジェルム〜宝石の島〜 第12話『シスターの願い』

ジェルム〜宝石の島〜 第12話『シスターの願い』

 リリアンが目を覚ましたのは、イヴェールの宿屋だった。どうしてここに?と思いながら体を起こし、リビングルームへ向かうと、テッドとリリアンがいた。
 何があったのかと問うが、二人ともわからないようで首を横に振った。ただ、ヴィオラの話によると、宿屋の人が言うには"黒い鎧の男"が三人を運んできたという。"黒い鎧の男"……間違いなく、ザンだろう。そして、彼はもうここにはいないと。

「最初からあの石が目的

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