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ジェルム〜宝石の島〜 第25話『また、ここから』完

 終わった。
 今度こそ、終わったんだ。


 クリスタルが輝く。ジェルムの時と同じく、白い竜が姿を現した。

「よく、よくやってくれました。と、言いたいところですが……」

 四人のやりきれない表情を見て、白い竜は言葉を詰まらせた。こんな形でしか、この度を終わらせる事ができなかったのか。ブラックオニキスのせいで変わってしまったもの、この旅で失われた命。リリアンとテッドにとっては、兄を探し出すだけの旅。ヴィオラにとっては、自分の腕を高めるための旅。そしてアスカにとっては、自分のルーツを探す旅。それぞれの旅の結末が、こんなに悲しいものだったのかと。

「本来ならば、こんな運命は辿らないはずでした。あの日……テンマが、この世界からブラックオニキスを持ち出さなければ、全て始まる事はなかったのです」
「なんだよそれ……まるで、今までの事は全部偽物の出来事だったみてーな言い方だな……」

 テッドの言葉に、白い竜は頷いた。この世界線は、本来存在してはならないものだと。そして、本来の世界線に戻すためには、ブラックオニキスを封印する必要があると。そして、ブラックオニキスが封印するという事は、全てが始まる前まで時を遡る必要がある。そう言ったのだ。白い竜自身も、どこまで時が遡るかはわからないらしい。しかし、ブラックオニキスを封印すれば、この旅で失われたものは復活する、と続けた。

「ちょっと待って。それって……あたし達の出会いも、なかった事になるのー?」
「なんてこと……なんだ……」

 ヴィオラもアスカも流石に驚いていた。白い竜は更に続ける。ブラックオニキスを封印するか否かは、リリアン達に任せる。ただ、この世界線は、無駄に失われてしまった命があまりにも多すぎる、と。ただし、自分に決める権利はない、この戦いを鎮めたリリアン達次第だと白い竜は言った。
 全員が沈黙する。唇を噛み、拳を強く握りしめていた。そしてその沈黙を一番に破ったのは、リリアンだった。

「……わかりました。封印を、お願いします」
「リリアン!?」
「だって、私達の旅の目的は、兄さんに会う事だったのよ?封印すれば、兄さんにまた会える……ごめんなさい、私の、ワガママ……」

 三人はリリアンを見た。彼女は悲しい顔はしていなかった。何かを決意したような、真っ直ぐに前を見つめていた。そして、右腕のブレスレットを眺める。

「私達、どんな世界でも……きっとまた、会えると思う」

 確信はないけれど、と苦笑いするリリアンに、三人も同じ気分になった。四人は拳を突き合わせ、お互いを見つめ合った。
 白い竜は、アスカにオブシディアンを渡すよう言った。アスカは、ブラックオニキスの傍に首飾りを置く。

「ドラゴンさん、お願いします」
「……」

 白い竜は言った。あなた方には辛い思いばかりをさせてしまい、本当に済まないと。すると、四人の体が輝き始めた。次第に体が透けて行く。

「キミ達に出会えて良かった」

 アスカはにこりと笑った。自分の出生について恨む事なく、全てをありのまま受け入れる事のできる、強い者。

「あたしの事、忘れたら承知しないかんねー」

 ヴィオラはいたずらっぽく言った。その姿に似合わず、一歩下がって物事を見る事のできる、賢い者。

「オレ、記憶力は……自信ねーわ」

 テッドははにかんだ。頼りなさはありつつも、常にリリアンをはじめとした仲間を支え続けた、優しい者。

「みんな、ありがとう。本当に、ありがとう!」

 リリアンは叫んだ。頬を涙がつたう。運命に翻弄されながらも、それに負けずに抗い続けた、勇気ある者。
 それぞれの思いを胸に、四人は消えていった。残された白い竜は、ゆっくりと歩き、ブラックオニキスを拾った。そして、何かを呟きながらアスカが持っていたオブシディアンと共鳴させる。
 今度こそ、四人の未来に幸あらん事をーー。
 白い竜がそう祈ると、世界は眩い光に包まれた。



「ん……」

 目を覚ますと、いつもの場所ープランタンの村の大樹の下ーにいた。ここにいると、いつも眠くなってしまい、つい寝てしまう。
 なんだか、長い夢を見ていたような気がした。夢のなかでは、随分と大人になっていた。嬉しいことも、悲しいこともあった。とてもうたた寝とは思えない程のものだった。

 そろそろ昼食かと思い家に帰ると、話し声が聞こえる。来客のようだ。帰宅に気づいた両親に、店先に来るように言われる。
 店の方へ向かうと、ジェルムという街から引っ越してきたという家族が挨拶をしに来ていた。父と母、子供が二人。そのうちの女の子の方は、自分と同じくらいだった。

「リリアン・ミンツです。よろしくね」
「テッド・バーナードだ。よろしくな!」

 握手をしようとした二人の腕には、同じデザインのブレスレットがついていた。

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