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「迷子かあ」 山に足を踏み入れて暫く、哲樹の耳に聞き慣れない声が届けられた。登り坂で矢鱈跳ね上がる鼓動と、今日と云う日を寿ぐ小鳥と、行く末見守る葉の内緒話と、それだけで十分であったのに、声が聞こえた。帽子の鍔引き下げて無言の内に通り過ぎようかとも考えたが、こちらが一歩先へ進む度に、声の主も一歩近付いて来るらしく、離れる積りが無いのなら、早く答えて後は構わずに於いて貰う方が気楽で良いと考えた。哲樹は一旦立ち止まり、声の主へ顔向けた。近所では見ない顔だった。少し気が楽になった。
コロッケと聞いて思い浮かべる光景ってどんな時間だろう。今ではコンビニへ行けば大体レジ横のショーケースに並んでいるけれど、思い出すのは、なぜか懐かしい方。例えば――あの日のコロッケ。簡素な紙の袋へ入ったあつあつを頬張った、夕日の中で過ごした時間。 仕事帰りに近所のスーパーへ立ち寄って、立派なサイズの新じゃが芋を見つけた。男爵だ。ごろごろごつごつ、見るからに美味しそうな男爵を眺めていたら、口の中が旨い想像でいっぱいになった。頭の中ではもう美味しいのが出来上がっている。 「よ
てっぺい君は小さい。クラスの男子の中では一番小柄で、四年生全員の中だと前から二番目か三番目位。けれど足が速くて、運動神経も良い。それにいつも剽軽で、みんなを笑わせてくる。授業中でも黒板の前でおどけてみせて、先生に怒られても足を代わりばんこに左右へ持ち上げてまるで猿みたいに踊って笑っている。みんなが笑うと益々おどけたりする。女子からは「馬鹿だー」って言われたりもするけど、全然気にしていないみたい。私はいつも一番後ろの席から、少しだけ笑いながらそれを見ている。 私は大きい。