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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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#料理

「たしかに春だった」

 靴には防水スプレーをその都度吹き付ける。元々撥水性を備えたトレッキングシューズだけど、服装はじめ、装備の防水性は重要だと思う。  どこまでも山を追いかけた。いつまでも天気を気に掛けた。そうやって日一日が、今年の一日、一日が、過ぎて行く。    キラキラ光る眼は新入生のものだった。初めて歩いた川沿いの桜並木からは香しい春が流れていた。鯉もサギも鴨も、のんびりと日向を満喫していた。桜に引き寄せられて人、思い思いに並木を見上げていた。コアラのマーチいちご味をつまみ食いしながら

「どなた様もご乗車になってお待ち下さい」

 令和四年、年の瀬。今年も、遂に、ここまで辿り着きました。  年越しそばです。  数日前から黙々仕込んできたおせち料理を全て作り終え、最後に仕上げるのがこの年越しそばです。牛肉と長ネギを前日からことことさせて作った醬油ベースのお出汁が家族の集まる居間いっぱいに広がりました。さてさて、それでは、 「いただきます」  おっと、その前に。  今年もnoteで創作を続けながら、多くの御方とお会いし、温かいコメントの数々や励まし、サポート、更には長編小説をお手に取って頂きました

「里芋日記・令和四年の土と私」

2022年4月20日。  ことしの里芋の土の準備が終わりました。後から追肥と追い土をする事を鑑みて最初の土を低めにしてみたのですがさてさて。今年も無事に育つでしょうか。里芋日記、はじまります。 気候が落ち着いて、土のすぐ下では種芋たちが毎日太陽をさんさんと浴びています。見た目には全く分かりませんが、ふかふかの栄養土は布団のような物でしょうから、大変気持ちよさそうです。見た目には全く分かりませんが。 4月28日。朝。私、目覚める。そして、 にょき。 相変わらず最初の顔

「雲は群れをなして」

先日手紙に「広辞苑」と書こうとして「辞」の「辛」と「舌」を逆にして書いた時寝不足を実感しました。とはいえ便箋を一枚ロスにしてしまった事の方が悲しい事実でした。慰めに紅茶を淹れて飲みました。 皆様こんにちは 深まる秋、いかがお過ごしでしょうか。わたくし色付いた野山を陽気に歩くのも好きですけれどモフモフ布団にくるまれているのも好きです。 ええ、先月も沢山お知らせを頂きましたので、遅ればせながら10月の振り返りを行います。あなたにいつだって何度だって伝えたい。 「いつも本当にあり

「秋の彼岸に色とりどりのおはぎを」

 刷毛で伸ばしたような薄雲が広がる秋空の下、土手に並ぶ彼岸花は地元の小学生が植えたものです。小道に並んで、今年も秋の彼岸を迎えました。仕事と執筆の合間に作れるかな、どうかな・・・と思いつつ、そろそろあんこが食べたいと思います。台所で材料の在庫を確認。 もち米220gに米320g。もち米100%が好きですが在庫が無いので今日は混ぜます。はかりでグラム計算したため3合以上に。 ※一合は約150g・180CCです。 あんこ・・小豆210g、三温糖100g、黒糖3かけら、塩ひとつ

「その日焼けも勲章ね」

 じめじめの続いたお盆明け、雨あがらないかな月はまだかなと毎夜燻る空を見上げていたものですが、日曜日、ランニングの為外へ出てみれば秋の雲が敷き詰まっています。昼間の内から涼しい風が吹き、気付けば天高く、日差しも気持ちよく注ぎます。どうやら秋の入り口が見えて来たでしょうか。  そんなお休みの夜、窓を開けたままでは半袖の腕が寒いと感じる程気温が下がりました。試しに外へ出てみれば、星が散らばっています。コンビニの街灯がなければもっと奇麗に見えるでしょう。それはさておき、これはチャ

「和菓子の日に 其の二」

6月16日は和菓子の日なので、和菓子写真展を今年も急遽出す事にしました。ただ和菓子の写真が並んでいるだけです。いちが食べた和菓子の中で撮影忘れなかったものだけあります。忘れた物は胃袋の中へあります。因みにたべっ子どうぶつは違う気がしたので載せませんでした。和菓子は御褒美です。おいしいおいしい御褒美です。        いち 「ごちそうさまでした」 和菓子に栄光あれ。                        

「里芋日記」

今年の八月、こんな記事を書きました。 続編にして、完結編です。お待たせ致しました! いいえ!!仮令お一人でも正座してお待ちになると仰られたからにはっ、自分も一層気合を入れて水遣りをするのであります! 里芋を無事収穫したら随筆を書く。だからどうか無事に里芋出来ます様に。そう願いながら、その成長を見守って来た数か月です。 一番旺盛な時。九月二十日の様子です。実は数年ほど続けて、家の里芋は毎年花が咲いていました。大きな畑であっても珍しい事のようですが、家のは何故か咲いていたの

「秋の彼岸、朝霧に姿隠す名月を見た。おはぎ作る」

 春分の日は出遅れた。秋こそはと望みだけ持っていたら、もう秋だった。今度は幸いにして前回作ったあんこが冷凍庫にある。風味は劣るけれど作らないよりは幾分か気が休まる。と云う訳でおはぎを拵えた。  今回は青海苔ときな粉。中にあんこが入っている。箸で割ると顔出す。 はい、美味しい。何と云うか、顔みたいである。青海苔は美容院帰りのパーマ当て過ぎた人みたいで、見ようによってはソバージュ。奥のきな粉はむっつりした子どもみたいだ。じゃあ親子だな。 「母さんなんでそんなパーマかけると?

「小豆がぐつぐつ、ことこと、あんこに姿を変える迄、静かに筆を執っている」

 天気予報は外れて、朝から太陽の照り付ける。朝と夜とが半分ずつではない今日と云う日に、久し振りであんこを作ろうと思い立つ。打ち明けるなら、執筆の隙間。  台所に執筆の相棒を持ち込んで、鍋で小豆をじっくり炊きながら、このあんこの文を書いている。台所にはベランダへ出るようなガラス扉が二枚ある。外の風を入れるに丁度良いその扉の、網戸の在る方を開けている。レースが微かに揺らめいては、風の通りを知らせてくれる。送れて足元に涼が漂う。ドイツ菖蒲に気圧されて大きくなり損ねた今年の紫陽花が

「初物を買うと頭の中が大家族に戻ると云うお話」

 買い物へ出かけてとうもろこしに出会った。初物だ。今年も初物を追い掛けては食卓を賑わし、食いしん坊のお腹を満たして来たと思ったら、もうとうもろこしときた。先日から西瓜も見かけるし、全く、季節の流れゆく速さときたら、光よりも矢よりも速いのではなかろうか。  とは云え、出先で初物を見掛けると、妙に心がはしゃぐもので、目が合った瞬間の、と自分の方ではそう思っているのだけれど、「あ!」となった時のはにかむような喜びは、一年中いつでも棚に並んでいる市指定のごみ袋を手に取るのとは大違い