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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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#食

「牛の代わりにちょっといいですか」

 ちょっといいですか。  牛乳って子どもの頃からさも当然の様に学校給食にも出てきますし、何だかどこの家の冷蔵庫にも常備されてる風で、いつの間にか我々の生活圏に浸透して久しいですけど、ちょっといいですか。横槍入れるようで、好きな方には異論反論さまざまある事は凡そ察しも付きます。けれど、ちょっといいですか。  牛乳って牛の乳ですよ。つまりですね、母牛が子牛を育てるために生み出したと思うんです。子牛のために。ですから、幾ら栄養価が高いからとか言い募ってもですね、我々人間の飲み物

「和菓子の日に 其の二」

6月16日は和菓子の日なので、和菓子写真展を今年も急遽出す事にしました。ただ和菓子の写真が並んでいるだけです。いちが食べた和菓子の中で撮影忘れなかったものだけあります。忘れた物は胃袋の中へあります。因みにたべっ子どうぶつは違う気がしたので載せませんでした。和菓子は御褒美です。おいしいおいしい御褒美です。        いち 「ごちそうさまでした」 和菓子に栄光あれ。                        

「踊るラフランスと身と心」

果物を食べている。 今朝も季節の果物を食べている。 人へ御歳暮で送ったのと同じ果物を食べてみる。 寒さで足踏みしたけれど無事追熟できた果物を食べている。 この季節だからみかんとりんご、そうしてラフランスを食べている。 サンふじとの触れ込みであったけれど届いたのはふじだったから一層喜んで食べている。 美味しい。季節の果物ってどうしてこんなに美味しいのだろう。 朝だけじゃなくて昼も、夜までついつい食べていたら、御歳暮に果物が届けられた。 そうして別の方面からも、みかんが職場とわ

「里芋日記」

今年の八月、こんな記事を書きました。 続編にして、完結編です。お待たせ致しました! いいえ!!仮令お一人でも正座してお待ちになると仰られたからにはっ、自分も一層気合を入れて水遣りをするのであります! 里芋を無事収穫したら随筆を書く。だからどうか無事に里芋出来ます様に。そう願いながら、その成長を見守って来た数か月です。 一番旺盛な時。九月二十日の様子です。実は数年ほど続けて、家の里芋は毎年花が咲いていました。大きな畑であっても珍しい事のようですが、家のは何故か咲いていたの

「秋の彼岸、朝霧に姿隠す名月を見た。おはぎ作る」

 春分の日は出遅れた。秋こそはと望みだけ持っていたら、もう秋だった。今度は幸いにして前回作ったあんこが冷凍庫にある。風味は劣るけれど作らないよりは幾分か気が休まる。と云う訳でおはぎを拵えた。  今回は青海苔ときな粉。中にあんこが入っている。箸で割ると顔出す。 はい、美味しい。何と云うか、顔みたいである。青海苔は美容院帰りのパーマ当て過ぎた人みたいで、見ようによってはソバージュ。奥のきな粉はむっつりした子どもみたいだ。じゃあ親子だな。 「母さんなんでそんなパーマかけると?

「別に君を植えてないのに」

今年は連作不向きな君の為に、涙を呑んで、敢えて、植えなかったんだ。ただ、最後の里芋食べようとした時、これは無理だね、食べられないねってのを三つくらい、いつも里芋を植えてる元ティンパニの器へ放ったんだよね。ごみ袋には、捨てられなかったからさ。勿体ない気がしてね。 そうしたらね、遅ればせながらも、にょきにょき、日に日に、すくすく、伸びて来るやないですか。 「え?あれ、うん、育つね。すくすく、育っとりますね。君、あれでしょ、里芋でしょ」 こうしてわたしの頭の中では日々香水の歌

「小豆がぐつぐつ、ことこと、あんこに姿を変える迄、静かに筆を執っている」

 天気予報は外れて、朝から太陽の照り付ける。朝と夜とが半分ずつではない今日と云う日に、久し振りであんこを作ろうと思い立つ。打ち明けるなら、執筆の隙間。  台所に執筆の相棒を持ち込んで、鍋で小豆をじっくり炊きながら、このあんこの文を書いている。台所にはベランダへ出るようなガラス扉が二枚ある。外の風を入れるに丁度良いその扉の、網戸の在る方を開けている。レースが微かに揺らめいては、風の通りを知らせてくれる。送れて足元に涼が漂う。ドイツ菖蒲に気圧されて大きくなり損ねた今年の紫陽花が

「気になっていたあの和菓子をお取り寄せしてみる」

 元来和菓子と云うものは、文字も粋な看板掲げたる街の一角歩き訪ねて、からからと硝子戸を開け、途端にしいんとこちらの心と体に染み入る小豆やらもち米やらの香りを嗅ぎつつ、ガラスケースを覗き込んで、あれも良し、これも良し、どれを買おうと散々迷い、迷った挙句にふたつみつ、選りすぐった美しきものをほくほく顔で懐に抱きて持ち帰り、熱い煎茶など淹れて、ふうと一息畳に腰下ろせば、待ってましたと両手擦り、先ず包み紙の和紙の匂い楽しみて、取り出す折箱楽しみて、遂に開けて広がるは夢。その匂いまた目

「初物を買うと頭の中が大家族に戻ると云うお話」

 買い物へ出かけてとうもろこしに出会った。初物だ。今年も初物を追い掛けては食卓を賑わし、食いしん坊のお腹を満たして来たと思ったら、もうとうもろこしときた。先日から西瓜も見かけるし、全く、季節の流れゆく速さときたら、光よりも矢よりも速いのではなかろうか。  とは云え、出先で初物を見掛けると、妙に心がはしゃぐもので、目が合った瞬間の、と自分の方ではそう思っているのだけれど、「あ!」となった時のはにかむような喜びは、一年中いつでも棚に並んでいる市指定のごみ袋を手に取るのとは大違い