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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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#旅のフォトアルバム

「これが地球のエメラルドグリーン」

昨年9月下旬、長野県木曽郡大桑村の阿寺渓谷を歩いてきました。全ての道は次なる物語へと続く――はずだけれども、いざ足を踏み入れると、もう、なんだっていい。今、ここに居る自分。それだけが全て。 さあ、呑み込まれに行こうか 最寄り駅に着いたのが午前8時半くらい。昨日の雨模様が嘘のような晴天。朝から暑い、夏の名残りどころか太陽が眩しい。嫌いじゃない。 駅から渓谷の入口まで歩いて20分ほど。道は民家の合間を縫って歩くようでやや分かりにくい。地図を印刷して来て良かったと思う。山歩き

「深さ、ありますね 中田島砂丘」

夏は終わらない、海が見たいと浜松を訪れました。9月の初旬です。 ここのところ冒険へ出掛けようとするとお天気の神様に嫌われてきた私ですが、今日は朝から気持ち良く快晴です。どちらからいうと暑い。要するに猛暑日です。陽気な太陽が朝っぱらから「行こうぜ海!」と張り切ってくれています。私も張り切って外へ飛び出しました。 「行くぜ海!砂丘!いざ浜松へ!!」 浜松を調べてみると、遠州灘に「中田島砂丘」とありました。浜松駅からはバスが程よく出ています。これなら日帰りできます。 「よう

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー後編ー」

届けたい山形が多すぎて、三本立てになってしまった今回の旅の話。甚だ恐縮ではございますが、あなたに届け山形!ですから、御覧頂けますと幸いです。 最終日。出発の一週間くらい前に「これだ!!」と思いついた所へ行く。 山形は、果物王国で、ブドウ作りはずう~~っと前から盛んだ。つまり、美味しいワインの産地なのだ。 それからりんごが好物な私。東北制覇を目指して順番に回る中で、いつか国産のシードルと出会えないかと思っていた。行く先々で探しはするものの、元来お酒を飲まない人だから早々見

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー前編ー」

それじゃあ語ろう、山形の続きを。 2023年7月、山形は高瀬地区の紅花まつりを訪ねるため、私は2泊3日の山形旅へ出掛けた。愛しの紅花については既に存分に語ったので、今日は2日目の山寺の話をしよう。 芭蕉の句でも有名な「山寺」。正式名称は「宝珠山立石寺」という。私が初めて訪れたのは、昨年11月で、今回は2回目となる。一応下に前回の訪問を紹介します。 さて、山寺駅のホームへ立つと、すっかり夏色に衣替えした山寺を抱くお山が目の前へ聳え立っている。あれへ今から登るのかと思うと、

「あの日タエ子が触れた紅花はここにあった―山形・高瀬の夏に染まる旅」

2023年7月 梅雨の明けきらない山形にて 念願の紅花畑へ降り立つ。 触れてみたくて手を伸ばす 硬くとげのある葉が、チクリと私の肌を刺激した。 「そうか、これがあの日タエ子が触れた紅花の生きた感触か・・・」 痛くて、嬉しかった この夏のはじまりに、私は一つ夢を叶えました―― 小学生の頃、スタジオジブリの映画「おもひでぽろぽろ」を見て、紅花を知った。見てみたいなあとぼーんやり思っていた。 いつか見てみたい。は、大人になりかけて、 見に行ってみたい。に、変わっていた。

「山寺に晩秋を訪ねて」

 山形新幹線へ乗って我が愛しの山形県を訪ねた。東北の秋はもう終わりに近付いて、そろそろ冬支度の気配がうかがえる、さる十一月の事だ。  休暇の都合で一泊二日の短い旅ではあるけれど、的を絞れば十分に楽しめると思い、今回は不図思いついて山寺を訪問する事に決めた。調べてみると紅葉が楽しめる良い季節だとあって、なんていいタイミングだろうと出発前から巡り合わせに感謝した。私にとって山形は憧れの土地なのだ。なにしろ紅花がある。果物王国でもある。知る程に魅力の詰まった場所のようで、そこへ降

「奥入瀬渓流の後先」

青森の旅を語りたい。語り尽くせなかった青森の旅の、奥入瀬渓流の後先を語ろうと思います。ビュッフェで食べた林檎のデザートを添えておきますので、こちらを味わいつつ御覧下さいませ。 五月に行った二泊三日の青森旅は、天気の移り変わりが目まぐるしかった。風がとても強く、空が奇麗で、自分の家の周辺と比べてみると、季節を半月ほど遡ったように、見頃の躑躅、菜の花の群生、息の長いたんぽぽ、水仙、旺盛な藤棚、水路へ盛んに広がる大きな葉は何だろうか。そうかと思えばわが家のと同じ菖蒲も咲いている。

「歩く、深呼吸、奥入瀬渓流」

全長約70kmの奥入瀬川。その上流、十和田湖子ノ口から焼山までのおよそ14kmを、奥入瀬渓流と呼ぶ。青森県、岩手県、秋田県にまたがる十和田八幡平国立公園内にあって、国指定の特別保護地区であり、天然記念物である奥入瀬渓流は、敷地内への植物・石等の持ち込み、持ち出しの一切禁止された、国内有数の水と緑溢れる大自然である。 いつになく肌寒さの残る五月某日、いつかの再会を冀っていた奥入瀬渓流を訪れる機会を得た。初めて彼の地へ足を踏み入れたのが2019年の9月であり、まさかこんなに早く

「先生、書生のいちがお邪魔します」

 愛知県犬山市にある「博物館明治村」へ行って来た。それは秋も深まる休日の、風の穏やかな日の事であった。いつか行ってみようと云いながら、長い事訪ねないまま幾年過ぎて、危うく今年も触れないままに終えてしまう処であったのだが、とあるきっかけから、半藤一利著「漱石先生がやって来た。」を読み、愈々訪問の決意固めて、足を運んだのである。  何しろ私が明治村を訪ねたかった理由と云うものはただ一つ、先生の家へ訪問する事にあった。旧夏目漱石邸を訪ねてみたい、それだけが動機であると云って間違い

「住宅街の坂道を登ると、日本民藝館があった」

「民藝」  今や人々の耳にもすっかり馴染みのある言葉だろうと思う。それはどんなものですかと人の問えば、朧気にも頭の中へ何かしらの民芸品を浮かべる事が出来るのではないだろうか。去る秋の日、私はこの「民藝」について、より深く学べる場へ足を運ぶ機会を得た。  十月某日、雨。自分は何か悪い事でもしただろうか。と空へ訊ねたいほどの土砂降りである。駅までたった五分、その間にズボンの裾から脹脛まで、リュック、ジャケット、全部濡れた。朝ごはん用に買ったおにぎりとパンは無事かが気になる。濡れ