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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2023年2月の記事一覧

「春待つ時、万物は等しく寒さに身を竦める」

身の回りに於ける人とのかかわりの中で、色々と思う事があった。長らく長編小説の執筆に思考のほぼ全てを傾けていたから、頭の切り替えに、そして頭の体操になった。時々こうして人間らしい苦悩や煩悶を目の当たりすることで、自分も人間社会に生きる一部なんだなと思ったりする。 それは自分が決して悩まない人間という訳じゃないけども、元より与えられた命を生きているこの身であるから、心底悩んでいるようでいて、それを俯瞰する自分も自覚しているのである。 例えるならば、「人生」という船のオールを握

「こわれた」

偽物だった。 わたしがつかまえた月は偽物だった。 だから今日の夜空には月が煌々と輝いています。                           いち この月と、競演しようと思ってたのに・・・ 点と点は木星と金星。三日月と一緒に二月の夜空を彩っていました。

「つかまえた」

月をつかまえた。 私は遂に、月をつかまえた。 だからごめん、今日の夜空に月はありません。                             いち

随筆「躍り出る雀」

 寒さに首を竦め、ストーブで指先を温めながら、小説の推敲の傍らでこんな日々を暮らしている。 「亀の読書」  出勤中の車内はできるだけ読書の時間に充てたい。だが新聞も読まねばならない上に、左から太陽がこれみよがしに温めてくるから眠気と戦う羽目になって中々一冊を読み終わらない。これは読書の時間というより、本を持つ時間なのだろうか。そんな馬鹿な真似をしているけどもページは確実に、はらり・・・はら、りと捲れている。今持っているのは先生の「虞美人草」だ。 「虞美人草」は愈々の終盤

「要救助者発見!周囲の安全確認をして救助を開始します!!」

 自宅にいるときは近所の病院、または交番。職場なら近所の交番にある。  自分の居る場所から一番近いAED(自動体外式除細動器)の場所を、私は無意識に確認している。  数年前、AEDの使い方を教わりたくて、地域の公民館で開かれる救急救命講習に参加した事がある。救急救命講習と言えば学生時代、心臓マッサージや人工呼吸の方法を教わったものだが、随分昔のことで、人命救助の適切な処置方法も年々変わっている。AEDの普及もその内の一つかと思う。  そもそもAEDとは何か。簡単に言

「活動時間」

私の活動時間は一日19時間から20時間だ。その内ウルトラマンの3分に相当するところは大体3時間だ。 ウルトラマンの3分ってなんだよという方の為に補足すると、一日の活動時間の内で、ものすごく集中している時間、つまり、その日の自分が最も良いパフォーマンスをみせる時間の事である。 因みに本物のウルトラマン・・・本物のウルトラマンってなんだかよくわからないけれど、本物のウルトラマンの3分は、地球での活動可能時間だ。それ以上はプラズマなんとかが無くなるから戦えないんだって。 ウル

「子どもの矜持」

 昨年末のこと、職場で珍しく小さな子どもと接する機会があった。子どもを前にすると、お客様のお子様であると身構えるよりも子どもの相手をしたい気持ちが先に出て行ってしまう。自然と世話を焼きそうになる。同じ目線で遊びたくなる。  その時の子どもは3人。人見知りしない子ども達で、一番小さな子どもは言葉を覚え始めたところだろう、幼子の標準装備として両手にお気に入りのおもちゃを握って来た。ミニカーより大きいサイズのダンプカーと、ワンワンだった。ワンワンはダンプカーに乗れる。私にお