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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2022年6月の記事一覧

「地球の呼吸、回るパラソル」

『 揺れて紫陽花 月と太陽 雲隠れ   空惚ける雨童 天邪鬼   今日も前線 綱渡り   気まぐれに降らない 私が傘を持って出たから                       六月の溜息・いち  』  皆さまこんにちは お足元の悪い中、お越し頂き誠にありがとうございます。六月の振り返りのお時間がやって参りました。それではどうぞこちらへ。あ、そこ、水溜りにお気をつけ下さいませ。  といかにも梅雨らしく始めたかった六月ですが、梅雨明け出された地域も多く、暑い日差しを躱しな

「奥入瀬渓流の後先」

青森の旅を語りたい。語り尽くせなかった青森の旅の、奥入瀬渓流の後先を語ろうと思います。ビュッフェで食べた林檎のデザートを添えておきますので、こちらを味わいつつ御覧下さいませ。 五月に行った二泊三日の青森旅は、天気の移り変わりが目まぐるしかった。風がとても強く、空が奇麗で、自分の家の周辺と比べてみると、季節を半月ほど遡ったように、見頃の躑躅、菜の花の群生、息の長いたんぽぽ、水仙、旺盛な藤棚、水路へ盛んに広がる大きな葉は何だろうか。そうかと思えばわが家のと同じ菖蒲も咲いている。

「そっか、みんな道具と仲良くなりたいんだな」

 休日に本屋へ行った。探していた本は生憎の在庫なし。だが代わりに、背表紙見掛けてはっとする出会いがあった。手を伸ばす前からこれは好きだと直感的に思った。  見るからに自分好みの本だ。レシピではなく、お台所の道具と料理に纏わる話が、素敵なイラストや写真と共に十二カ月の四季を通じて丁寧に語られている。読み物としてもそそられ、道具と料理の世界の一層深い知識を教わるにも良い本だ。きっとそうに違いないと、中をちらっと拝見しただけでわくわくした。  持参した図書カードは二千円分。気に入

「和菓子の日に 其の二」

6月16日は和菓子の日なので、和菓子写真展を今年も急遽出す事にしました。ただ和菓子の写真が並んでいるだけです。いちが食べた和菓子の中で撮影忘れなかったものだけあります。忘れた物は胃袋の中へあります。因みにたべっ子どうぶつは違う気がしたので載せませんでした。和菓子は御褒美です。おいしいおいしい御褒美です。        いち 「ごちそうさまでした」 和菓子に栄光あれ。                        

「長い旅になる」

 物語の旅は長い。歩いても歩いても道は続く。だが立ち止まってもいいし、途中で引き返しても良い。ひたすら先へ進むのだって無論のこと構わない。物語の旅は、要するに自由なんである。  本を広げて寛ごうと思うと、他の作業は片付いただろうかと周囲を見渡し、気懸かりがなくなってからでないと、さてさてと向き合う気になれない自分である。だがそうして漸く広げたページの狭間へ思考がすとんと落ちるのは早い。文字を追う程に加速して、その他一切を忘れている。そしてそんな物語に出会えること自体が喜びで

「圧倒的つめつめ五月」

 皆様こんにちは 梅雨入り前のいちです。列島に前線が掛かる日もー・・・等と書いて過ごすうち、掲載前に続々梅雨入り始まりました。然しじめじめしている暇はありませんっ、仮令足元泥濘んでいようとも、前から雨風ぴしゃり顔叩こうとも、紫陽花の如く凛と背筋を伸ばして、厚い雲も突き抜けるように真っ直ぐに思い届けます。そう、雨だって恵みの一つ、喜んで受け取る事に致しますとも。と云う訳で雨上がりのわが家の紫陽花をお届けしました。奥ゆかしいじゃあありませんか。  さて、自分にとり執筆中の長

「歩く、深呼吸、奥入瀬渓流」

全長約70kmの奥入瀬川。その上流、十和田湖子ノ口から焼山までのおよそ14kmを、奥入瀬渓流と呼ぶ。青森県、岩手県、秋田県にまたがる十和田八幡平国立公園内にあって、国指定の特別保護地区であり、天然記念物である奥入瀬渓流は、敷地内への植物・石等の持ち込み、持ち出しの一切禁止された、国内有数の水と緑溢れる大自然である。 いつになく肌寒さの残る五月某日、いつかの再会を冀っていた奥入瀬渓流を訪れる機会を得た。初めて彼の地へ足を踏み入れたのが2019年の9月であり、まさかこんなに早く

「五月晴れに身近な幸運を拾う」

 庭のぐみが真っ赤に熟した。今年も鈴なりで、鳥にも遠慮なく食べて欲しいが、明日は雨予報が出ているから今朝少し収穫してみた。先ず一粒、その場で軽く表面を払って口の中へ。薄皮が忽ち破けて甘酸っぱい果肉が舌の上へ広がる。皮に残る自然物の渋さと、木で熟したぎゅっと濃い甘味。みるみる力が湧いて来る様だった。口に残った細長い種をぽっと出した。  薫風庭先を撫でる。愈々緑溢れる日々が始まりを告げたのだ。青い空を横切る様に、蜘蛛の巣が宙を泳いでいた。  去る五月、長編小説推敲の傍ら、こんな