【ネタバレあり】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
そうだね…ネタバレありで書きたいですね…タイトルにある「巡礼の年」はリストの作品に由来しているらしい。
物語とも深くリンクしている。
主人公、多崎つくるくんは20歳の大学生。
開幕早々、猛烈に自殺を考えている。
つくるには4人の親友…アカ、アオ、シロ、クロがいた。
それこそ、5人でひとりって言ってもいいくらいの仲だった。
アカアオが男性で、シロクロが女性。
しかし高校生時代、つくるは4人から唐突に絶交を言い渡される。
理由を聞いても答えてくれない。
つくるが凹んでいたのはそのことだった。
考えても考えても、嫌われる心当たりがない…それから4年ほどは、つくるは自殺のことしか考えられなかった。
なんとか持ち直し、そして…16年の時が経った。
ものすごい経ってんだけど…36歳になったつくるは鉄道会社に勤めており、彼女もできて、ちゃんと生きることができていた。
偉い!
さて、ある日のこと。
つくるは彼女の沙羅ちゃんとの会話をきっかけに、4人の親友と一人ひとり再会することを決意した。
つくるの巡礼が始まる。
という話だった…ちょうど真ん中くらいにさしかかった時、一度物語の核心に触れる。
しかしそれによって、もっと謎が深まる。
彼女の沙羅ちゃんが本当にいい。
彼女がいなかったら話が動いてない。
「記憶を隠すことはできても、歴史を消すことはできない」。
「努力すれば解消できたかもしれないすれ違いを、努力しなかった。それを残念だと思わないの?」とつくるに声をかけた後、沙羅ちゃん自身がアカアオシロクロを調査するなど。
そうして最初にアオと会ったつくるは、高校生時代にアカアオシロクロがした「つくるをハブる」という判断の理由を聞くことになる。
おそらく物語とは直接関係ないと思われるおしゃべりや、つくるの考え事などを描写するシーンがたくさん…さて、ネタバレだ。
16年前のある日、アカアオシロクロの4人が集まっていた。
その日のシロは非常に荒れていた。
「つくるくんに強姦された」と嘆くシロ。
アカアオクロ、全員(つくるがそんなことをするわけがない。シロは何を言ってるんだ?)と思う。
しかし、わかってきたのは
◯シロが誰かに強姦されたのは事実
◯その犯人がつくるではないのも事実
◯その上でシロが、犯人はつくるだと誤解してるのも事実
ともかくシロを落ち着かせましょう。
つくるくんには一旦離れてもらいましょう。
そういうわけでつくるは弾かれたのであった。
もちろんつくるには事情を伝えるべきだけど、みんな「その余裕がなかった」とか「言うタイミングを逃した」とか言うのであった。
つくるもつくるで、16年もその傷跡を、訳もわからないまま引きずっていた。
お前らさあ…【念のため一声かけておく】とかしないわけ!?!?
アオ、アカ、そしてラスボス…クロちゃんと順番に会い、和解していくつくる。
灰田って後輩も出てきたけど、あの子は何?
さて、ある日つくるは、沙羅ちゃんがかなりダンディな男と手を繋いで歩いているのを、遠くから目撃。
そもそもつくると沙羅ちゃんは体の関係を持ち、コミュニケーションもするけど、恋人というわけではなかったので。
ああ、沙羅…そんなふうに笑うんだな…となるつくる。
めちゃ凹みました。
つくるお前さあ…
クロちゃんとの大切なやり取りをしたつくるは、シロとクロの関係性を知る。
2人はほぼ家族みたいなものだった。
強姦された以後のシロは悲惨極まる人生だった。
子を宿したシロは、産むことを決意。
しかし、流産。
シロは壊れてしまった。
それでもなんとか持ち直したりしつつ、クロは献身的にシロを支え続けていた。
正直いうとクロちゃんもぐったり。
フィンランド人の夫とフィンランドに移住し、そこに骨を埋めることにする。
その後、シロちゃんは何者かに首を絞められ、殺された。
シロちゃんは10人が見たら10人が好きなる、清楚で魅力的な女性だった。
そして…クロちゃんは学生時代、つくるに想いを寄せていた。
巡礼を終えたつくるはフィンランドから帰国する。
その時、つくるとハグをしたクロちゃんから
「あなたは色彩を欠いてなんかいない。あなたはカラフルな多崎つくるよ」
と声をかけられる。
それと沙羅ちゃんについてもクロに相談してみたところ、
「あなたは沙羅ちゃんを手に入れなさい。怯えも、くだらないプライドも捨てなさい」
ということで、最後の話し相手は沙羅ちゃんだ。
つくるは沙羅ちゃんに会う約束をした上で、
「君が他の男と付き合ってるんじゃないかって思いながら、このままでいるのはつらい」
と言うつくる。
これでもう、引き返せない。
沙羅ちゃんに会う予定日の前日、つくるはカフェレストランとかで適当に食事をして、ビールを飲む。
そしてしばし、思案する。
これまでのこと…
(新宿駅の朝ってなんでこんなに混むんだろう?)
けっこう無駄なこと考えてない!?
ともかく、明日、沙羅ちゃんと会う時にいろいろ変わる…完。
謎が…謎のまま…シロちゃんを強姦した犯人も、殺害した犯人も、わからないまま。
そこは本題ではなかった。
アオは車のトップセールスマンになり、アカはビジネスで成功し、クロはフィンランドで幸せに暮らしている。
つくるもちゃんと生きている。
けれど、シロが壊れたことをきっかけに…仲良しグループは疎遠になり、そして時が経ち、元には戻らなかった。
【時が経ってしまった】というのが大きなテーマのように思いました。
沙羅ちゃんとの関係性はまだ取り返しが効くかもしれない。
そういう状況で終わる。
36歳になったつくるくんも巡礼してよかったと思う。
遅くても、動かないよりは状況は良くなった。
シロちゃんは「壊れてしまった美しい絆」みたいなものの象徴なのかもしれない。
クロはフィンランドから日本に帰るつもりはないという。
そして、アカ、アオ、つくるの3人で仲良しになってと言った。
つくるは「そうなるようにする」と言いつつ、もう一生会わないんじゃないかって思っていたりする。
比喩的な表現が美しい作品だと感じました。
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